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異世界の倣いと命の値段

馬車の上に乗る俺達に双子の母親らしき弓使いが声をかけてきた。


「危うい所を助けていただきありがとうございます。私の名はエレナ。こちらは娘のリーンとリース。」


「はじめまして。リースです。」


「はじめまして。リーンです。」


双子の槍持ちがリース。弓使いがリーンか。

自己紹介の途中でジルとアヴィンが加勢し五人と別の馬車に乗っている弓使いでグリスリーに当たっていた面子がこちらにやって来た。槍持ちの中年男性二人と弓使いの二十代後半位の女性。そしてジルとアヴィンに支えられながらこちらに来るフルプレートの中年男性・・・血塗れじゃねーか!


馬車から飛び降り、ジル達の元に走る。


「リョウト!」


近づく俺にアヴィンが声をかける。


「すまん。アニキに回復魔法を掛けてやってくれ!!」


言わずがなしも!


フルプレートの男の元につくとフルプレートの残骸・・・どうやらグリスリーのいい一発をもらったらしい・・・をひっぺがしていく。


「鎧脱がすの手伝ってくれ!!」


ジルとアヴィンが手を貸してくれたお蔭で一分足らずでフルプレートを脱がす事ができた。

そのまま水遁、流水の術で血や土埃を洗い流し『ヒーリング』を掛ける。

傷が癒え人心地着いたのかフルプレートの男が礼を言ってきた。


「・・・すまん。助かった。俺はコーネフ。ジルの旦那でシルヴァンの親父だ。」「俺はリョウトだ。シルヴァンにも言ったが喪った血まで回復した訳じゃない。暫く安静にしていた方がいい。」


俺の言葉にコーネフがぴくりと反応する。


「そうか。息子もお前が・・・重ね重ねすまん。」


俺達の会話が終わったのを見計らって槍持ちの一人が話しかけてきた。


「助けていただき感謝します。私はこの隊商(キャラバン)の責任者、ガルシア。こちらはマルコシアス。」


そして弓使いの女性をチラリと見やるとアヴィンが女性の肩を抱き、


「こいつはアリッサ。俺の嫁さんだ。」


「・・・アリッサよ。」


アリッサは微妙に俺の事を警戒している。弓使いと思ったが足運びや体捌き何かを見るにスカウト系の技能持ちなんだろう。なら、仕方ないかな?


「我々を助けてもらって本当に感謝している。本当にギリギリだった。」


「ギリギリねぇ?」


俺は馬車からエレナとジルが引きずり出した同い年位の少年をチラリと見やりながら呟く。


引きずり出した少年を苦々しく見ていたガルシアが吐き捨てる。


「・・・あれは、あぁあれはルドルフ。ルドルフには発煙球を放った後にエレナ達に加勢するよう指示したのだが・・・怖じ気ついて引き籠っていたみたいだ。君が通りがからなかったら全滅していた。本当にありがとう。」


なるほど。ルドルフなる阿呆が務めを放棄したせいであの状況だったか。

死ぬ前に一矢報いるとかでなく助けを呼んで救援が来るまでの本当の時間稼ぎか。


なんともなしにルドルフ達を眺めているとエレナとジルに加えアヴィンがルドルフをシメ始めた。


「シルヴァンには謝らんとな。」


そんな呟きが聞こえたのかマルコシアスが話しかけてきた。


「シルヴァンはルドルフと一緒にアヴィンから片方剣と盾の使い方を学んでいたからな。兄弟同然に仲がいいからな。」


あぁ、庇ったんだな。

先程までのイライラが治まっていく。この人達はこの人達なりに生き残る心算だったんだな。なら俺が感じた苛立ちは御門違いか。


双子とシルヴァンがシルヴィアに支えられながらこちらにやって来る。


「リョウトだったかしら?ありがとう。父と兄を助けてくれて。」


まず、シルヴィアが礼を言ってくる。


「兄さんを許してあげて。兄弟同然にしていてアヴィンおじさんに一緒に習ってたから・・・」


「もういい。俺もそちらの事情も知らずに責めてしまったからな。そう言うのは無しにしよう。」


「・・・すまんな。リョウト。」


双子達がそれぞれハンターナイフとショートソードを差し出してくる。


「はい。貴方のでしょ?返すね。」


双子の確かリースからハンターナイフとショートソードを受け取り鞘に納める・・・所をガルシアに声をかけられる。


「ほぅ。中々の業物だな。」


「えぇ。故郷を出るときに餞別に貰ったんです。」


嘘は言ってない。元世界(むこう)から異世界(こちら)に来るときに貰った物だし。


ガルシアの視線が俺の腰に差してある剣にねっとりとした感じで絡み付く。ちょっと見せてくれないかな?って、視線だ。

ガルシアの無言の訴えを無視しているとため息をつき喋り出す。


「報酬の件だが何を望む?」


「俺が狩ったグリスリーを二匹・・・と、言いたいがジャッカスに食い荒らされているんだよな。グリスリー二匹分の金で戴きたい。」


物品ではなく現金で要求する。言外にお前達を助けてたからダメになったんだぞ。補償しろ。と言うニュアンスを匂わせる。


俺言葉にガルシアは顎髭を弄りながら考え始める。

俺の倒したグリスリーは“三匹”自分で二匹、エレナ達が相対していた一匹で合計三匹。それを二匹でよいと俺は申し出た。同時に狩った獲物が食い荒らされたから現金で寄越せとも言った。

グリスリーの換金部位は毛皮だけ。先に言った謎判定のせいで魔獣に識別された獣だ。毛皮の買い取り価格は状態によるが、三万シルバーから五万シルバー位。銀貨三枚から五枚。


物品の現物支給ならとにかく換金して寄越せと言ったのがガルシアの悩みどころか。

俺のような一人旅の者は荷物が増えるので金で報酬を受けることが多いので特段無理を言っている訳ではない。

ガルシアが悩んでいるのはグリスリー買い取り価格の三万シルバーから五万シルバーの誤差二万シルバー分だろう。

この世界、報酬をケチると悪評があっという間に広まる。特に“命の危機を救われたらその恩は生涯掛けて返せ”と、言うことわざがあるくらい命に関する貸し借りを大事にしている。

ガルシア達も命や積み荷が無事だったが装備品や護衛の怪我で金が入り用だろう。それを鑑みて三匹の所を二匹と言ったのだ。

銀貨六枚では少なすぎる。ましてや重症の二人に回復魔法まで使ってもらってこの報酬ではケチったと言われても仕方がないだろう。そうなると・・・


「銀貨十枚でどうですか。」


妥当なとこだろう。

俺が返事をしようと口を開く前に、いつの間にか側に来ていたルドルフはボソリと呟いた。


「・・・強欲な奴。」


ルドルフの両隣にいたエレナとジルには聞こえたようだが、ガルシア達には聞こえなかったらしい。俺の斜め後ろのアリッサが息を飲んだからアリッサは聞こえたらしい。

エレナとジルは俺に聞こえなかった事を期待したみたいだが残念。バッチリ聞こえたよ。


俺はニコリと笑って・・・


「まさか強欲者呼ばわりとはな。よくわかった。」


身を翻しその場を離れた。




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