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異能探偵社の新参者  作者: nasa*
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第二十三頁 【一心同体 ③】


 渾身の一撃。

 禅十郎の頭を確実に捉えたその一撃は彼を軽々と吹き飛ばし壁に叩き付けた。

「ッ!!!!」

 崩れ落ちる禅十郎に花が言葉にならない悲鳴を上げ、駆け寄る。

 桃矢が取り出した端末から明かりが漏れて空間を照らした。花が降らせていた雨ももうやんでいる。

「…………」

 禅十郎に近づく桃矢に気づき、しがみつくように座っていた花が憎悪の目を向けた。

「花ちゃ……」

「触らないでッ!」

 花の泣きそうな叫び声に桃矢は伸ばした手を引っ込めた。花の周囲で空気が揺れるが桃矢は静かに言う。

「……無駄だよ。花ちゃんの異能は人を殺すものじゃない」

「だって……、だってぇ……」

 震える声で言う花の頭にそっと手がそえられた。

「は、な……」

「!!」

 目を開けた禅十郎に探偵社の面々が身構えるが、桃矢の攻撃のダメージは想定以上に大きいらしい。

「ぜんじゅうろう!!」

 悲鳴のように名前を呼ぶ花に禅十郎は弱々しく微笑んだ。

「はは、花ちゃんに…心配してもらえる、なんて、ね」

「バカぁ……」

「あはは……」

 そういって笑うと一瞬禅十郎の目に強さが戻った。

「!!?」

 不意に禅十郎自身の影が蠢き、桃矢に向かって槍のように伸びた。が、その影は桃矢に届く前に煙のように消えた。

 驚いて振り返ると背後で紅魅に支えられた鷹人がニヤッと笑っていた。

「…………残念でした」

 その言葉に禅十郎もハッと笑った。


「ったく………面倒な異能だよ……」


 その言葉を最後に禅十郎は気を失った。

 戦意を喪失した花と桃矢たち一向を不意に明るい光が照らし出した。


「終わったの?」

 見れば入り口に明かりを持った牡丹が立っている。

 あの烏の羽根は消え失せ、いつも通りの姿だ。

「あぁ……、身体は痛くて仕方ないけどね」

「た、鷹人さん。大丈夫なんですか」

 紅魅に支えられている鷹人に桃矢は不安そうに声をかけた。

「生きてるよ。肋骨は何本か逝ってるかもしれないけど」

 軽く言ったが紅魅に脇腹を小突かれるとさすがに呻き声を上げた。

「っ……。紅魅ちゃん、もっと優しく扱ってもいいと思うよ……?」

「生きてるだけありがたいと思いなさい」

「……」

 力なく頷く。やはり骨にひびが入ったか、折れたらしく歩こうとして激痛に思わず顔をしかめた。

「あの、他の人は――――!」

 牡丹に聞いたがその背後から見慣れた顔が現れた。



「なんだぁ、戦闘なしなんですかぁ」

「ないにこした事ないっすよ、俺なんてずっと追いかけっこですよ?」


「創平!潤さん!」

 嬉しそうに言うと潤の顔が若干膨れた。

「なに、 そのよくご無事で、みたいな声。簡単に死ぬと思ってたぁ?」

 桃矢の頬にそえられた手に危険を感じて桃矢はブンブン首を振った。その様子を玩具を見つけた猫のように睨め回すが修兵ににらまれたのでなにもしなかった。


「まぁ、二人とも陽動お疲れ。上手く掻き回せたみたいだな」

「楽しかったですよ」

 修兵の言葉に潤は満足そうに笑った。

「俺も褒めてくださいよ。俺のおかげでより楽にやれたんすから!」

「牡丹さんの手伝いもあったからでしょ」

「そっれはっ!」

 しどろもどろになる創平に思わず皆の顔に笑みがこぼれた。



                         ■□



 聞こえてくる()に徹は微笑んだ。

「どうにかなったみたいですよ」

「そうか……、ならよかった」

 そばにいた大地も一息つくように笑う。

 が、その平穏は屋根から降ってきた影によって中断された。

 軽い衝撃とともに目の前に着地した人物を見て大地は顔をしかめた。


「盗み聞きか、悪趣味だな」

「…………」

 徹が言葉を投げた相手、路佑は牛頭馬頭(ごずめず)で強化された身体を伸ばしながら大地達を見据えた。

「よくもやってくれたな……」

 言葉少なだが路佑から発せられる殺気には彼の怒りが込められている。

 大地達がいたのは連絡地として設定した路地裏。徹の異能が届く範囲を選んで潜んでいたのだが、場所は少し高い建物に挟まれた路地裏の少し開けた空間。出入り口は小さな通路一つのみで、路佑は屋根を伝いその通路を断つ事で大地達に逃げ場をなくしていた。

