02
「ビアンコさんの言葉の意味を僕なりに解釈してみた結果なんだけどさ」
スメールチは三人の反応を待たずに続けた。
「主の考えと行動は分かるけど、それがおかしいこともわかった。みたいなニュアンスのことを言ってたんだよね? それってつまり、ビアンコさんの主はなにかをやらかしてるってことってならないかな。そして、僕たちを通して『それ』が『おかしい』とわかったのなら、『それ』は僕たちも関係していることって考えたわけなんだけど」
「でもそれだとビアンコちゃんが襲われた意味が」
「ダミーだったんじゃないかな?」
戸惑いの表情を見せるロレーナにスメールチは淡々と語る。仮説と言っているが、本人の中ではこれが事実だとほぼ確定してしまっているのだろう。
「あれから襲われた人がロチェスさんを除いて誰もいなくなったから確証は持てないけど、でもやっぱりビアンコさんが襲われるっておかしな話だよね。一応コウモリ型の痣がついてたけど、ビアンコさんから記憶が無くなった感じはしなかった。そもそも、お姉さんのこともブランテ君のことも、一応『知らない』ことになってるビアンコさんから奪うもなにも無いんだけどさ。
それに、ビアンコさんが分身だったっていうなら尚更襲う理由はないよね。彼女が魔力の塊なら、血すら奪えないと思わないかい?
奪う記憶はない。奪う血も流れていない。なのに彼女は襲われて、貧血のような症状を起こして倒れたんだ。実際に医者にみせた訳じゃないから、本当に貧血かどうか分からないけどね。ヒヒヒ、異論は無さそうだね。じゃあこの仮説は主軸にしていいのかな?」
一気にそこまで語ると、スメールチは突然黙った。目を閉じて少し考えるような素振りを見せる。
それを見て、ここがチャンスだと思ったのか、ずっと会話に参加できないでいたナディアが「とりあえずさ」と少し声のボリュームを上げて言った。
「ダメ元でクリムちゃんの家に行っちゃってみたらいいんじゃない? ビアンコさんが犯人とかそういうのは、犯人がいる場所に行ってみたらわかるよねっ!」
つまりナディアはぐだぐだと話し合うのが面倒くさかった。そういうことなのだが、ナディアの案は採用されることになる。
しかし、またここで別の問題が浮上することになる。
「そうしてみようか。ところで、お姉さんの家がどこなのか知ってるかい?」
「…………」
「…………」
クリムの家がどこなのか、三人は知らなかったのである。
その様子を見てロドルフォはため息をついた。それから少し考えて、「ルーナなら多分知ってるぞ」と助言した。
「ポニーさん? なんで?」
「あいつはフィーニスに連れられて『花畑の魔女』に会いにいった隊だからだよ。明日にでも聞いてみろ」
◇
そして翌日。三人はルーナの元を訪れ、事情を話すと早速クリムの家の場所を訊ねた。すると「あっちの山よ」となんともアバウトな答えが返ってきたのだった。行く方角は分かっても、探しているうちに遭難しかねない。
「もっと詳しく聞きたいんだけど」
勿論それに文句を言わないスメールチではなかった。ルーナは予測できたスメールチの態度に思わず苦笑する。それからこんなことを言うのだった。
「私たちも山のどこかって情報だけを頼りに探して辿り着いたのよ。だから詳しい場所がわからないの。ただ……そうね」
そこで言葉を切ると、ルーナは後ろで何気なく聞き耳をたてていたリヴェラを盗み見た。
「『蛇』を頼りにしてみたかしら。近付くにつれ、『蛇』っぽい気配が増えるのよ」
その言葉を聞いた瞬間、明らかにリヴェラの肩が跳ねた。きっと彼は絶対山に近づかないと誓ったことだろう。それを確認したルーナは三人にそっとウインクをした。
「ああ、そういうことか。僕はブランテ君じゃないけど頑張ってみるよ」
ルーナの行動の意味を理解したスメールチは、ルーナにお礼を言うと未だ理解ができていないロレーナとナディアを連れて外に出た。それから少し歩いて口を開く。
「じゃ、今から山にいこうか」
スメールチの足は既にクリムの家があるという、シャンテシャルムとの境界にそびえる山に向かっていた。




