blood06.
「母さま!!父さま!!」
雪刃を抱える悠兎を見て珱華は駆け寄った。
「操られた国民たちが迫ってきてる。城が囲まれた。とりあえず安全なのはこの部屋だけだ。いつ国民たちに見つかってもおかしくない。」
「そんな…」
「珱華、よく聞け。俺と雪刃のあとを継ぐのはお前たちだ。だから…万一何かあったとしてもお前たちだけは国を守れ。…雪刃はさっきやられて純血を入れてやらないと動けないんだ…。庇った俺も巻き込まれてやられたが…たいしたことはない…」
「嫌よ、お父様!そんな風に言わないで…寂しいことなんて…」
「珱華…」
雪刃が目を覚ましふらふらしながらも立ち上がった。瑛華と星悟をそっと抱きしめる。
「私は…あまりうごけないけど…守れる…」
「無茶言うな、雪刃!今動いたら…」
「大丈夫。」
雪刃は起き上がる。マントがひらりと揺れ、強い意志を宿した瞳が塞いである扉を見つめる。
「…行ってくる。悠兎、珱華たちをお願い」
「やめろ、今行ったら…!」
「…大丈夫だから。無事に帰ってくる。必ず。国民たちを救うわ、姫として。」
「…強くなりましたね、雪刃」
「!?」
窓際に座っている気品のあるどこか娘と似た姿。その出で立ちはまさに魅血鬼の姫。
「…魅姫お母様。」
「夜空…魅姫…?伝説の魅血鬼で最強と言われた姫。…あなただったのか…」
悠兎は跪いて挨拶をした。
「翡翠悠兎と申します。この度は国王という地位をいただけて幸せな限りです。」
「顔を上げなさい、悠兎。貴方のことはずっとみていましたよ。国王に貴方がなってよかったと思っています。国民たちを見事にまとめましたね。……さて。雪刃。今はこのような状況になって告げなければならない事実があります。葉城颯真をおぼえていますか?」
颯真、ときいてびくりとした。なぜ、今話題が颯真に?
「…ええ。けれど彼は私が殺しました。」
「…もし色秋冬、咲桜羽姫弥乃の手によって生きていたら?」
雪刃は、少し間を置いて冷静に答えた。
「再び、殺すわ。きっと。けれど、何故母様が颯真のことを知っているの?」
「…葉城颯真は、本来は魅血鬼側の一族。そして、この国で、貴方と結ばれるはずだった王位継承者兼兄よ。」
「!!!」
「颯真はあなたの兄。そしてのちの王子になるはずだった存在。けれど、珍しい魔血鬼と魅血鬼のハーフである彼は王家と身分を捨て、闇に魅入られるように出て行った。秋冬によって記憶を半分消されたあと魔血鬼になって生きていく道を選んだ。それが彼の真実よ。」
愕然とした。颯真があんなに私を好いていたのはきっと……愛していたからだ。けれど私は悠兎と婚姻を結んだ。颯真の真実も知らずに。
「お母様…私は…間違っていたのでしょうか?颯真を…」
「大丈夫だ。颯真をそうさせたのは魔血鬼の秋冬、姫弥乃だ。雪刃のせいじゃない。」
「…雪刃、そちらは、あなたの娘と息子なのよね。やはりあなたにそっくりね。」
「ええ、お母様。珱華も星悟も私や悠兎に似て頼れる大事な子供達です。じきにくる式典でお披露目いたします」
にこりと微笑んだ魅姫は空を見つめて嬉しそうにしていた。
「さあ。行きなさい。雪刃。姫として、国を守る者として。」
「…珱華も、力を貸してもらえる?」
「はい」
二人はドアの前にたつと武器を構え、勢いよくドアを開けた。