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ロレーナはゆっくりと地面へ降り、地面に足がつくとそのまま力なくその場に座り込んだ。
「ロチェスさん?」
その様子を目撃したスメールチがロレーナに駆け寄る。ロレーナの顔がはっきりと見えたところで、スメールチはそこで足を止めた。ロレーナは無表情のまま静かに涙をこぼしていた。
「なにがあったのさ」
スメールチは問いながら辺りを見回す。そしてどこにもビアンコがどこにもいないことに気付いた。
「ビアンコさんは?」
ロレーナは涙を流すだけで口を開かない。スメールチはその様子に段々と焦れていく。
「ねえ、呼び出しはなんだったのさ。黙ってたら分かんないんだけど?」
やはりロレーナは答えない。これ以上何を言っても無駄なような気がした。
スメールチは大袈裟にため息をつくと、止めていた足を動かしてロレーナに近付く。そしてなにも言わずにその身体を持ち上げた。
突然お姫様だっこをされて、流石のロレーナも目を見開く。「下ろしてください」と震える声でロレーナは訴えるが、スメールチは聞く耳を持たなかった。
「下ろしたらどうすんのさ。また座り込んで泣くつもりかい?」
スメールチの声は鋭い。明らかに苛立っていた。
「言っとくけど、事情をちゃんと話して自力で一緒に歩いて帰れるようになるまで僕は下ろすつもりないからね。人目につくところに出て恥ずかしい思いをするのはロチェスさんだよ」
それは一種の脅迫だった。そしてスメールチはどちらに転んでも良さそうな顔をしていた。後者を選べば、今だけではなくその後暫くロレーナは恥ずかしい思いをすることになるだろう。混乱した頭でもそう考えることができたから、ロレーナはまだ冷静だったのかもしれない。そんな自分に嫌気がさしながら、ロレーナは観念したように言うのだった。
「……下ろしてくれたら、話します」
◇
「分身か……」
ロレーナの話を聞き終わるとスメールチは顎に手を当てて考えるような素振りを見せた。混乱した頭のまま話したためちゃんと通じているだろうかとロレーナは不安になった。
「とりあえず、さ」顎から手を離してスメールチは言う。「ビアンコさん、バカなんじゃないの?」
「……え?」
スメールチのまさかの言葉にロレーナは耳を疑った。
「その主とやらも困ったさんみたいだけどさ、ビアンコさんも困ったさんだよね。……あ、分身だから大元は一緒か。勿論、それに騙されたロチェスさんもね」
つまらなさそうな顔をしてスメールチは続ける。
「魔力が無いからビアンコさんは消えたんでしょ? だったら魔力が戻れば復活するんじゃない?」
単純な話だった。彼女は人間ではなく魔術の産物だからそんなこと簡単にできる。しかしロレーナは「でも……」とそれに反論する。
「その人にとって、ビアンコさんは一度消えてしまえば、必要が、無いから……ビアンコさんはそれを知っていたから……」
「向こう側の事情なんて知らないよ。脅迫して作らせればいいでしょ」
かなり強行手段だった。しかし冗談ではなさそうだ。スメールチの目は本気だった。
「じゃ、そのためにもその主とやら探そうか。それで魔力を復活させて……恩の押し売りだ」
ヒヒヒ、とスメールチは口だけで笑った。




