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infiorarsi 2  作者: 影都 千虎
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45/54

06

 爆破によって天井にはぽっかりと大きな穴が開き、そこから一人が軽い身のこなしで飛び降りてくる。「うん、うまくいったね」と満足げだった。

「ああ、やっぱりお兄さんの方にはなにもしないよね」

 ロレーナとナディアが無事であることを確認してからネロがいる方を見てスメールチは言った。爆破による煙のせいでロレーナにはその姿が見えていない。

「大丈夫、ロチェスさんはなにも悪くないよ。そういう風に思わせたお兄さんの責任さ。ねえ、お兄さん?」

 そう言ってスメールチはなんのためらいもなくネロに近付く。スメールチがネロの横に立った頃に完全に煙が晴れロレーナにもその姿が見えるようになった。

「大丈夫かい、お兄さん。一応助けに来てあげたよ」

「う……」

 呻くネロの頬をスメールチがペシペシと叩く。ネロは壁の辺りまで吹っ飛ばされており、壁に背を預けた状態で座り込みぐったりとしていた。どうやら爆破の衝撃をもろに食らったらしい。いくら不意打ちだったとはいえ、ダメージを抑えるくらいのことはできたはずなのだが、それすらネロはしていなかったようだ。

「話は上で聞かせてもらったけどさ、お兄さんって結構演技がうまいんだね。僕が居なかったらロチェスさんたちは完全に騙されたままだったよ。ヒヒヒ、よかったね」

 スメールチの言葉の意味をロレーナは理解できない。それを察知したスメールチは、荷物を置き腕を捲りながら事実を伝えた。

「ビアンコさんが言ってたことが全部正解だったんだよ。お兄さんがビアンコさんの主で、お兄さんに限界が来たんだよ。魔力が尽きたって話ね。スフォリアテッレだけで過ごしてたのも本当だろうね。ロチェスさん、届けてたよね」

「だったら、血は……? 犯人はぁ、ネロ君じゃあないんですかー……?」

「いいや、犯人がお兄さんっていうのも正解。ただお兄さんは血を一滴も飲んでいないのさ。リヴェラ君は半分正解で、半分不正解って感じかな」

 スメールチの説明にロレーナは余計に混乱した。だったら人を襲ってまで集めていた血はなんだったというのだろうか。

「ヒヒヒ、そこがお兄さんらしいって言うべきなのかな。頑張ったとは思うよ。バカだけどね。うん? お兄さんが何をやらかしたか気になるかい? それはね――」

「やめろ」

 鋭い声でネロはスメールチが言おうとする言葉を遮った。どうやらそこには触れてほしくないらしい。

「……ヒヒヒ、まあいいさ。それじゃ、お兄さん。とりあえず僕の血でも飲みなよ」

「は?」

「遠慮はいらないよ。あれ? やっぱり腕じゃなくて首じゃないとダメかい?」

 すっとんきょうな声をあげるネロにスメールチは腕を差し出しつつ、首にかかった髪を払っていつでも首を出せるようにする。ネロはすぐに「いらない」と断った。

「お兄さんに拒否権があるとでも思ったのかい? ……そうだな、自分のためにって響きが嫌なら、ビアンコさんのためにってことにしたらどうかな? こっちはお兄さんを助けてビアンコさんを戻してもらうつもりなんだし」

「……一応、ビアンコも俺なんだけど」

「でも彼女には自我が芽生えた。もう立派な一つの個体だよ」

 しかしそこまで言われてもネロはスメールチの血を飲むつもりは全く無いようだった。これでは埒があかないと思ったスメールチは強行手段に出ることにする。

「後がつかえてるんだからこっちとしては早くしてほしいところなんだよね。お兄さんがその気なら、こっちだって考えがあるよ」

 そう言ってスメールチはどこからかナイフを取り出して自分の指先を切った。走る痛みにスメールチはほんの少し顔を歪ませる。その突然すぎる行動にネロは戸惑うしかない。

「は……頭おかしいんじゃねーの?」

「残念ながらまともだよ。お兄さんが自分で飲まないから、僕が飲ませてあげようと思ってね。口移しの方がちゃんと飲ませられるかな? 言っとくけど僕はバイだからね。なんの抵抗もないし、本気でやるよ」

 スメールチの目は本気だった。ようやくここで、ネロは自分に拒否権がないということを理解した。

「……わかった」

 嫌そうに言うと、ネロはスメールチの腕をつかみ自分の口許に寄せた。

「動くと傷がえぐれるから」

「そりゃ怖……ッ、い」

 突き立てられたネロの牙がぶつりとスメールチの腕を貫く。開けられた穴から赤い液体が溢れだし、ネロはそれらを溢さないよう舐めるように飲んだ。

「ごちそうさま」

 やがてスメールチの腕から口を離すと、口許についた血を舐めながらネロは言った。その顔色は心なしか良くなったように見える。

 噛まれたスメールチの腕はもう血を流しておらず、二つの穴が目立つものの傷は塞がったようだった。

「それじゃ、次にうつろうか。降りてきていいよ。受け止めるからそこから飛び降りちゃって」

 噛まれた方の腕の力加減を確かめるように手を結んだり開いたりしながら天井に空いた穴の下へ移動し、上に向かってスメールチはそう呼び掛ける。どうやら誰か上にいるらしい。ロレーナやナディアはもちろんのこと、ネロにですらその人物が誰なのか、全く想像がついていないようだった。

「うそ……」

 意を決して飛び降りた人物は、無事にスメールチに受け止められる。その人物を見て、ロレーナは口許を覆った。

 スメールチの腕から離れると、その人物はネロの元へ一目散に駆け寄る。ネロの二メートルほど手前で踏み切り、そのままの勢いで呆けた顔のネロに飛び付く。

 ふわり。と銀色の長い髪の毛が揺れた。

「ネロ」

 クリム・ブルジェオンはネロの首へ腕を回すと、しっかりと抱き締めて言った。

「――ただいま!」

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