04
ロレーナとナディアは手前の部屋から一つ一つ見ていくことにした。
部屋に入る際には、万が一の事態を考え、ロレーナが魔術を使ってドアを開けると同時に強い光を放ち、謝罪の言葉と共に中にいる人物をナディアの持つ棒でとらえるようにしていた。最初に見た部屋には誰もいなかったため、まだ誰もロレーナたちの被害にあっていないのだが、その作戦はどうなのだろうかと考えさせるものがある。相手が瀕死の状態である場合、そんなことをしていないで早く助けるべきだと思うのだが。
二つ目のドアを開く。部屋のなかを一瞬白が支配し、徐々にそれが薄れると部屋の全貌が明らかになる。この部屋も外れだった。誰もいない。しかし、代わりに部屋の奥にもうひとつドアがあり、もうひとつ部屋があるということは分かった。
部屋の中に入り、奥のドアのドアノブに手をかける。そこでロレーナの動きが止まった。
「……この部屋の奥になにか居ます」
ロレーナは小声でナディアに伝えた。その声には緊張が混じっている。
その扉からは明らかに異質な気配が漂っていた。黒い煙でも見えるのではないかというイメージがする。それが魔力であるということに気付くのにそう時間はかからなかった。そして、ロレーナはこの魔力を知っていた。
「……ナディアちゃん。多分、この奥にいるのは犯人です。私が魔術を放ったら、その棒で思いきり頭を殴ってください」
先手必勝です。とロレーナは物騒な指示を出した。ナディアは緊張した面持ちで頷くと、ドアを見つめてその時を待つ。
「いいですか? 最初は目を閉じていて、私の声が聞こえたら目を開けてくださいね?」
ナディアはその指示にも黙って頷いて、体勢を低くし構えながら目を閉じた。ロレーナはそれを確認すると大きく深呼吸をして、ドアノブにしっかり手をかけ、力を込めるとほぼ同時に歌を放つ。
「うあッ……!?」
白い光に支配された部屋の中からそんな声が聞こえてくる。第一段階は成功したようだ。そこにすかさず体勢を低くしていたナディアが飛び込み中にいた人物との距離を一気に詰め持っていた棒を振り上げそして、
「あ……」
ナディアは振り上げた棒を落とした。その顔には困惑と驚愕が入り交じっている。
「……ごめん、ロレーナ。でも、あたし、この人は殴れない……」
一歩、後退りながらナディアは震える声で言った。ロレーナは何が起こったのか、中に誰がいるのか、それを確認だけでもしようと数歩部屋の中に入る。そしてすぐにナディアの行動に納得した。同時に、自分も殴れないだろうと思う。
膝をつき、心臓の辺りを抑え、苦しそうに肩で息をしながらロレーナたちを睨む犯人と思わしき人物。血色の混じる暗い瞳、口の隙間から顔を除かせる牙、見るからに体調の悪そうな肌、そして伸びきった髪。ボサボサの一本のみつあみ。
変わってしまった箇所はいくつかある。しかし間違えようもない、それはロレーナたちのよく知る人物だった。
「……ッは、久しぶり、で、いいのかな?」
苦しそうに彼は言う。懐かしい声だった。
ナディアとロレーナはまるで金縛りにあってしまったかのように動くことができない。言葉すら発することができない。
「来るとは、思ってたよ」
あまり嬉しくなさそうに彼は言い、そして激しく咳き込んだ。体調はとても悪そうだ。
「…………ネロ君」
ポツリとナディアがその名前をこぼす。
確かに探してはいたが、出来ればここにいてほしくはなかった。犯人ではないと庇われたまま、そのままであってほしかった。
「おめでとう。俺が、犯人だよ」
ネロ・アフィニティーはそう言って苦々しく微笑んだ。




