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この世界の現実と苛立ち

グリスリーの頸をはねたはね、振り返ると大剣持ちの女性が仰向けに倒れたグリスリーの頭にトドメの一撃を入れた所だった。


「シルヴァン!」


片手剣と小盾持ちの男性が青年・・・シルヴァンと言うらしい・・・を抱いて肩を揺する。


「シルヴァン!しっかり!!」


大剣持ちの女性もそこに加わる。


俺は斬鉄剣を鞘に納めシルヴァン達の元に走る。


「シルヴァン!シルヴァン!!」


大剣持ちの女性がシルヴァンにすがり顔をグシャグシャしている。

シルヴァンの右足が一番の深手で骨まで達しているみたいだ。よくさっきまで立っていられたものだ。

後は擦り傷、切り傷が多数。どうやら失血死寸前のようだ。


「緊急時故に失礼するよ。」


俺は忍術、水遁・流水の術を使いシルヴァンの身体に付いた血や土埃を洗い流す。


「!何をするんだい!?」


大剣持ちの女性が何か言ってるがそれどころかじゃない。

俺はシルヴァンの額に手を置き、癒しの魔法の詠唱を始める。


「癒しの力よ。彼の者を癒せ。『ヒーリング』」


魔法が完成すると俺の手から暖かな光が溢れ、シルヴァンを包み込む。光が消えたあとには装備はボロボロのままだが全ての怪我が癒えたシルヴァンの姿があった。


「おい。シルヴァンとやら。俺の声が聞こえるか?」


「・・・ああ。聞こえる。すまんな。・・・あと、母さん。何してるだ?」

俺の呼び掛けにシルヴァンが応える。ちなみに母さんと呼ばれた大剣持ちの女性は後ろで俺を叩き斬ろうと大剣を振り上げていた。


「俺の名はリョウト。リョウト=トウゴウだ。」


「俺は、シルヴァン。後ろのは俺の母だ。」


俺とシルヴァンの自己紹介が簡単に済むとシルヴァン母がバツが悪そうに自己紹介を始める。


「ジルだよ。シルヴァンの母親だ。その、なに、済まなかった。」


「俺はアヴィン。シルヴァンの叔父でジルの弟だ。」


ジルに続きアヴィンも俺に名乗る。


「リョウトだ。シルヴァン。怪我は治したが喪った血まで回復した訳じゃない。暫く大人しくしてろ。」


「まだおじさんやおばさん達が戦っている。俺だけ離れる訳には・・・」


「俺が行く。」


短く答えるとジルの方に向き直る。


「どちらに加勢すればいい?」


グリスリーは残り二匹。俺の正面にある馬車の向こう側で三人。左手の馬車の向こう側で三人。

各馬車の上でそれぞれ魔法使いと弓使いが援護している。ちなみにジャッカスは俺が狩ったグリスリーに集っている。


「・・・あんたは正面の方を頼む。正面の馬車にいる娘、シルヴィアと言うんだがシルヴァンの妹だ。シルヴァンをシルヴィアの元に預けてから向こうに加勢してくれ。」


迷っているのかジルが黙りこむと代わりにアヴィンが答えてくれた。


「心得た。」


そう答え、シルヴァンを担ぎ上げる。


「・・・俺は荷物じゃないぞ?」


「そうだな。荷物は喋らないしな。」


シルヴァンの軽口に軽口で応える。

二、三歩助走のをつけシルヴィアのいる馬車の上に飛び乗る。


「シルヴィアさん?」


「えぇ。貴方は?」


「リョウト。助っ人だ。」


簡単に自己紹介を済ます。

さて、こちらで戦っている三人は皆、女性だった。

全員が半袖、半ズボンのインナーの上に革鎧、革の籠手、足甲を付け、その上から灰色の毛皮・・・グリスリーかグレイウルフ・・・を袈裟の様に着込んでいる。

