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infiorarsi 2  作者: 影都 千虎
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05

 ネロの言葉にロレーナは「なんで……」と消え入りそうな声で呟くことしかできない。そのあとに続く言葉が多すぎて、とても選べそうにはなかった。

 なんでこんなところにいるのか。

 なんで人を襲ったのか。

 なんでクリムやブランテの記憶を消したのか。

 なんで二年前までは人間だったネロが魔術を使っているのか。

 なんで今そんなにも苦しそうなのか。

 言いたいことは山ほどある。だというのに、否、だからこそ、なにも言えなかった。そこにあるのが怒りなのか悲しみなのか、それとも安堵なのかロレーナには分からない。『分からない』という感情だけがやけにはっきりとしていた。

「その『なんで』は何に対する『なんで』なのかな。いいよ、今ならなんだって答える」

 よろよろと立ち上がりながら、顔に歪んだ笑みを張り付けてネロは言う。先に口を開いたのはロレーナではなくナディアだった。

「ネロ君、ヴァンパイアになっちゃったの?」

「うん」

 即答だった。ネロはあっさりとその事実を肯定し、訳が分からないといった顔の二人に自分に何が起きたのかを説明することにする。

「この辺は俺の憶測でしかないんだけどさ、多分、俺の中の人間の部分は二年前のあの日、死んだんだよ。……クリムには、確かに助けてもらったけどさ。でも、魔術は慣れてない人間にとって毒なんだろ? 俺の、人間の部分は、大きすぎる魔術に耐えきれなかったんだよ。だから」

「だから、人間の部分は死んでヴァンパイアの部分が目を覚ましたんですか? そんなこと……」

「到底信じられない話だよな。でも、多分事実だ。目を覚ましたとき、俺は既にこうだった」

 ヴァンパイアになってたんだ。とやけにはっきりとしていた。やや悲しげにネロは言った。質問をしたナディアからは反応がない。ネロはため息をついた。

「ついでに、俺が人を襲った理由も答えようか。っていっても簡単なんだけどさ」一歩、ロレーナたちに近付いてネロは言う。「目的は血。俺がヴァンパイアになったんだから、大体は想像つくだろ? 腹が減って、喉が渇いたからだよ」

 ネロが更にもう一歩ロレーナたちに近付く。ロレーナはネロの動きを警戒しつつ、ナディアを庇うようにナディアの一歩前に立った。

「じゃあ、記憶を奪ったのは何故ですか? どうして、クリムちゃんとブランテ君の記憶を」

 その口調には確かな怒りが込められつつある。それを軽く笑いながら、ネロは「別に」と言った。

「別に、いつか薄れて消えていく記憶なら無くなっても問題ないだろ? ロレーナがそこまで怒るなんて誤算だったな」

 その言い方にロレーナは言葉を返すことが出来なかった。信じられなかったのだ。そんなロレーナの表情を見ずに、笑みを浮かべたままネロは更に続けた。

「全部、ロレーナにはやられたよ。まさかここまで怒るなんて思ってなかったし、ここまで魔術を使えるとも思ってなかった。ビアンコがなついたのも計算外だったよ。本当に、邪魔ばっかりされた」

「ビアンコちゃんは、あなたのことを……」

「ああ、ビアンコの勘違いを鵜呑みにしたんだ。俺の魔力が尽きるとかそんなことでも言ってたんだろ? 全部、大外れだよ」

 ニヤニヤと笑いながら、楽しそうに、とっておきのネタばらしをするようにネロは言う。

「あいつが裏切り始めて、俺のいうことを半分ぐらいしか聞かなくなったから、俺からビアンコへの魔力の供給を切っただけさ。供給を切ったあともまだしぶとく動いてると思ったらなるほど、ロレーナたちにここを教えたのもあいつか。あいつを作ったのは失敗だったかな」

 プツンとロレーナのなかで何かが切れた。もうネロの言葉など一言も聞きたくなかった。怒りは徐々に形となり、魔力としてロレーナのまわりに溜まり始める。まるで静電気にでも触れたような音がして、ナディアは一歩ロレーナから離れた。

「ビアンコちゃんが、どんな気持ちで消えたと思っているんですか? ネロ君は、いつからそんな人に成り下がったんですか?」

 なるべく声を抑えながらロレーナはネロに問う。「知らないね」と一蹴された。

「結局、あのリヴェラって子が正解だったんだよ。彼の言う通り、俺はろくでもない奴だったのさ。それなのに勝手な幻想を抱いて庇っちゃったりなんかしちゃってさ。笑える話だよ。ビアンコ越しに見て、腹かかえて笑うところだったね」

「ふざけないで、ください!」

「……ッ」

 声に込められた魔力がネロを襲う。思っていたよりも大きいダメージをネロは受けていた。それが相性による影響だとロレーナはまだ知らない。

 怒りを露にしたロレーナに対し、ネロは一瞬痛みに歪んだ顔を口角をつり上げることにより笑みを戻す。とても歪んだ笑みだった。そして、どこか満足そうだった。

「どうする? そのまま俺を殺してみる? 俺はそれでも構わないよ。むしろそうした方がいいかもしれないね」

 煽るようにネロは言う。

「もう俺にとって人間はただの食糧だ。このまま生きてたらそのうち誰か殺すだろうね。そうだ、もう正体もバレたんだし、直接食べに行くのも悪くないね」

 一歩、もう一歩と近付きながらネロは言う。怒りは全くおさまらないのに、どういうわけかロレーナはネロに気圧されてしまっていた。

「ほら、どうしたのさ。殺せよッ!」

 その声とほぼ同時に、上からコツコツと何かが床(ロレーナたちにとっては天井)を叩く音が聞こえた。それがスメールチからの合図だと気付き、ロレーナはハッとする。爆破が来る。爆破の衝撃からナディアを守らなければいけない。

「なに怖じ気づいてんだよ。何のためにここに――」

 ネロがそう言うのとほぼ同時にロレーナは歌って魔術を使い、これから来るであろう衝撃に備える。

 それとほぼ同時に激しい爆発音がして、強い衝撃波と共に天井が吹っ飛んだ。

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