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infiorarsi 2  作者: 影都 千虎
発生
6/54

06

 吸血コウモリが夜な夜な人を襲っているという噂はここ二ヶ月ほどで急速に広まった。謎の貧血で倒れる人間がいたからだ。ロレーナは噂だけを聞いていたため、貧血で倒れた人間の存在を知らなかったのだが、そこはチェルヴィ医師が補足した。

 吸血コウモリには様々な説がある。

 真っ暗な道から、少し明かりのある道に出るとその瞬間に襲われるとか、ふと自分の影を見てみたらコウモリのような影に襲われていたとか。しかし誰もコウモリが人を襲っているところを見たことがないので、本当にコウモリが襲っているのかどうかは分からない。

 初めは、ヴァンパイアが襲っているという噂もあった。しかしそれは直ぐにデマと判断される。誰も首にヴァンパイアの噛み傷がなかったし、二十年以上トリパエーゼに住んでいる者は、そもそもヴァンパイアに悪いイメージを抱くことができなかったのだ。ヴァンパイアにすら偏見を持ってしまうのは、ヴァンパイアでありながらこの町の人間を守ってくれた彼女に申し訳ないから、と。

「その噂に真実を付け加えてやろォ」

 そう言ってチェルヴィ医師はおもむろにナディアの首を動かした。それから髪の毛をはらって、首の左側が完全に見えるようにする。

「ここだァ。見えるか? この自己主張の激しい痣だァ」

 そう言ってチェルヴィ医師が指したところには、コウモリ型のような小さな痣があった。確かに自己主張が激しい。こんな形をしていれば、嫌でも気になってしまう。

「この痣がある患者は一ヶ月前にも一人いた。ついでにこの、襟な。ここに若干血がついてンだ。血をとられたのは確実だろォな。だが傷はどこにもねェ。変な話だよなァ」

 言い終わるとチェルヴィ医師はナディアの首の位置を元に戻した。眠りが浅ければこの動きで起きてしまいそうなものだが、ナディアに起きる気配はない。どうやら深い眠りらしい。

「へぇ……ロチェスさんの話し方じゃ信憑性のない噂っぽかったけど……本当、みたいだね」

「はい……私もずっとただの噂だと思っていたんですよ……」

 二人は驚愕の色を隠せないようだった。ただ、ロレーナの中には驚きのなかに沸々と沸き上がる確かな怒りがあった。その証拠としていつもののんびりとした口調ではなくなっている。

 一方ビアンコは驚愕ではなく、俯いて、なにか考え込んでいるような、難しい顔をしていた。

「どうかしましたか? 何か、気になることでもありましたか?」

 ビアンコの表情を不思議に思ったロレーナはビアンコの顔を覗き込むようにして訊いた。この件についての情報を得たいと考えているのだろう。

 ビアンコよりも長身のロレーナの顔が、俯いている自分の顔の目の前に現れたことに驚いたのか、ビアンコは一瞬慌てたような素振りを見せた。が、直ぐに平然を取り戻し、ロレーナの質問に答える。

「いえ、大したことではありません。……ただ、血が、気になりまして」

「血が?」

「はい。チェルヴィ医師も言っていたように、傷がないのにどうして血がつくのか、と。……それから、噂についても気になります。首に傷がついていないのに、どうして『吸血』と言われているのか」

「それは……」

 そこでロレーナは言葉に詰まった。貧血の症状というだけでは吸血行為と結びつけるのは難しい。傷がないなら尚更だ。どこから血が出てきたのだろうか。

「僕は専門家じゃないから詳しくないけどさ、こういう話なら聞いたことがあるよ。この方法なら多分それは解決するんだけど……今度は、コウモリを訂正しなきゃいけなくなるね」そこでスメールチは一息つき、二人の反応も待たずに再び喋り出す。「水属性の魔術は、大気から水を生成するよりも、どこかの水をテレポートさせているのが殆どなんだって。テレポートして、自分の思い通りに扱っている。これが、魔術の原理みたいだよ。それを、この血に応用してみたらどうかな? 痣はよくわかんないけど……血液を、貧血で倒れてしまうくらいの量テレポートさせて奪う。扱いにちょっと失敗して襟に血がついたけど、これなら傷はつかない。でも、この仮説でいったら犯人は……」

 スメールチはそこから先の言葉も言いたかったようだが、あえて言わなかった。言わずとも伝わると思ったからだ。

 そして、その思惑は的中する。

「ああ……そう、みたいですねー……。今の材料だとぉ、それが一番現実味がありますー。痣はぁ、それこそ自己主張の表れだと考えても……」

 小さな声でロレーナは呟くように言った。その顔は無表情だ。だからこそ、いつもの口調がより恐怖を与える。

「誰なんでしょうねー。クリムちゃんが作った平和を……やっと変わってきたこの国の人たちの見方を、全部壊しちゃうようなおバカさんは」

 犯人はシャンテシャルム人。または魔術が使えて且つシャンテシャルムの印象を壊したがっている人物。そのことがロレーナの中で確定した。

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