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消えたカラアゲの行方  作者: みりん
新しい『いばしょ』
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お手伝い


 今日も香ばしい匂いが食卓に漂う。


「いただきます!」


 満腹で食べられなくなってしまうことがないように、最初にカラアゲを食べるのが肝心。

最近の私の昼食はほぼ毎日カラアゲで、たまにハンバーグのような肉団子や包み揚げもある。

 初めてカラアゲを食べたあの日から、一番最後に食べたコロッケもどきは大至急で改良を進められ、カラアゲの中の『包み揚げ』というポジションを獲得した。

具は油っぽくなりすぎないように野菜ベースのものや、普段のおかずに少し手を加えたものなど、まさにコロッケといえるようなものになった。

謎の粒々の衣はカプセルのように油をため込んでしまうようで、パン粉に変更された。

油切れもパン粉の方が良いようだった。

今思えば、粒々の衣の見た目はみじんこ揚げに似ていたような気がする。


 本来なら油の取りすぎが身体に悪いということは皆よく分かっているようで、皆が毎日食べているわけではなく、私だけのために少しだけ揚げてくれる。

この世界の調理器具がどんなものかとか保存方法は発達しているのかをよく知らないから、どのくらい大変なのか想像ができない。

油だって使い回しするにも限度があるし、そもそも使い回しているのかは調理しているところを見たことがないから分からない。

それでも毎日用意してくれて、私が元気になればなるほど張り切って作ってくれるし、体調が悪くなるとより慎重に作ってくれる。

そうやって私の体調に合わせて作ってくれるから、私は順調に回復している。

回復どころか今までで一番体力がついていて安定しているだろう。

その甲斐あって、お姉様との勉強やガルじいの試験治療も再開できたし、天気の良い日には少しだけ散歩に行ったりもしている。

ベッドに籠りきりではなく自由に歩ける時間があるというのは心にも良いことがよくわかる。

動けるようになってからはため息をつきたくなることも少なくなったし、表情もよく動くようになった気がする。

適度な運動がストレス解消になるというのは本当らしい。


 動けるようになってくると、何かしたくて仕方なくなる。

いくらボーッとしているのが得意でも、それはしなくてはいけないことがあったからこその現実逃避の結果みたいなもので、今すべきことが生きることという今世の私には退屈になってくるのだ。


「おかあさま、きょうは私がしょっきをあらいます!」

「「「えっ」」」

「ほえ?」


 手伝いを申し出ると、衝撃を受けたというような表情が返ってきた。

お母様に至っては手に持っていたナプキンを落としてしまったくらいだ。


「おさらをあらう、おてつだいを、しようとおもったのですが…」


何か失敗しただろうかと恐る恐るもう一度言うと、お母様が困った顔をした。


「食器の片付けはメイドのお仕事ですよ。アルフィはゆっくりしていて良いの」


そう。

確かにいつも片付けをしてくれるのはメイドのフルゥとモニアだ。

でもここはお城や大きなお屋敷の中ではない。

周りが豊かな自然に囲まれた村にある家で、狩もしていることを忘れてはいけない。

住んでいる家は外見より広い不思議な建物で、どこかの民族の富裕層が暮らしていたらしいことくらいしか知らないが、これが街でも普通だとは思い難い。

どちらかというと家の外を普通の環境だと思った方がいいと思う。

そう考えると、将来的にこの村を出たときには食器を洗うことなんて当たり前になるはずだ。

というか、村どころかこの家を出れば子供だって普通に家事をしている。

そもそもメイドがいるのが普通じゃない…。


「で、ですが、…えっと、おねえさまのお友だちのおうちでは、お友だちもおうちのことを、てつだっていました。ねえ、おねえさま?」



お姉様に話をふると、そういえばそうだね、と目を真ん丸にしてうなずいた。


「お母様、スーのお家にはメイドがいない…あれ、他の子のお家にもいなかったよ?」


お姉様、気づいてなかったんだ。

お姉様らしいと思いつつ、お母様に目を向けると、何故だか困った顔をしていた。


「おかあさま?」

「ああ、いえ、そうね。そうよね。私もすっかり染まって…。貴女たちは選べるのだから、どちらも必要ね」


お母様は懐かしむように私たち…というよりさらに遠くを見て、眉を下げて微笑んだ。

理解はできなかったが、お母様が過去を見ているのであろうことだけは分かった。


「どっちもって?」


お姉様が首をコテンと傾げて言う。

かわいい。


「礼儀作法と、家事です。ええと…私が作法を。モニアとフルゥに家事を…教えてもらおうかしら」

「ふふ、喜んで」

「ふふ、承知いたしました」

「もう、貴女たち…」


モニアとフルゥの含みのある笑いに、苦笑いを返すお母様。

雰囲気から、お母様は家事が苦手のようだ。

というより、お母様は家事をしたことがあるのだろうか。

メイドがいるというお母様には家事をする機会がないように思える。

この田舎?の、狩・採集をして生活する村で礼儀作法を教えられるのだから、身分が高いのは間違いないだろう。

この小さな不思議な村に住んでいるのは、リプルデの私以外に何か問題があったからなのではないだろうか。

お母様たちの過去に何があったのか、いつか知ることになるのだろうか。


「家のなかでの作法は、私を見ているから問題ないでしょう。基本的な礼儀ができていれば大丈夫よ。言葉遣いは…どうしましょう。丁寧な言葉は学校で勉強しているわよね、アイリ」

