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異能探偵社の新参者  作者: nasa*
12/25

第十二頁 【急転直下 ②】


「だ、大地さん!」


 首筋を強打し意識を奪った路佑の両腕を拘束する大地に、桃矢が駆け寄った。肝心の大地は息は上がっているが傷など負っていないかのように平然としている。

「こいつは軍警に引き渡すぞ。ホントは殺したいとこだけど。聞きたい事もあるからな」

 サラッと怖い事を言う。しかしそれより、


「あの、だ、大丈夫なんですか」

 みるみるうちに治っていく傷を横目で見ながら桃矢は聞いた。

 七瀬の言う事が正しいなら異能は、制限時間がくれば解除される。そういった使用制限のかかる異能はすぐにまた使うことは出来ないはずだ。

 しかし、大地はなんでもないというように笑った。

「あいつの時間の計り間違えだろ。問題ねぇよ」

 ガシガシと頭をなで、廊下の怪我人を見に行った。落ち着いたことで看護師や見舞客が怪我人を運んでいる。

 幸い出血は派手だが死者はいないようだ。


「すごいですね、大地さん……」

「大丈夫じゃないよ……」

 機敏に動く大地を見ていた七瀬がぽつりと呟いた。

「え?」

「大地さんの異能は普段脳で制限されてる身体能力を100%使う能力でもあるの。けど普通あの能力で動こうとすれば筋繊維が痛んで身体が持たない。だから同時にある回復能力でそのダメージも受けた攻撃も相殺する。けどそんなこと長時間は出来ない。だから使用制限があるの。通常は5分を超えたら使えない」

「でも今__」

通常なら(・・・・)。……代償をかける事で能力の持続時間を延長出来る」

「……代償?」

 七瀬はそこでいったん言葉を切る。迷いながらも口を開いた。

寿命(・・)

「……!」

 その言葉で桃矢は黙った。


「あんな人だから無茶ばっかり。(まどか)さんの時だって……」

 そこで七瀬は言葉を濁した。


「おぉい、七瀬ちゃん。こっち頼む」

 なんともないように呼ぶ大地に七瀬も表情を引き締める。思わずそんな彼女の頭をなでていた。

「お、俺も手伝うよ。当麻先生は――――」

 そこまで言って桃矢は先ほどの当麻に突きつけられた言葉を思い出した。

 路佑に言われた言葉も。

「……」

 黙り込んで立ち止まっている桃矢のもとに心配そうに大地が近づいた。

「どうした?気分悪いのか?」

 心の底から心配しているその表情を見て、桃矢は心を決めた。

「大地さん、実は俺____」



 全て話した。

 【幽霊(レムレース)】に所属していた事も。そこで暗殺を行っていた双子である櫻の存在も。

 早口でまくしたてる桃矢の言葉を大地は黙って聞いていた。

 怖くなって逃げ出して。途方に暮れていたところに鷹人と出会い、ここなら隠れ蓑になるという打算もあって探偵社に潜り込んでいた。

「俺。騙すような事してて……ホント」

「だからなに?」

 言葉に詰まった桃矢に対して大地はあっさり言い放った。


「桃矢が【亡霊(レムレース)】だった事とか、過去なにしてたとか俺は、というか探偵社の連中は誰も気にしないと思うよ?」

「でも、俺……殺人組織の一員なんですよ!?」

「桃矢はそれが嫌で抜けようとしたんだろ?」

 そう言って倒れている路佑を示す。


「それに、今は桃矢は【異能探偵社(・・・・・)】の人間なんだから」

 桃矢の悩みなど真っ向から壊すような言葉と笑顔。

 いままでそんな言葉などかけられた事なんて無かった。無意識のうちに目から涙が零れ落ちる。

 黙ってしまった桃矢の肩を軽く叩くと、大地はフッと笑みを見せて怪我人達の移動を手伝いに戻っていった。


「平気?」

 そばにいた七瀬が心配そうに下から桃矢の顔を覗き込んだ。

 桃矢はあわてて涙を拭くと顔を上げた。

「うん、大丈夫!俺も手伝うよ」

 その吹っ切れたような表情を見て七瀬もフッと顔をほころばせた。

「じゃあ、お願い! こんな時に先生ったら、どこいっちゃったのかな……」

 七瀬の言葉で周囲を見渡すと数人の看護師の姿はあるが確かに当麻の姿は無い。

 広いと言っても個人が経営する医院だ。騒ぎが始まってしばらくたつのにまだいないというのは確かに不思議だ。

「でも一緒だったよね」

「なんか病室から慌てて出てったんだけど、そのあとがわかんないの。雨が降って来たのを見て急に慌てて、ワタシは音がしたからこっちに来たんだけど、ここにもいないし……」


