襲撃と逃走
ルドルフと発言を受けて俺はガルシア達から離れた。エレナとジルがルドルフを引きずり倒し、アヴィンと折檻する少し前に見た展開になり、ガルシアとマルコシアスが土下座・・・この世界にもあるとは思わなかった・・・を始めたが振り切って離脱した。ガルシア達は後で高いツケを支払うハメになるがまあ仕方ないよね?
離脱途中で野兎を六匹見つけたのでマルッと狩らしていただいた。
野兎を狩った付近で周りの地形を探ると泉が有ったので其所でメシにすることにする。
泉の回りに自生しているホウレン草モドキと白菜モドキ、何故か竹の様に生えてた長ネギモドキを採取。
ついでに薬草を一株残して採取。回復ポーション位なら五十個位できそうだな。瓶が無いけど。
六羽の野兎を綺麗に解体し、四羽分を無限収納にしまう。
残りの二羽を適当な大きさに切り分け、ホウレン草モドキと白菜モドキ、長ネギモドキも適当な大きさに切る。
神様の日用品セット・・・正式名称・・・の大皿に盛り付け、石を積んで作った竈に鍋を置く。鍋に具材を適量入れて大皿は大きめの平たい岩の上にグレイウルフの毛皮を敷きその上に乗せる。
採取中に拾っておいた枯れ枝を竈に放り込み、生活魔法で火を付ける。水は水筒の物を使用。鍋、三分の一位まで入れる。ポイントは具材がギリギリ浸るかどうか位に水を入れること。火を通していると兎から脂が溶け出してくる。兎の脂は牛豚鶏に違い非常に淡泊なので、水の量が多いと旨味成分が薄まってしまう。
鍋が沸騰する寸前で一度火から下ろし兎の脂を野菜に染み込ませる。程よい熱さまで冷めたら鍋を再び火に掛け、塩を少々と醤油を一滴。
兎美味し兎鍋の完成。兎の肉は鍋を煮立てるとすぐに脂が抜けて美味しくなくなるよ!!とろ火で少しずつ煮込むと良いよ!!個人的には兎を先に食べてそのあとに脂のしみた野菜を食べると良いよ!!
・・・何で豆腐が無いんだよ!!
兎鍋ができたのでいただくことにする。個人的には豆腐が無いのがいたいがまあ仕方ない。俺はベストを尽くした筈だ。
兎肉を食し追加の兎肉を入れる。兎肉に火の通る間に野菜を食す。何で豆腐が無い。割りとマジにそう思う。
兎鍋を完食した頃にはすっかり日が暮れて辺りは真っ暗。暗視の技能があるから割りと平気だが、そろそろグレイウルフを始めとした獣達の活動時間だ。速めに寝床を整えるか。
片付けを済ませて泉の側に生えている樹によじ登る。木登りとか子供の時位しかしてないが問題なく登れる。二週目万歳。・・・現実だけど。
ウエストポーチからポンチョを取り出してくるまる。ゲームでは一日目は宿だったがまあストーリーのない現実だからな。こんなこともあるさ。とっとっと寝て明日は町か村を探そう。
異世界一日目はこうして終わった。
異世界二日目の目覚めは最悪だった。
何者かが野営地・・・より正確に言えば夜営している俺の様子を探っていた。
この世界でも夜営している者の様子を探る・・・元の世界で言えばキャンプ中、テントで眠っているすぐ近くで、例を挙げるとテントの隣で中の様子を探るような・・・不愉快な気配に起こされ、寝起きは最悪だ。
気配は二つ。一つはシーフ。ニンジャマスターの俺でないと気配が探知出来なかったであろう者。野営地に入り込んで様子を探っている。
もう一つは野営地の外側でこちらの様子をうかかっている。それなりに気配の消し方が上手いが専門の訓練は受けてない我流のソレだ。
・・・この二つの気配が顔見知りのモノと言う事が不愉快さに拍車をかける。
「人の寝床を探るとはいい趣味だな?アヴィン、アリッサ。」
アヴィンとアリッサの視線が俺の居た樹に集まるがそこには俺は居ない。
