まっしろ、おもいで、まっしろ
脳は忘れるように出来てるって言うけど、忘れすぎるのはかなしい
不安になる
でも思い出せたときの幸せというのは、形容し難い
でも幸せだからこそ、幸せをなくしたときが怖くて
よくわからなくなって
あれ、幸せってなんだろう?
いま、幸せなのかな
こうやって悩むことが出来るのも幸せなのかな
願いがあると幸せなのかな
願いが叶うと幸せなのかな
自分で穢いと思っている願いでも幸せなのかな
忘れたくない思い出があることが幸せなのかな
忘れたくない人がいるのが幸せなのかな
家族がいるのが幸せなのかな
友達がいると幸せなのかな
友達ってなんだろう
なんだろう
なんだろう
幸せなのかな
なんだろう
幸せってなんだろう
わたしって幸せなのかな
ご飯があって、
夜に眠れて、
朝に目覚めて、
ベランダのお花とお花にとまった虫を眺められて、
こうやって悩んでて、
たまに死にたいっておもったりして、
でも生きてて、
それなりに実感があって、
わたしは幸せだっておもってて、
おもってて、
ああ、そっかぁ…
幸せってなんだろう
っていう疑問には答えられないけど
幸せっていう言葉を何となく使いたくなったり
私は幸せじゃないって言い切れなかったり
私は幸せだって思うことを許せなかったり
私は幸せだって認めたくなかったり
そんなときは、きっと、
幸せなんじゃないかな
わたしは、それで、そういうことで、
いいんじゃないかな
そうやって悩むことを、
悩んだことを忘れる度に
また悩んで、
また新しいコタエを見つけ出して
また進んで
また忘れて
また悩んで
わたしは、そうやって生きてる
真っ白。
ただそれだけしか思い浮かばない。
家の壁だけを残して後は真っ白な雪に包まれている。
地面に広がる雪に浮かぶ段差の影が、そこに何かがあるよと教えてくれる。
お母様に抱き上げられたまま見る初めての外は、どこか記憶と重なる外だった。
四季がある日本で、冬には雪が降る地域で生きてきた私は勿論雪を被った草原も道も建物も見馴れたものだった。
いつからだったろう、積もった雪を見てこころ踊らなくなってしまったのは。
降り積もった雪とは裏腹に私のこころが少しずつ、ほろほろ、とけていくのを感じる。
前世で暗く深く沈んでいくなかで、いつしか明るい記憶が薄れていって、気づけなくなっていっていたのだ。
私は好きなことが沢山あった。
小さなことで沢山感動できる自分が好きだった。
宝物を見つけると、記憶の引出しにひとつずつ大切に仕舞いこんでいた。
引出しは突然ひとりでに開いて何の前触れもなく私を記憶のなかに連れていった。
あのときの出来事、あのときの気持ち…。
記憶のなかを冒険するみたいだった。
支えられたり、抵抗もできず揺さぶられたりした。
意味もわからず唐突に気持ちだけ思い出したときには混乱して辛かった。
幸せな気持ちを思い出して、どうしてか悲しくなることもあった。
そのうちに気持ちばかり思い出して、その時の出来事を思い出せないことに気づいた。
どうして私はこんななんだ
寂しくて、つらかった。
みんなは覚えていて、私だけ覚えていない。
『なんで覚えてないの』
私だって知りたいよ
『あげはにとってはその程度だったの…?』
そんなことないよ
そんなはずないよ
私は、嬉しかった、はず…
『そんなに簡単に忘れられるなんて良いわね』
よくないよ
忘れたくないこと沢山あるのに
忘れたいことを忘れられないのに
忘れるって、くるしいよ
こわくて、こわくて、くるしくなった。
私は宝物の引出しが嫌いになっていた。
自分が嫌いになっていた。
ひとりでに開くとそこに生まれるのは恐怖と悲しみしかなくなった。
感動がなくなった。
感動しても引出しに仕舞わなくなった。
気づかず仕舞ってしまった楽しい記憶は、幸せな気持ちは、私を苦しめた。
きらきら輝く雪は、私に勇気をくれる。
感動するって、とっても気持ち良い。
とっても楽しい。
とっても幸せ。
私はそれを思い出した。
反面、辛いことも思い出したけれどいつかわかりあえる人に会いたいな、とふと思った。
「ここ!ここよ、おかあさま!」
お姉様の導くままについていった先に見たのは、またも真っ白だった。
「どこかしら?分からないわ、教えて、アイリ」
首をかしげるお母様に揺られて私も首をかしげる。
いったいどこにあるんだろう。
感動することが好きだったと思い出した私はわくわくが止まらない。
「ほらっ!」
お姉様が指差した先に、確かに、白い花が幾つも咲いている。
白く白く、どこまでも白いその花。
「ねぇ!すてきでしょ、アルフィ。ね、おかあさま。しゃがんでアルフィにもみせてあげて!」
「ええ、ええ、そうね」
柔らかな笑い声とともに下がる視界。
「にゃ、あー!な、な!」
白い雪のなかで生きているその花は、今まで見てきたどんな花よりはっきりみえた。
胸がどきどきする。
ちょっとあぶない、苦しいほどに。
でも我慢。
生きてる、生きてるよ、って、言ってくれてる気がしたから。
「ねえ、アルフィ、だいすき。だいすきだよ。アルフィ」
いつにも増して、強い声でお姉様が言う。
「ねえ、おかあさま。アルフィはアルフィだよね?ここにいるよ。私の妹だよ。お花といっしょ。ね?」
どういう意味か、よく分からない。
けれどお母様には分かったようで。
少し悲しそうな表情をした。
どうしたんだろう。
不安になってお母様の胸にすりよると大丈夫よ、とお母様が言った。
「アイリ。お母様ね、私はね、このままは嫌だわ。悲しいわ。アイリもそうだものね」
「うん…」
「私、やっぱりアルフィを村の皆に会わせたい。会わせるわ」
「!、おかあさま、それじゃあ」
「ええ。そうすればもう嘘はつかなくて良いのよ。アイリをこれ以上苦しませたくないわ。私も苦しみたくない」
「うん、うんっ!」
嘘をつくって何の事だろう?
2人はうなずきあって、おいてけぼりの私を覗きこんでまたうなずいた。
「雪が溶けて暖かくなったら皆に挨拶にいきましょうね。それまでの辛抱よ。あとすこし、頑張ってくれるかしら。ごめんなさいね」
お姉様はお母様に抱きついて、何度もうなずく。
「アルフィにとって、お外は危険が一杯なの。だからこれからは、他にも辛いことがあるかもしれない…」
「おかあさま、私がアルフィをまもります!まもれるように、つよくなるよ。じかんかかるけど、がんばるよ!」
「あぃっ!おねぇしゃまっ、かぁしゃぁっ!る、がんぁる!」
「まあっ!アルフィもがんばるって!ふふっ」
2人は沢山のことを決心したようだった。
私にとってなにが危険なのかよく分からないが、私も頑張ってお母様とお姉様を支えたいと思った。
守られてばかりなんて嫌。
私も大切な人を守りたい。
折角魔法も使える世界なのだから、私にも出来ることがあるだろう…。
そう思いたい。
私はなにが出来るかな
あ、夜一に聞いてみようかな
夜一にも分からないかな
というか、会えるのか?
読んでいただきありがとうございます!
気になる点がありましたら、教えてください
気がついたら直します
*前書きを読み返してみたら想像以上に長かったので、連載中になっている『こころばこ~物置場~』の方に、改めて投稿しておきました