「終わりだ……」

 しかし、体格で一回り以上も劣る徹は路佑の言葉に全く臆しなかった。それどころか薄い笑みを浮かべている。

「確かに、終わりだな」

「あ………?」

 聞き返すのと同時に路佑の左足と右脇腹に激痛が走った。



                         ■□



「あの野郎……姑息な真似して消えやがって……」


 赤髪を乱しながら(ほむら)は動く事も出来ず廊下に立っていた。

 周囲の壁には焔の放った刃が突き刺さり、確かにそれも十分危険なのだが、焔が動けないのはそれではなく、自分の周囲に仕掛けられた罠のせいだ。

 潤の異能によって仕掛たトラップで、この周囲には無数の見えない刃が浮かんでいる。切れ味抜群の爪だ。下手に動いて動脈を切断しようものなら死ぬ。 

 自分の刀で砕こうにも標的が見えないのでは当てずっぽうにしかならない。いくつかは砕いたがそれですべてなのかもわからない。


「あのアマ……」

 沸々と体内で怒りと殺気が渦巻く焔。そんな焔に一人の女が近づいた。

「無様ですねぇ、陣刀さん。痛ッ!」

 動くたびに悲鳴を上げながら近づく斑に焰は眉をひそめた。

「斑ぁ。なんのようだぁ」

「いや、痛ッ。迷子の人がいたんで、イッタ!ちょっと道案内を……」

「道案内だぁ?」

 妙に落ち着いている同僚に焔は聞き返した。

 とにかく斑にトラップを全て取り除かせようと口を開いたが斑の背後から現れた一団を見て停止した。


「やぁ、やぁ。随分お困りのようですね」

 黒い制服を纏った男__軍警察の男を見た焔はその姿に気づくと殺気を強めた。

「てめぇ!!斑!裏切りやがったのか!?」

「え!?え?」

 焔の怒号に混乱する斑を見て、 茶髪の若い軍警の男はヘラッとした笑みを見せると焔に触れた。

「おい……」

「怒らないでくださいよ。彼女ちょっと記憶が混乱してるみたいでしてね、こちらから案内をお願いしたんです。…………本当に助かりました」



                         ■□



 激痛に動きが鈍る路佑の額に冷たい銃口が押し当てられた。

「異能の使い過ぎで鈍った脳じゃ、なにが起きたかわかんないだろうけどさぁ」

 徹はフッと笑った。

「こんな狭い路地で上から軍の優秀な狙撃手に狙われたんじゃ避け用がないと思わない?」

 挑発的な言葉に路佑は徹に殴り掛かろうとするがその攻撃はあっさり避けられた。


「思考が隠せないようじゃ俺には攻撃出来ないよ」



                         ■□



 雪崩をうってはいってきた軍警に桃矢は驚いて修兵の影に隠れた。


「軍警!?なんで」

「なんでって通報したんだよ。裏組織の取り締まりは軍警のお仕事だからなぁ」

 なんだか棒読み口調の修兵の前に他の警官を引き連れて大貫と詩音が近寄ってきた。

「ちょっと、君ら……」

 桃矢達を見つけ、明らかに機嫌が悪い詩音が何か言おうと口を開いたがそのまえに大貫側って入った。

「ったく、ものの見事にやってくれたな。お前ら」

 怒ったような呆れたような声に一同は小さく笑った。

「ちょっと大貫さん?」

 暢気な上司に詩音が何か言おうとしたが大貫に無言で圧力をかけられ黙った。


「俺が散々釘を刺したにもかかわらず、アジト急襲して、裏街で爆破騒動だぁ?」

 爆破騒動の原因である牡丹に皆の視線が集中したが当の本人はどこ吹く風だ。

 察した大貫はため息をつく。


「まぁ、無事【亡霊(レムレース)】は検挙出来たし、上も上機嫌だ。今回はなにも見なかった事にしてやるよ」

「偉そうに……」

「うっさいぞ、創平!」

 そう言って煙草をふかすとさっさと行けというように手を振った。


 詩音が桃矢たちを表まで案内する事になり、不機嫌ながらも皆を先導した。

 すでにアジト内には多数の軍警が入り乱れ、多くの構成員は拘束されていた。

 その中に自分を睨みつける小夜を見つけて桃矢の心がざわついたが頭を振って忘れる。

 そんなことをしたから角を曲がってきた男とぶつかった。


「あぁ、すいません」


 そう言ったのは茶髪の若い軍警の男だった。

 しかし、桃矢や他の探偵社の面々に気づくと一瞬不快な表情を見せたがすぐにそんな気配すらなくなった。

「白縫さん。表の方片付きました」

「えぇ、誰かさんのせいで余計な手間がかかりましたが」

 チラッと潤を見たがすぐに巡査の男はなんでもないように詩音を見た。

「おかげで楽に出来ました。まぁ、あいにく生きては捕まえられませんでしたけど」

「あ?」

「そう簡単に捕まえさせてくれませんでした。御愁傷様。……でも犯罪者なんだからどうでもいいですよね」

 その言葉になにか感じ取った詩音の顔が曇った。


 しかし、会話を聞いていた牡丹がわざとらしくため息をついた。

「まぁた、いつもの”癖”ですか、お巡りさん(・・・・・)

