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異能探偵社の新参者  作者: nasa*
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第壱頁 【一期一会 ①】

 いちご-いちえ【一期一会】

①一生に一度だけの機会。生涯に一度限りであること。


_________________________________







 【帝都】

 19世紀から作られたその都市は沿岸部で国に干渉されない独自の自治を発展させた空間だ。住人は表舞台の富豪、裏社会の人間、貧民など入り乱れ、外国からの異人も多く訪れる。

 治安はあまりいいとは言えないため軍直属の警察部隊が日々治安維持のために動く。

 そんな都市に路頭に迷った青年が一人。


「どうしよ……………」

 肩程の黒髪、黒い瞳。体格はいわゆる中肉中背だがどちらかと言えばひょろっとしている方かもしれない。身なりは整っているとは言いがたく、身にまとっているシャツと黒いズボンは灰や泥にまみれ、かなりすりきれいた。

 彼の名前は、冬月桃矢――現在、餓死寸前。


「無計画過ぎたんだ。なにもかも……」

 言っても過ぎてしまった時間が戻ってくるわけではない。

「どうする。上手く【帝都】の中心街まで来たわけだけどもう兄貴もいない。頼れる親類縁者なんていないし……」

 頭の中で後悔と空腹が自己主張を繰り返す。

 今は大通りに面している大型商店の片隅に座っているがいつまでもいられる場所ではない。

 いっそ首でも括ろうかなどと物騒な考えが頭をかすめ始める桃矢の視界の隅に光る物体を捕らえた。

 その物体が硬貨であると気づいた桃矢は周囲の視線など気にせずに飛びついた。その身のこなしは数日間何も食べていない人間のものとは思えなかった。

「おおお………」

 手の中の銀色の物体が光り輝いて見えた。額こそ百円硬貨だが今の桃矢にはそんな額など関係ない。

「こ、これであんぱんぐらいは……」

 昔仲間に貰ったあんぱんの甘く香ばしい香りを思い出して桃矢の手が震えた。

「どっかで……」

 ふらっと立ち上がった拍子に丁度目の前から歩いて来た人と激しく衝突した。貧弱で体格でも劣る桃矢は派手に転ぶはめになる。

「ったた……。すいませ」

 謝ろうと顔を上げた桃矢はぶつかった相手の背後に立つ複数のがたいの良い男たちを見て固まった。

「ったく、何処見てんだよ!餓鬼」

「ひょろひょろしやがって」

 桃矢は慌てて立ち上がった。こういう輩には逆らってろくな事にならない事は十分学習している。

「す、すいません。よく前見てなくて!」

「あ?そんな簡単にすむと思ってんのか?」

 お決まりの台詞に桃矢は更に表情を固まらせた。

 【帝都】は全てにおいて治安が安定しているわけではない。

 全部で13の地区に区切られそれぞれ【軍警】が治安維持に努めているが、実情は富豪の多い1区や2区が活動の中心で区の数が増えるごとに治安は不安定になり、いま桃矢がいる中心街は7区で治安が悪いわけではないがこうしたチンピラの小競り合いはよくある光景だ。

 通りすがりの買い物客も関わるのを嫌がって見て見ぬ振りをしている。

「まぁ、とりあえず。裏手こいや」

 ドラマや小説で何度使われたか分からないお決まりの台詞に溜息さえ出てくる。

――そりゃ、そうだよな。チンピラにからまれてるこんなボロボロの人間助けるような物好きいないよ。

 悲観的な事を思いつつ周囲を男たちに囲まれた桃矢は逃げる間もなく裏通りへ連行されそうになっていたのだが、横から伸びた人影が突然桃矢の腕を掴んだ。


「いやぁ、弱い物虐めは駄目でしょ」

 そういったのは20代とおぼしき男性だった。

 整えられた黒髪に灰色の目。茶のコートにシャツ、ズボンという服装も小綺麗で、この殺伐とした現場に似合わない爽やかな笑みを浮かべていた。

 そんな突然乱入した男の言葉でチンピラたちは驚きで動きを止めた。あっけにとられていたと言っても良い。まさかこれから荒事が起こるであろう場所に自分から首を突っ込む人間がいるなどと想像していなかったのだ。

 それは桃矢も驚くべき事なのだが、その時桃矢は男の事など全く眼中に入っていなかった。

 視界にあるのは、たったいま男が桃矢の腕を掴んだときの衝撃で思わず落とした百円硬貨が道路沿いの下水溝に落ちていく様子だけだった。


_______________ポチャン……


 あっけないほど軽い音をたてて消える硬貨。

「………………」

 言葉すら出ない桃矢をおいて目の前ではチンピラたちが我にかえって突然入って来た乱入者に対して殺気を向け始めていた。

「おっさん。なんなんだよ。その小僧の仲間か?」

「それとも正義の味方気取りの馬鹿やろうかよ」

「聞いてんのか?」

 ガンを飛ばしてくる相手を見て男はやれやれという風に手を広げた。

「まだ20そこそこの人間を捕まえておっさんって……ちゃんと目ついてる?」

「あ?」

 体格ではるかに負けている男にそう言われて更にチンピラたちの額に青筋が浮かんだ。

 しかし、挑発されたチンピラがつかみかかるよりも前に桃矢が男につかみかかっていた。

「お?」

 予想外の人物からの攻撃に男も周囲のチンピラたちも驚く。

「あ、あんた!よ、よくも俺の希望をぉおぉおおおお!!!」

「き、希望?」

「三日ぶりの食事だったんだぞ!」

「ち、ちょっと。意味分かんないんだけど」

 襟首を掴まれて揺さぶられながらも支離滅裂な桃矢の言葉についていけない男だったが、その空気についていけないのは周囲に取り残されたチンピラも同じだった。

「おちょっくってんのか、てめぇら!!」

 絶えきれず一番大柄な男が叫んで桃矢と男に向かって銃を突きつけた。

 さすがに銃まで出されて桃矢も現実を思い出した。

「け、拳銃!?」

「ふぅん、闇市で出回ってるよく見る型だね」

 おののく桃矢と対照的に男の反応は冷静な物だ。

「まぁ、とりあえずピンチだよね」

「誰のせいだと思ってんですか」

 どう考えてもこの男が乱入したから引き起こされた事態だ。

「何言ってんの。俺が止めなかったら今頃どうなってたか」

「……」

 反論するのも嫌だ。

「……さて、青年。これは非常事態だね」

 他人事のように男が口を開いた。無責任すぎる言葉に誰のせいだ!と叫びたいが空気を呼んで我慢する。

「まぁ、安心したまえ。僕が助けてあげよう」

「……だいたい、あんた誰なんですか」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 あくまで軽く言うと男はコートの内ポケットから取り出した紙を桃矢に渡した。

 少し茶色に染まった紙には深緑色のインクでこう書かれていた。



   [   異能探偵社     狗木(くぎ)鷹人(たかひと)   ]



「異能、探偵社…………?」

「そ、そこの狗木鷹人。まぁ、巻き込まれた同士仲良くしよう」

 そう言って鷹人は乱入したときと同じ笑顔を浮かべた。





 これが帝都の新参者、冬月桃矢と探偵、狗木鷹人の出会いだった。

ある作品から触発され、能力ファンタジーを目指して書きました。

まだまだ至らない部分多いですが、これからも読んでいただけたら幸いです。


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