文字を覚えよう
主人公、じわじわ成長中
窓から見えていた雪はすっかり融けきり樹木にいくつもいくつも生えた新しい蕾が可愛らしく膨らんできている。
私はやっと立てるようになった。
立てると言ってもつかまり立ちで30秒も持たずにダウンしてしまう。
こんなに30秒が長いとは知らなかった。
まだ支えがないと立っていられないし、そのうえ虚弱なのが相まってそう長くは動けず、伝い歩きもままならない。
ハイハイでさえも調子に乗って休憩を挟まないと体が動かなくなってしまうくらいなのに、そのハイハイとは比べ物にならないくらい負担が大きいのだ。
これでは何時まで経っても部屋の外にすら自由に出られない。
まあ、例え歩けるようになって部屋から出たとしても室内でもすぐに疲れきってしまう状態だから5分と持たずに倒れて連れ戻されてしまうだろう。
直ぐに倒れたり連れ戻されたりしなかったとしても寝込んでしまうことは目に見えてわかる。
早く外に出られるように、そして丈夫になるために毎日少しずつ立つ時間を増やしつつ、疲れてしまったらお母様に絵本を読み聞かせしてもらう事にした。
絵本は王子様とお姫様のおはなしは勿論、魔法が出てくるおはなしも沢山あった。
前世にあった幼児用の三角、四角形や丸の絵本や色の絵本は見たことがない。
読み聞かせてもらうときはまず絵を楽しんで、もう一度読んでもらって今度は声と文字を追っていく。
これをいろんな本で何度も繰り返していく。
そうすると文法とか文字とか、どこか重なるところがでてきて分かるようになってきた。
勉強嫌いだった私がこんなにも文字を覚えようと必死になっているということには私自身驚きだ。
でもそれは悪いことではないし、前世から知りたがりの私は本当はこうしたかったような気がした。
興味あるものは何でも知りたい。
この世界の人生はとても有意義なものになる気がする。
そしてひとつ分かったことがある。
私がずっと家族の呼び方を“お母様”“お父様”“お姉様”だと思ってきたのだが、物語を読んでもらったりしているうちに間違いだと知った。
“お母さん”“お父さん”“お姉ちゃん”だったのだ。
顔があんまりにも前世の物語とかに出てきそうな美貌なものだから、イメージで訳していたので当然と言えば当然だ…。
呼び方は訳が違っていただけだから変えなくてもいいが、前世の家族との違いもはっきりと持ちたいし、もうイメージが出来上がってしまっているので、脳内では“様”呼びでいくことにした。
そんなこんなで少しずつ文字も分かるようになった私は新たな発見をした。
『はじめてのまじゅつ~あなたはなにができるかな?~』
という本である。
最近お姉様が私のとなりで熱心に読んでいるのだ。
「わたしがアルフィを守るのよ!がっこうに行くまでにおべんきょうするの」
そう私に宣言したのはあの、初めての外出の翌日だった。
家で文字の勉強をしていたお姉様とは違いあのときはまだ文字が分からず何のことだか分からなかったが読めるようになった今では魔術を知るいい機会だと思い横から覗いている。
『はじめてのまじゅつ~あなたはなにができるかな?~』によると、題名にもあるように人それぞれ得意な魔術と不得意な魔術があるらしい。
持っている属性の違いからくるらしい。
この本に出てくる属性は、火水地風の四つ。
それ以外にも有るのか無いのかは書かれていない。
ところで、この本には魔力についても書かれているのだが、どうやら生半端な知識で大きな魔術を使おうとすると魔力暴走や魔力枯渇が起こる可能性があるらしく、基礎的な魔術とそれに合った初歩的な魔力の扱い方しか書かれていないようだ。
それでもその魔力の扱いが上手く出来ない人がこの本を読んだら大変なことになるんじゃないだろうか。
よくよく見たら裏表紙の端の方に、
『お子様の手の届かないところに保管し、使用する際は必ず防御結界(中位以上)と治癒魔術の行使が可能な保護者をつけてください』
と書かれている。
なんかこわい
ちなみにその本には魔術訓練をしたり詳しく学習出来る学校があるとも書かれていた。
そういえば絵本には魔法が出てきたのにこの本に魔術しか出てこないのはどうしてだろうか。
魔術と魔法の違いについても、そこに行けば詳しく教えてもらえるのかもしれない。
絶対そこ行ってやる
お姉様が実に勉強熱心でいつも私の隣で読んでいてくれる御蔭で私は本の内容をすっかり覚えてしまった。
子供の脳の素晴らしいこと…
今日もお姉様は本を読んでいるが覚えてしまった私は暇なので部屋のなかで踏ん張る練習をする。
立てるようになったばかりの時よりはましになり、掴まらなくても立てる時間が長くなった。
歩けるようになるまで後一歩だと思うのだがなかなか、その一歩が成功しない。
掴まり立ちしていても少しでも片足を浮かせるとそのまま倒れてしまうのだ。
むぅ、…なにこの悔しさ
ところで昨日知ったのだが、お姉様は5歳らしい。
そしてそんな、今年6歳になるお姉様は今年から学校が始まる。
お母様の話によると、この世界(国?)には前世での小、中学校と高校にあたるものがあり、小学校(そう解釈させてもらう)は6歳から9歳の4年間で中学校は10歳から12歳の3年間、高校は13歳から15歳の3年間となっている。
学校が始まるのは日本と同じく春からのようだ。
魔術を専門的に習う学校のことは話に出てこなかったが、きっとここから離れた街にでも在るのだろう。
今はまだ早いから聞くのは我慢だ。
小学校の準備をするお姉様はとても嬉しそうで、外遊びから帰って来たとき友達とお揃いだよ、と可愛らしい模様が彫られた木製らしいペンを見せてくれたこともあった。
お姉様から村の友達の話や学校が楽しみだということを聞くたびに、前世ではあんなに嫌っていた学校に行きたくなってきた。
私は学校に行きたくないと本当に思っていた。
どうしてかはよく分からない。
学校そのものとか、クラスメートとか、友達とか、兎に角怖かった。
勉強とか、怒られることとか、人間関係とか、兎に角嫌だった。
でも、だけど、私は友達が欲しかった。
友達が怖かったのに、友達が欲しかった。
私のことを受け止めてくれて、私にも受け止めさせてくれるような友達が欲しい。
お姉様の楽しそうな笑い声を聴きながら外の世界に想いを馳せる。
いや、ちょっと待て
……………そもそも、この体で学校って通えるのかな…?
読んでいただきありがとうございます
*章の名前編集&追加しました。
ころころ変わる可能性あります。すみません~
*2015/2/20 本文編集しました
・まほう→まじゅつ
・魔法 →魔術