 皮肉めいた口調に喜八郎は薄ら笑いで答える。

「何の事でしょうね。では、あとは下っ端が片付けますので」


「とんだ危険人物だね」

 牡丹はそう言うと桃矢を引っ張るように歩いていった。


 その後ろ姿を影から見ながら喜八郎は作り笑いを消し去るとイライラと唇を噛んだ。

「……異能探偵社、鬱陶しいなぁ」

 そうしてサッときびすを返すと獲物を探すように喧噪の中に消えていった。



                         ■□



「よぉ、いい眺めだな」


 連行されていた禅十郎はアジトから出るとそんな言葉で迎えられた。

 見れば軍警に混じって白衣姿の無精髭の男がニヤッと笑って禅十郎を見ていた。


「とうとう捕まったか」


「黙れ……殺し屋」

「それは言うなよ。今は当麻軍刀(とうまぐんと)って名前のただの町医者なんだからよ」

 【亡霊(レムレース)】の母体組織であった【(シェイド)】で禅十郎と同じく幹部だった男――当麻軍刀はその言葉にヘラッと笑った。

「そう怒るなよ。昔は可愛かったのになぁ」

 からかうような言葉に禅十郎の殺気が増すが、軍警たちに突きつけられている拳銃でなにもしなかった。当麻は探偵社とだけでなく軍警ともなじみなので特になにも言わない。


「なんのようだ」

「俺は医者だぜ?愛しのハニーに頼まれて馬鹿共のために出張だよ。ついでに昔の部下の治療」

「いいのかそんなことして」

「軍警の上の方は、お前を生きたまま尋問したいらしいからな」

「…………」

「ったく、餓鬼の頃からあの人の信奉者だったもんな、お前。それであの人がいなくなったあとの居場所探すうちに自分が【亡霊】になってた訳か。その割には随分裏で好き勝手やってたな」

「……。なんで……軍刀…さんはあの人を奪われて平然としてられる」

 睨まれながら聞かれた言葉に当麻は肩をすくめただけだった。

「元々俺はそこまであの人に執着出来なかった。それだけだよ。あんな壊れた組織いられない。【影】は光が当たった時点で消える運命だったんだよ」

 ふっきったような言葉に禅十郎はしばし黙り込んだ。


「……あんた変わったな」

「今は愛に生きてるからな」

 当然のようにかえされた言葉に殺意が湧いたが、当麻に強く肩を叩かれ抑えた。あまり痛みがないのは当麻がある程度の傷を治療したからだろう。


「まぁ、俺も軍警の言いなりになるのは癪だ。だから……」



                         ■□



 連れて行かれる禅十郎を見送ると、当麻は丁度やってきた桃矢たちを捕まえた。

「ほら、そこに座れ馬鹿共」

「馬鹿はないっすよ!」

 創平の抗議の声も当麻の拳骨で黙らされた。


「ったく、てめぇらもともと頑丈なんだから俺の異能使ってやる価値もねぇ」

 乱暴に言いつつも鷹人らの重傷部分は的確な処置を施す。【万死一生(ばんしいっしょう)】どんな外傷でも癒すことの出来る珍しい治癒系の異能だ。

「そういえば、禅十郎さんと知り合いなんですか」

「ん? ちょっとした顔見知りだ」

「よぉ、生きてるか?」

 はぐらかす当麻に首を傾げたが、ちょうど大地らが到着したのでその考えは中断する。

「バカヒトがちょっとした怪我したぐらい」

「紅魅ちゃん。肋骨骨折はちょっとした怪我じゃないからね」

「そのまま背骨折って永遠に入院したがどうですか?先輩」

「サラッと死んでるよね」

「修兵先輩も桃矢くん帰ってくるから人手は大丈夫ですよ?」

「潤、それはあまりにも……」

 太一が諌めるがその言葉は牡丹の声で消された。

「とにかく。非番なのに働いて疲れた!帰りに【猫の目】でご飯食べましょ」

「いいですね」

「迷惑かけたんだから桃矢のおごりね」

「え、あの……」

「だったら【猫の目】よりも高いお店にしましょうよ」

「ば、【猫の目】でいいじゃないっすか!」

「あらぁ、何焦ってるの創平」

「露人が好きだからだろ」

「し、修兵さん!!!」

 サラッと言われ創平の顔が赤く染まった。

「え、そうなの!」

 嬉しそうに言う紅魅に太一がため息をついた

「わざとらしいよ、紅魅。知ってたくせに」


「まぁ、そう言うわけなら行くしかないね」

 牡丹はそう言うと嬉しそうに桃矢の背中を叩いた。

 まだ完治してない傷に響いて思わずうめき声を上げるが、歩き出す探偵社の面々についていけずに立ち止まった。

 その様子に気づいて皆が振り返る。

「どうした桃矢」

「あ、あの俺、探偵社で働いて……」


「なにごちゃごちゃいってんの?さっさと帰るよ」

 鷹人の声に桃矢は少し沈黙してから満面の笑みを浮かべて皆の後を追った。



「はいっ!!!!」

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