双子の弓使いと槍持ち、そして双子の母親・・・容姿が似通っている・・・らしき、もう一人の弓使いが戦っていた。

なんと言うか、全員が牽制?の様な戦い方をしている。

弓使いが矢を射こみ、槍持ちが隙をついて攻撃。とかならまだ解るんだが・・・

まず矢が刺さらない。丈夫な毛皮と分厚い皮下脂肪。加えて柔軟かつ強靭な筋肉に急所に当てる事が出来てもダメージが通らない。

双子の母親ぽい人は弓勢がとても強いが、絶えず動き回り暴れまくるグリスリーの前では何の意味もない。

もう一人の弓使いはそもそもに弓威不足だ。

槍持ちは隙をつく事が出来ても力が圧倒的に足りない。

シルヴィアが魔法で援護してるが火魔法は毛皮を焦がすだけ。氷魔法は毛皮に阻まれて意味をなさない。

誰も致命傷を受けていない、怪我らしい怪我をしてないのが奇跡のようだ。


「ダメージソースが足らんだろ。」


「時間稼ぎが目的だからな。」


俺の呟きにシルヴァンが答える。


「時間を稼ぎ、おじさんや父さんを待つのが三人の目的だよ。ダメージソースが足らないのは百も承知さ。」


「だがな、グリスリー五匹にジャッカスだぞ?初めから破綻してるだろ?その作戦。」


呆れた様にシルヴァンに言いながら俺は土遁、砂塵の術を使う。

細かな砂や礫を高速で相手又は限定範囲にぶつける忍術で目眩ましや、硬い鎧や装甲を持つ相手には防御力ダウンの効果がある。グリスリーには目潰し位しか効果がないが。


「手元にある戦力でできることを考えた末の策だよ。無理があるのは承知の上さ。」


「・・・馬車の中にまだ一人居るのにか?気配からして俺と歳はそう変わらんようだが?」


目潰しされて前肢をめちゃくちゃに振り回し始めたグリスリーがこちらを向いたのを見計らいハンターナイフを投擲する。

狙い違わずグリスリーの右目にハンターナイフが鍔まで刺さる。


「あの子はまだ未熟だ。この場では足を引っ張りかねない。」


「未熟であっても攻めて死に、守って死ぬなら遮二無二に攻めるべきだ。死と隣り合わせの鉄火場で未熟かどうかなど関係無いだろう。戦わなければ死ぬんだからな。戦って死ぬべきだ。」


ハンターナイフが突き刺さりビクリ、ビクリと痙攣を始めたグリスリーにとどめのショートソードを投擲する。今度は額に当たり頭蓋を貫通する。


「・・・だがしかし「だがもしかしもない。俺が加勢しなければお前は死んでいたんだシルヴァン。お前が死ねば均衡が崩れ、結局皆、死ぬことになるんだ。未熟?赤子の類いなら兎に角、俺と歳の変わらん一人の人間が生きる為に戦うことも出来んのか?繰り返すぞ?護られても死ぬなら、戦って死ね。すぐ目の前で練度の足らん女二人がギリギリの所で戦って居るんだぞ?」


グリスリーの痙攣が止まり、ゆっくりと倒れる。どうやら仕留めたようだ。


「気に入らないね。」


俺は馬車の中に籠っている誰かに向けて呟く。

死ぬしかない状況ならば未熟でも戦うべきだ。

戦わなければ死ぬしかない。だが戦えば切り抜けることができるかも知れない。ならば戦うだろう?

現実、ソコの双子は戦って生きる可能性に賭けた。

籠りっきりのヤツは家族に丸投げして現実逃避している。

戦って死ぬことも、逃げて生きることもできない。


「・・・気に入らない。」


命の安いこの世界で戦う事ができながら戦わない。そんなヤツに俺は無性にイライラした。




ギリギリの戦いに未熟を理由に参加しない相手に無性にイライラしている主人公です。

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