――――雨。


 その言葉に桃矢のうなじの毛が逆立った。

 外を見れば微かに夕日を反射した薄暗い雲がたちこめ、ガラスを水滴で濡らしている。

 日が傾いて来た事、先ほどの襲撃で廊下の電気がいくつか切れた事もあり、廊下はかなり薄暗くなっていた。壁にも床にも桃矢たちの濃い影がおちている。


「影……」

 考えたのは一瞬だった。

「駄目だ、まだいる!――――あの人が」

 廊下にいた人間が怪訝そうな表情で顔を上げるのと、廊下の()が人を喰う(・・)のが同時だった。


 影から立ち上がる黒い鬼――――。

 全ては一瞬。現状を理解する余裕も悲鳴を上げる間もなく。

 ()喰われた(・・・・)人間の血が廊下中に飛び散った。

 四肢の一部を失い、あるいは全てを飲まれて。

「いやぁ―――――ッ!!」

 悲鳴を上げる七瀬。思わず駆け寄ろうとする。

「――――ッ!!!!」

 それを止めようと叫ぼうとした桃矢の口は背後から現れた小さな手で塞がれた。

「!?」

 驚いて頭を回すと桃矢に後ろから抱きついている少女と目が合った。

 淡い栗毛に深緑色の目の少女を見て桃矢の顔に恐怖が浮かんだ。

「久しぶりぃ!」

 そんな少女を追いかけるように背後から乾いた下駄の音が響く。

 音に気づいた七瀬も振り返る。


――まさか……。


「はぁ、ようやく動ける」

 その声に桃矢の全身の毛が逆立った。

 暗い廊下から現れたのは、黒で統一された和装に外套を着込んだ男だった。

 180ほどの身長、中肉中背。少し伸びた髪。

 普段町を歩いていても見逃してしまうような男。しかし、桃矢は動けない。

「く……ろお……さん…………」

 絞り出すように言った言葉に男、黒尾禅十郎(くろおぜんじゅうろう)は首を傾げると三日月のように目を細めて笑った。


「よぉ……桃矢」

 いつものように何を考えているのか分からない笑み。

 桃矢は背中から抱きついていた少女を振り払うと数歩後ずさった。

「嫌われちゃった……」

「いきなり飛びついた花が悪い」

 そう言われむくれる花を気にせず、禅十郎は顔を強ばらせる桃矢を見て首を傾げた。


「なんだよ、せっかく迎えに来たってのに抱擁もなしかよ」

「……」

 また数歩下がる桃矢を気にせず、禅十郎は歩み寄るとその肩に手が乗せられた。動く事も出来なかった。

「そうか、やっぱ他に見物人がいるのはやりづらいか」

「!!」

 その言葉で桃矢の固まっていた身体が動くようになった。躊躇している暇はない。すぐ後ろにいた七瀬を抱えるとその場から飛び退いた。

 数秒遅れて七瀬のいた場所を()が襲い床を抉った。そのまま()は桃矢を追ったが、その動きは桃矢と七瀬に追いつく前にとまった

「おぉ、さっすが」

 感心したように言う禅十郎の横で花などは拍手までしている。


「……【亡霊(レムレース)】の……、ボスまでお越しとはな」


 ()を砕いた大地が立ちふさがる。

「大地さ____ッ!」

 思わず叫んで大地の脇腹が大きく抉れていることに気づき、言葉を無くした。脇腹の肉と一部の臓器まで損傷を受けているのか出血も酷く回復も追いつかないようだ。

 平然としているようだが、七瀬の青い顔を見なくとも重症である事は分かる。

「大地さん……俺――」

 震える桃矢の言葉にも大地の表情はいつもの人を安心させる笑顔だった。

「大丈夫。……新人は見てろって」

「……」


 一方の禅十郎は残念そうに一人愚痴っていた。

「最初の攻撃で仕留められないのはやっぱ痛かったな。路佑を追いつめたんだからそれぐらい考えてやるべきだったか……」

「ぜんじゅーろー。ダサい」

「黙って、花」

 辛らつな言葉に一瞬くらっとしながらも再び余裕の表情を取り戻す。


「まぁ、いくら探偵社の武闘派で、【国士無双】の回復能力があるにしても、その怪我と路佑と戦った後の体力じゃ俺には勝てない」

「……っ」

 禅十郎の言葉は正しい。

 今も無理に異能を使っている事で重傷をどうにか回復している状態だ。


――くそっ……。

 

「じゃあな――――」



 大地に向かって手を出す。しかし、激しい殺気を感じ咄嗟にその手を引いた。

 その目の前を何かが通過し、禅十郎の腕の肉が裂けて血が飛び散った。

「!?」

 ビクッと身体を震わせる花の一方で、禅十郎は目を驚いたように開いて輝かせた。


「おいおい、聞いてねぇぜ……」



 驚く大地や禅十郎たちの視線の先には、両手を変化させた桃矢が立っていた。


【資料08】



   ■黒尾 禅十郎/クロオ ゼンジュウロウ 【男/26】


【帝都】で暗躍する組織【亡霊(レムレース)】のボス。

 殺人に特化した能力の持ち主であり、裏社会を仕切る危険な存在。



   ■花/ハナ   【女/10】


 【亡霊(レムレース)】の構成員。禅十郎に懐いている少女。

 無邪気で純粋のあまり、残酷な事もいとわない。

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