「うん、はい!勉強しています。えっと、読み物は丁寧な言葉で書かれていることが多いので、練習したら、ちゃんと話せるようになるよ!…と思います!」


自信ありげに返事をしようとしたものの、だんだん首をかしげてしまって困った表情になっていくお姉様。

中途半端に胸を張って、しょんぼりと自信をなくす様子にお母様が柔らかく笑う。


「ふふ、そうね。窮屈な思いはさせたくないですから、時間を決めて会話の練習をしましょう。夕食後は落ち着いてお話ができそうね」

「やる!やりたいです!お母様!」


可愛いなぁと、やる気に燃えるお姉様のことを眺めていたら、お母様の視線がこちらに来た。

なにかと思って見ていると、お母様はにこっと笑って言った。


「せっかくですから、アルフィはお皿洗いのお手伝いをしてみましょう。何事も、やる気と元気があるときにやるのよ」

「!わたしも、いいのですか!」


思わず、お母様にかけよってしまった。

ぎゅっと抱きついて、お母様のふわふわのいい匂いに包まれて我にかえる。


「あっ、えっと、ありがとう、ございます。げんきなので、がんばります!」

「ほどほどに、よ?」

「はい!」


ぽんぽんと頭を撫でられて、幸せ。

お姉様を手を振って呼んで、一緒にぎゅっ、頭をぽんぽんとしてもらう。


「ふふふ」

「お互いがんばろうね、アルフィ!」

「はい!おてつだい、いってきます!」


 お母様の向かいの椅子に座り直して気合いを入れるお姉様に見送られながら、私はフルゥとモニアとともに台所に向かう。


「こちらです」


 私の歩調に合わせ、おそらく何時もよりずっとずっとゆっくりと進んでたどり着いた台所。


「んん?」


そう、家が普通ではないということは、つまり台所も普通ではなくて。

厨房と言った方がしっくりくるようなところだった。

私の反応を見たモニアは小さく笑うと、しゃがんで目線を合わせて説明を始めた。


「アルフィお嬢様は気づいておられるようですが、ここは平民の台所とは違います。この規模…部屋の大きさや調理器具の種類からは、共通点を探す方が難しいかもしれませんね。この村に住む方々の全てがこの厨房を使いこなせているわけではありませんから、私たちが平民と違う(・・)と思っておくべきでしょう」

「はい」


やはりというか、もう驚かない。

それよりも、やっと周りと違うことを明確に言葉に表してもらえたことにホッとした。

いずれ、もっと元気になって町を出たときに、何も分からず何もできないのでは生きていけない。


「町の台所とは違いますので、ここで経験をすることと同じことができるとは限らないことは、理解しておいてください」

「…モニア、これ、ちゃんとお嬢様に伝わっているかしら?」


はい、と返事をしようとしたところで、フルゥが小さく言った。

最もな言葉で、忘れそうだが私はまだ5歳だ。


 というか、もう5歳なのか。

お姉様のお陰でたくさん勉強できているが、何故かものすごく勿体ない時間を過ごしている気がする。

正直、前世を引きずっていて学校に行くことに抵抗があるから、今の状態では学校に通い続けられないという現実に甘えている自覚はある。

それでも、せっかくここに生まれてここまで生きてきたのだから、もっと意味をもった生き方がしたい。

意味を見つけるためにはそれを探さなくてはならないし、探すためには知識がなければならない。

そのうえ前世の二の舞にならないためには、家族以外の人との関わりも大事だと思う。

それなのに、こんな状態ではだめだ。


「アルフィお嬢様?」

「はい、このお家は、とくべつ、です。もっとちいさくて、おどうぐもすくなくて、つかいかたも、きっとちがうのですね」

「ええ、そうですよ。…ほらフルゥ、お嬢様は分かっていらっしゃるのよ!」


 モニアは自慢気にフルゥに言う。

笑い合うふたりが、キラキラ眩しい。

ふたりは、きっと意味をもって生きていると思う。

そしてその生き方に誇りを持っている。

私も、そんなふうに生きられるようになりたい。


「では、アルフィお嬢様、始めましょうか」

「はい!」




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