異世界での初めての友達
助けるか否や。
迷っているとパァンと音がし発煙球が上がる。救援求むの合図か。近くの村に行く積もりだから発煙球を無視すればガルシア達を笑えなくなるな。
目の前のなだらかな丘を越えた向こうか。
再びトップスピードで走り出す。登りはきつい。
丘の上で目にした光景は大きな岩の上に陣取る三人組の冒険者とそれを襲うグレイウルフの群れ。
奥の方には背の高い木製の壁で四方を囲われた村と村からこちら・・・三人組・・・の方に向かってくる二人組。距離が五キロ以上あるからもうしばらく懸かるだろう。
グレイウルフの群れは総数二十二匹。大岩の下に六体の死体が転がっているからあの三人組が倒したのだろう。・・・さて、ヤるか!
俺はトップスピードで丘の上から駆け降りる。俺の方に六匹。少し遅れて二匹の計、八匹が襲いにくる。
走りながら印を切り、木遁、雷蛇の術を発動。
俺が放った雷は六つに枝分かれし蛇の様にくねりながら目標の鼻先に命中しそのまま高圧の電流で頭部の・・・具体的にはグレイウルフの脳を焼き、仕留める。
遅れて来た二匹が時間差で襲い懸かってくるが前後左右に分かれてなら兎も角、前方からの時間差等、各個撃破の対象にしかならない。
腰から抜いた斬鉄剣で頸をはね、次のグレイウルフは脳天から頭を割る。
剣を振って軽く血糊を落としながら三人組の様子を見ると大岩の下に三体死体が追加されていた。
・・・残り十四匹。
グレイウルフ達は大岩の上の三人組より先に俺を狩る事にしたらしく三人組の元に五匹残すと九匹でこちらに向かってくる。距離があるので俺はどっしりと待つことにする。あの三人組の実力なら五匹程度簡単に狩るだろう。
グレイウルフの距離が近くなり印を切り木遁、雷電の術を放つ。雷蛇と違い広範囲に電撃をばらまくサンダーストーム的な忍術だ。
電撃の嵐を受けてグレイウルフは次々に地に倒れる。五匹を倒したが四匹はまだ息があるらしく、弱々しく鳴きながら痙攣している。
ふと気配を感じて見ると三人組がこちらに駆け寄って来る所だった。残りの五匹はもう仕留めたらしい。
「助かった。俺はダグラス。こっちの奴はアンセム。こいつはジェーン。」
背中にハルバードを背負い、右手に盾、左手に片手剣を持った三人組の中で一番歳上に見える男・・・ダグラスが、所々革を巻いて補強してある杖を持った男・・・アンセムと、腰に片手剣を差し、左手に盾、右手に大剣を持った女・・・ジェーンの紹介をする。
「俺はリョウト。すまないが四匹仕留め損なったみたいだ。手伝ってくれ。」
俺の言葉にダグラス達は頷くと一人一匹づつ止めを刺した。
「しかしスゲーなお前!何だ、あの雷の魔法は!?」
アンセムがテンション高めに聞いてくる。魔法使いとして気にはなるのか?
「魔法じゃない。木遁という忍術だ。」
「忍者!忍者かよ!流石シャパニア人!カッケ〜」
「あ〜、少し良いか?」
ダグラスが割り込んでくる。
「獲物の配分を決めたい。助けられた身だ。だいたいの事には応じるつもりだが・・・恥ずかしながら金の持ち合わせが殆ど無い。グレイウルフの現物支給でお願いしたいが・・・」
ダグラスの言葉に頷く。
「配分は頭割りで良いだろう。一人、七体。俺には損傷の少ないヤツを回してくれたら文句は無い。」
ダグラス達が表情を緩める。
「構わないのか?お前の取り分が半分になるぞ?」
「構わない。貰いすぎだと感じたなら後で商業ギルドの登録の時に口聞きしてくれ。」
「商業ギルド?構わないが・・・冒険者ギルドでは駄目なのか?お前ほどの腕なら歓迎されると思うが・・・」
「毛皮と魔石が売りたいだけなんだ。冒険者になると色々としがらみが出てきて面倒くさい。戦が起これば徴兵されたりするだろ?祖国なら兎に角、旅先の国でそんな事になるのは勘弁願いたい。」
「むう・・・そうか。わかった。商業ギルドの件は任せろ。アイリス・・・あの村だ。アイリスではそれなりに顔が利く。今回の礼に世話させてもらおう。」
「勿体無いねぇ〜?冒険者に成りゃリョウトの場合引く手あまただぜ?」
アンセムの言葉に首を竦める。
「まあ、リョウトの人生だ。好きにしなって!あっ、でも、成るなら手伝ってくれよ?スカウトは慢性的に足りないしな。優秀なスカウトは特に。」
「成ればな。」
その場で解散し自分の取り分の解体を始める。
解体が終了した位で村から来た二人組が此方に合流する。
「おう!グラン!セレス!悪いな。もう終わっちまった!」
アンセムが二人組に声を掛ける。
戦斧を担いだドワーフがグラン。弓と槍を担いだエルフがセレスと言うらしい。
「・・・おう。急いで来たんだがな。まあ、いい意味で間に合わなかったか。」
「あんたの足が短いからよ。」
エルフの女・・・セレスが割りと理不尽な事をドワーフの男・・・グランに言っている。
「うるせいやい!殆ど変わんねぇだろが!!」
確かに二人とも身長は150有るか無いかだ。因みに俺は170位。
「よさないか二人とも。こっちのリョウトが腕利きだったから割りと楽に討伐出来たんだよ。」
ジェーンが二人をたしなめる。
「リョウトだ。」
「グランだ。」
「セレスよ。」
自己紹介終了。少し気になったので思い切って聞いてみる。
「すまないな。シャパニアの田舎者だから失礼な事を聞くかも知れんが・・・もしかして二人とも同い年か?」
グランはドワーフらしく厳つい髭面でセレスは全体的に幼い感じのエルフだ。
「そいつはどうゆう意味でだ?」
グランの問いに答える。
「俺は十六だが・・・同い年か?」
自分を指差し更に問う。
グランが吹き出し、セレスが面白そうに俺を見る。
「おう!俺も十六だ!因みにセレスも十六だぜ。」
だよな。
「何で解ったの?」
「いや?二人の気配が若者・・・言ってしまえば俺と同い年に感じただけだ。」
「リョウトは忍者だぜ!」
アンセムが混ぜ返す。
ひとしきり笑いあったあとセレスが右手を差し出す。
「改めて。私はセレス。十六歳。見ての通りエルフよ。後、五十年もすれば絶世の美女に成るわよ。見てらっしゃい!」
セレスの手を握る。
「リョウトだ。ご覧の通りシャパニア人だ。十六歳の育ち盛りだ。十年後を楽しみにしてろ!」
「グランだ。見ての通りドワーフだ。髭は一人前の証だぜ?百年たってもこの面のままだから実は若作りだと思ってる十六歳だ!よろしくな!ダチ公!!」
俺達の手の上にグランが手を置く。
異世界で初めて出来た友達は同い年の老け顔ドワーフと幼女エルフだった。
友達になるのに時間は関係ありません。