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「うん!」
元気一杯な明るい声でナディアは代表して言った。「なんにも見つからなかったね!」
「そうですねー。空き瓶とか、ドングリとか、謎の布とかその辺しか気になるものはありませんでしたしー……」
「僕としては裁縫セットとかが気になったけどね」
「なんでそんなに女子力が高そうなものばっかり見つけてるんです……?」
ネロの部屋の状況を知らないビアンコが意味のわからないといった風な顔をした。正直なところ、ロレーナたちも意味がわからないと思っている。どうしてそんなものばかりネロのへやから見つかるのか、と。
「結局お兄さんの女子力を知っただけだったね」
「ビアンコちゃんはぁ、こんなにこっちの部屋を綺麗にしてくれたのにー……なんだか申し訳ないですー」
見違えるほどきれいになった店舗スペースを見つつロレーナはため息をついた。掃除するだけして収穫ゼロとは残念な話である。
「まあ、仕方ありませんよ」フォローするようにビアンコは言う。「この労力はいつか本人に何らかの形で返してもらうとして……、ッ」
そこまで言ってビアンコは激しく咳き込んだ。咳のせいで呼吸が上手くできず、苦しそうだ。ロレーナはその背中をさすってやる。
「大丈夫、ですかー? また無理をさせちゃいましたねー……」
ごめんなさい。としょげた様子でロレーナは謝った。それにビアンコはまだ若干咳をしながら「気にしないでください」と言う。
「多分、埃を吸ったせいですから」
ロレーナに心配させないようにビアンコはにこりと笑った。そのとき、咳の影響か一粒の涙がビアンコの目から零れた。
◇
家に帰るとビアンコとロレーナでどちらが先にお風呂にはいるかという言い争いになった。
「ビアンコちゃんが先に入ってください! あんな埃まみれの部屋を掃除してたんですから!」
「いえ、ロレーナさんが入るべきです! あの荒れようだと汚れも酷かったはず!」
ただし、譲り合いという形でだが。しかしその言い方ではどちらが汚いかと言っているようなものなので一種の罵り合いでもある。
「すぐに出ます! 待っててくださいね!」
「構いませんからごゆっくり!」
結局じゃんけんで勝負して負けたロレーナが先に入ることになった。
「お待たせしましたー……あれ?」
ロレーナが風呂からあがると、そこにビアンコは居なかった。部屋にいるのかと思い行ってみても見当たらない。
「あの、ビアンコちゃんはぁ、どこにー……」
「ああ、ビアンコちゃんなら『一人になりたい』って言って外に行ったよ。すぐに戻ってくるから先に寝ててってさ」
「……そう、ですかー」
そう言われたからといって素直に寝れるような神経をロレーナは持っていなかった。山が近いため、この辺の夜は冷える。ただでさえ咳をして体調が悪そうだったのに、寒い中外を出歩いて大丈夫だろうか。やっぱり強引にでもお風呂に入らせて寝かせるべきだったかとロレーナは悶々と考えた。悶々と考えながら、ビアンコが帰ってくるのを待つ。
しかし、自分でも知らない間に疲れが溜まっていたのか、気づかないうちにロレーナは意識を手放してしまうことになる。
翌日の朝、ロレーナは目を覚まして自分が寝てしまっていたことを知った。そして、その事をたっぷりと後悔する。
ビアンコが普段寝ているベッド。そこには誰も居なかった。誰かが寝ていた形跡もない。あわてて母親に昨日の夜ビアンコが帰ってきたかどうかを訊ねるが、母親は見ていないと答えた。
そう。ビアンコは帰ってこなかったのだ。