瞬動術と天駆術でアリッサの背後に移動すると首筋に手を当て、頸動脈を指で強く押す。脳に血が廻らなくなり、脳が酸欠状態となりアリッサは呆気なく気絶する。
「俺を始末しにきたか?」
自分でもビックリするくらい冷たい声が出る。
「違っ「何が違う?シーフが気配を消して野営地をうかがい、寝床を探す。寝首を掻きに来たのではなんだ?ここいらでは就寝中に気配を殺して忍び寄るのが来客時の礼儀なのか?」
アヴィンの言葉を遮り吐き捨てるとアヴィンが黙りこむ。客観的に観ればそう思われても仕方がない事位は解るらしい。
「俺が誰かと接触する前に始末しに来たんだろ?誰かが居れば一緒に始末するつもりで。」
「違う!そうじゃな・・・」
目線で気絶したアリッサ・・・左手でナイフを逆手に持ち、右手は何時でも抜剣出来るように柄に手を置いている・・・を指すと尻窄みに言葉が小さくなる。
誤解が解ける・・・俺にしたら言い訳・・・状況ではないことに気づいたらしい。
あうあう言っているアヴィンを尻目に考える。
ここまで不調法な事をしでかして最早言い訳等白々しい。とっととコイツらを始末してガルシア達に報復した方が話は早い。
童貞切る分には構わない。完全に自己都合で人の事を殺しに来たんだ。自分が殺されかけても殺人は嫌だ!とか、寝言をほざく気はない。この世界で敵を作って放置するメリットは無い。
しかしこの出来事の原因となった一件は使える。
命の危機を助けられたにも係わらず不義不実をはたらき、挙げ句の果てに寝込みを襲って亡き者にしようとした。
上手く立ち回れば多額の賠償金を取れるし、罪人としてコイツらを処刑することも可能だ。
敵対者は徹底的に潰すべきだ。
アリッサが覚醒した様だが構わず斬鉄剣の柄に手を掛け一歩前に出る。
「殺しに来たんだ。殺される覚悟は出来ているな?」
「誤解なんだ!!」
アヴィンの叫びとアリッサが背後から斬りかかってきたのは同時だった。
右側に体を捌き柄から離した右手でアリッサの喉に突きを入れる。
アリッサの口から空気の漏れる音が聞こえその場にうずくまる。
居合いで頸をはねるには良い位置だったので斬鉄剣の柄に再び手を掛けると視界の端でアヴィンが盾を構えて突進してくるのが見えた。二人はこの場で斬っておこうとしたがまあ良い。確実に俺の方が強いが経験不足だ。二対一でどの様な不覚をとるか分からん。ここは退いておくか。
瞬動術で素早く後ろに下がる。その隙にアヴィンがアリッサに合流する。
「語るに堕ちたな!」
その言葉にアリッサが俺を睨み付ける。
「違う!誤解なんだ!!話を聞いてくれ!!」
アヴィンがなおも食い下がる。
アヴィンは案外本気で話し合いに来たのかも知れない。
・・・アリッサは殺る気満々みたいだが。
「さて二対一でこちらが不利。ここは退いておきますかね!」
捨て台詞を残し走り出す。我ながら見事な逃げっぷりだな!
「違うだ!リョウト!話を聞いてくれ!!」
アヴィンの言葉を背に受けながらトップスピードを出す。時速四十キロ超。馬でも追い付けないよ!
俺は野営地から離れた。
時速四十キロ超で四時間ほど。流石に息が切れたので徐々にスピードを落としながら立ち止まる。深呼吸を何度かすると早鐘を打つようにドクドクと動いていた心臓が平常の心拍数に戻っていく。本当にチートな身体能力だな。この世界に来たのが二週目時点で良かった。ステータス引き継ぎ無しでこの世界来たら半日足らずで死ぬ自信があるよ。
現在地の確認の為、広域探査を開始する。常時探索で二キロ四方位。広域探査は十キロ四方位だ。
さて・・・五キロ先で人が襲われているがどうしよう?
主人公は黒いです。忍者ですから。正義とか鼻で笑い飛ばします。でも義理堅いです。なので不義理は赦しません。