ゲームではない現実
三時間ほどかけてグレイウルフの解体に剥ぎ取りを終える。毛皮と牙、心臓部にある魔石位だから割りと短時間ですんだな。
魔石は魔獣が持つ体内器官だ。
基本的に魔獣は皆、体内に魔石を持つが中には魔石を持たない種がいる。これは人間に対して脅威度が高いと魔獣と呼称されるからであって脅威度の比較的低い獣も体内に魔石を持っていたりする。
グレイウルフは単体なら複数人で狩れないこともないので獣に分類されている。
単体でいることが滅多になく、群れで小さな村を滅ぼす事ができてもだ。
この世界では1個体を四人までで狩れるかどうかで魔獣かただの獣かが決まる。
その様な取り決めだか慣習だかでグレイウルフのような群れでしか活動しない種も獣認定されている。
魔石は魔道具やエンチャントの材料や触媒、動力に使われる。物にもよるが基本、大きい魔石や密度の高い・・・石ではなく宝石のようになった・・・魔石は高く買い取って貰える。
「さて・・・と、どうするかな?」
剥ぎ取った毛皮と牙、魔石の山を前にして少し悩む。
無限収納に入れときゃよいのだが人前では取り出せないし・・・無限収納持ちは稀少でだいたい国や国家をまたぐ組織なんかに所属している・・・人前で出し入れして目をつけられるのは面倒くさい。
俺はウエストポーチを手に取る。
容量五百リットル位だから入らんな。・・・魔石がたくさんある。俺は空間拡張のエンチャントが使える。サブとはいえ錬金術師を極めたからな。
問題はこいつ(ウエストポーチ)が空間拡張のエンチャントに耐えられるかどうかか・・・
空間拡張のエンチャントができる素材は限られているし、空間拡張の限界値もだいたい決まっている。限界値いっぱいの素材にエンチャントを重ねがけすればエンチャントは失敗し素材のエンチャント効果も失われる。
ウエストポーチをなんともなしにくるくる回しなが眺めていると小さなタグが付いているのに気ずいた。
『メイドイン神様。拡張制限無し。不懐属性。』
・・・口は悪いが何気に序盤のサポート万全だな。
俺はそのままタグをちぎり・・・外付けだったため不懐属性ではなかった・・・懐に入れる。
ウエストポーチの中身を一度外に出すとグレイウルフの魔石を手に取り空間拡張のエンチャントをウエストポーチに施した。
エンチャントの結果、ウエストポーチの容量は六千リットルまで上がった。大型サイズのポリバケツが百五十リットルだから四十杯分だな。
簡易エンチャントではこれが限界だな。これ以上は専用のエンチャントテーブルがいる。
拡張のすんだウエストポーチに食糧、薬類、着替え、等と、グレイウルフの毛皮、牙、魔石を七匹分入れる。
五十七匹分とか持って行っても目立つだけだし買い叩かれる可能性があるからな。小出しにして売却しよう。
五十匹の毛皮と牙、五十個の魔石を無限収納にしまう。おっと、金も分けるか。銀貨二十枚・・・20万シルバー・・・もしまう。
状況確認と装備品、アイテム整理終了。
お日さまは中天に差し掛かる。もうお昼だ。
携帯食糧でメシにするかはたまた何か獣でも狩ってメシにするか悩んでいると、
俺の気配探査に引っ掛かった。
大型の生命体が五匹。中型の生命体が二十・・・五匹か。
それらが十二人程の集団に襲い掛かっている。
そういえばまだチュートリアルだったな。
見なかった事にするか、合流して一緒に撃退するか、合流する場合は被害がどれだけ出たかで、始めに行く町や村が決まるんだったな。行き先が決まればチュートリアルは終了。
さて。どうするか?
そんなことを考えながらも俺は襲撃地点に走り出す。
コネを作るのもいいな。この手の貸し借りにはこの世界の人々は義理堅いからな。
襲撃地点に到着した俺の目に写った光景は正に戦場だった。
グリスリー・・・灰色熊・・・五匹と、
ジャッカス・・・エリマキトカゲが人くらいの大きさに巨大化したトカゲ・・・二十匹程に襲われている小さな商隊だった。
ジャッカスは何匹か狩り殺したみたいだか、体長四メートルを超すグリスリーには牽制位しかできてない。
このままだと押しきられて全滅もあり得る。いや、全滅も時間の問題か。三人で一匹のグリスリーに当たり、残りの人数で牽制とジャッカスを狩っている。グリスリーに対する決定打を持ってないようだ。
そんなことを考えているうちに魔法と矢の牽制を掻い潜り一匹のグリスリーが片手剣に小盾を持った青年に襲いかかる。
青年が深手の傷を負っているのを好機と見たか?
「シャャャャア!」
俺は必殺の声をあげ瞬動術でグリスリーに接近しショートソートを抜きながら大地を蹴る。跳んだ勢いのままグリスリーの背に飛び乗ると手にしたショートソートをグリスリーの後ろ頭に突き込む。ゴリュ、ブチュリ、と、嫌な感触を感じながらショートソートを軽く動かす。
頭蓋骨の隙間から脳に達したショートソートの刃が脳を撹拌する。
ショートソートを引き抜き、死亡したにもかかわらず惰性で走り続けるグリスリーから飛び降りついでに横っ面を蹴る。
俺が狩り殺したグリスリーは、どぅ、と、倒れ、俺は蹴った勢いで空中で体をひねり、そのまま片手剣に小盾を持った青年と相対するグリスリーに跳び蹴りを喰らわす。
蹴りを喰らったグリスリーは周囲のジャッカスを巻き込みながらもう一匹の牽制を抜けてきたグリスリーと衝突する。
俺はそのまま青年の側に着地し声をかける。
「助太刀しよう。」
「頼む。」
傷を負った青年が膝をつく。
青年の側に片手剣と小盾を持った中年の男と大剣を持った中年の女が駆け寄る。二人共に容姿がなんとなく似通っているから兄妹か?
そんな彼らから視線を外しグリスリーの方を見るとグリスリーが此方に突進してくる所だった。
男が跳び蹴り喰らわした方はまだグロッキーみたいだ。
ショートソートを鞘に納め、斬鉄剣・真打を抜刀する。刃渡り八十センチの両刃の直刀が煌めく。俺もグリスリーに向かって走り、衝突寸前で体をかわし、後ろ足をすれ違い様に斬りつける。
斬鉄剣は何の抵抗もなく後ろ足を通過し斬り飛ばす。足を斬られたグリスリーはバランスを崩し、前転しながら突進の勢いのまま、背中から叩きつけられる。
コイツは彼らに任せよう。
尻餅をつき、前足を地面につけグロッキーになっているグリスリーに瞬動術で近寄る。
俺に気づき顔を上げるがもう遅い。
大上段から斬り下ろされた斬鉄剣がグリスリーの頸をはねた。