表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えたカラアゲの行方  作者: みりん
プロローグ
2/51

大切なの

始めなので連続でいってみます


ちなみにここからは一人称です

 「あ」




 っさりと願いは叶った。


こうなるとは予想していなかったけれど。


まさかこの歳で寝不足と栄養不足と運動不足で倒れて終わりとは思わなかった。

呆気ない。

そんな程度で、人は死ぬことが出来てしまうのか。



まだ自分以外誰も帰っていない家の中でぐったりと横たわる。


初めはただの立ち眩みだと思った。


突然ふらついて脚から力が抜けて倒れこんだリビングの床はひんやりとしていて気持ちがいい。




 最近は眠らないで本を読んで、死ぬまでに好きな本を全て読んでしまおうと思っていたところだった。それを理由にして課題から逃げていたのが真実でもそうしたかった。

そんなことをしていればもちろん寝不足になる。

そのせいだろうと思っていた。

そのせいで食欲がなくなって栄養不足にも繋がったのだった。




そればっかりではなかったようだけど、やっぱり人間は弱いなぁ

私にははっきりした欠陥も病気もなくて、一人なかなか死ねないんじゃないかと怖かったけど……私もちゃんとひ弱な人間の一人だった


嗚呼、嬉しい

嗚呼、悲しい




なんとなくただの立ち眩みではないと気づいて徐々に削られていく自分の残された命を感じられるというのは初めて私に生を実感させた。




もうすこしはやく、しりたかったなぁ…

でもこれで、さいごのひとりぼっちにはならないよ


そう思っても、


私はやっぱり、死ぬのが怖かった。

もっと生きていたいと思った。

でも手遅れでもそう思えて嬉しかった。

そのうえ命が削られるのがゆっくりで長くそれを感じていられるのが嬉しかった。




―――バンッ



少し遠くで音がした。


「あげは!?どこ?なにかあったのっ!?」


私の母、“ゆずは”の声が家に響いた。

晩御飯の献立について電話している最中に会話が途切れ、携帯が落下した際の大きな音を聞いた母は職場から飛び出してきたのだ。




いつもはしずかにしなさいっていうのに…

ばたばたしすぎだよ、おかあさん


「……ぉか、……さ…」


私の口からはもう随分声を出していなかったみたいな掠れた声がでた。

その代わりみたいにぼろぼろと涙が溢れてきた。

その事にびっくりしていると、倒れこむ私を見つけた母が慌てて駆け寄ってきた。


「あげはっ!?ちょっと、どうしたのよ?熱でもあるの?貧血とか?」


身体を確かめる母を見た私は泣きながら笑った。

力が入らなくてふにゃっと笑った。


「な、なに笑ってるのよ!!どこか痛いの?苦しくない?こら、聞いてる?こんなにぐったりして!」


何が起こっているのか分からない母は慌てるばかり。慌てすぎて怒る母に私は力なく笑うばかり。


「や、…っ…り」

「なに?どうしたの?」



やっぱりおかあさんきれい

おかあさんかっこいいくせにかわいい

ずるいじゃん

ちょっ、かおちかいってば…

あぁでももっとみていたいな、さいごだし




「ただいまぁ~。あれ?お母さーん?今日ってこんなに早い日だっけ?」


今日は4限授業だった姉が帰ってきた。

いつものこの時間にはないはずの靴に首をかしげる。


「ことはっ!!!!あげはが変なのっ!来て!」

「へ?へん?なに、どうしたの慌てて」




ちょっと……へんって、おかあさん…

もうすこし、こう、なんていうか…ほかにいいかたあるよね…



叫ぶ声を聞きつつ脳内で突っ込みを入れる私だが、呼吸が苦しくなりはじめて少し余裕がなくなってきていた。


「帰って早々どうしたの?お母さん……って、え?え?あげはっ!?」


母より静かにリビングに入ってきたことははその光景に息を呑んだ。


「な、なに?具合悪いの?相当やばくない?えっ?お母さん、救急車とか呼んだ?」

「家に帰る前に呼んだわ。電話していたら急に倒れるんだもの。あげは、大丈夫?何があったの?」


ひとりぼっち横たわっていたのが2人、3人と増えていくのを、複雑ながら嬉しく思う私はぼんやりとふたりを見た。


「おか…ぇ、り…?」


場違いな気がしたけれどそう言っておきたくてことはの方へ視線を動かす。

そうじゃなくって、と珍しく困惑する姉の姿にまた笑った。


「おと、…ん、は?…ぉしごと?」

「お父さんならそろそろ来るはずよ。びっくりして電話したから…仕事を放り出して飛んでくるはずだもの。…そうではなくて、急にどうしたの?ただの立ち眩みならいいのだけれど…そうではなさそうね」



―――バンッッ――

「あげはっ!!倒れただと!?大丈夫かぁっ!?」


狙ったかのように飛び込んできた父、“俊也しゅんや”。



あっという間に家族全員が揃った。


「っ、ふふっ…」


私はまだ泣きながら笑っていた。

全員揃うのを待っていたかように命が削られるのがはやくなった。



しっているのはわたしだけ

なのにみんなきてくれる

だいすきなかぞくがみてる

しにたいなんておもったから、ばちがあたったんだ

かなしくて、しあわせなばちがあたったんだ



「もぅちょと、…いっしょ、いたぃ…なぁ…」


怪訝そうに除きこむ3人の顔は面白かった。




あと、いっぷん




「あり…がと、き、てくれ…て…」


私の言葉に3人は首をかしげる。


「ありが、と、…ぅ、うんで、くれて」


恥ずかしげに言う私に3人は目を見開く。


「…なまえ、よん…で?…わたしの、なまぇ…」


そんな願いに3人は顔を見合わせた。

3人の顔には冗談だろう?、と書いてあった。




あと、にじゅうびょう




「おとーさ…ん」


「あげは?」


「おかぁさ…」


「…あげは?」


「…こと、ぁちゃん…」


「あげは?」






あと、さんびょう






「…だいすき………―――」






 ぜろ























あっさりと、寂しい願いは叶った。





















「あげは?」





 ゆずはの腕に抱かれ、目を閉じて微笑みを浮かべるあげはの頬に流れる涙が止まった。

ぐったりと全身を預け幸せそうに微笑んでいる。


「あげは?」


家の中は静かだった。


「あげ、は」


名前を呼ぶ声と、三人の息づかいだけがあった。


「あ、あぁ…あげっ、あげは、あげはっ、あげは?あげは!?」

「あげは!!あげはぁっ!」

「あげは!?ぁ、あげは!!」


もう、どれだけ名前を呼んでも返事はない。




大好きな娘は

大切な娘は


大好きな妹は

大切な妹は


大好きな家族は

大切な家族は





もう、動かなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