08
「どういうことか、説明してもらいたいところだけど……」冷めた目で三人を見ながらリヴェラは言う。「君たちの方が知りたいって顔してるね。これじゃいつ居なくなったのかも分からなそうだ」
やれやれとリヴェラはため息をついた。三人には返す言葉もない。
「まあでも、これでネロ・アフィニティーはさらに怪しくなった。ヴァンパイアの息子で、誰とも会っていなくて、家にいないのにロレーナさんと会話してた。偽装工作ってところかな」
そう言うリヴェラの声はやや自慢気だった。自分は間違っていなかったという確信が見える。
「確かに、そうかもしれないね」
スメールチはリヴェラの言葉を否定しなかった。が、もうひとつの仮説を口にする。「襲われて拐われたかもしれない説も出てきたけど」
スメールチの脳裏に浮かぶのは、荒らされて滅茶苦茶になったあの部屋。もし、あれが争った形跡なのだとしたら、ネロになんらかの危機が訪れたということになる。下手したらもう手遅れかもしれない。
「でも、拐う理由が分からない。誰にも知られずに拐うほどの価値があるの?」
「――ヴァンパイア」
リヴェラの率直な質問にスメールチはほぼ直感で答えた。「ヴァンパイアの能力を利用したいとしたら、その価値もあるんじゃない?」
「でも、ネロ・アフィニティーはヴァンパイアじゃないって……!」
「おや? おかしいねえ。昨日はあれだけお兄さんがこの二年の間でヴァンパイアになってこの事件を起こしたってごり押ししてたのに、もう引っくり返すのかい?」
「…………」
リヴェラは口をつぐんだ。しくじったと苦い表情をするが、巻き返しは出来そうになかった。
「でもぉ……流石にぃ、スメールチさんのその仮説は突拍子もないと思いますよー……」
自信無さげにロレーナは言った。確かに、ヴァンパイアの息子であることを理由に襲われて拐われたなんて都合がよすぎる。可能性は無くもないが、ずっと低いだろう。そんな説を信じろと言う方に無理がある。
「――どちらにせよ」くるりと半回転してビアンコは歩き出す。「ネロさんを探した方がいいですね」
そして顔だけロレーナたちの方を向いてはっきりと告げた。
「今すぐに」
◇
五人が一先ず帰ろうと帰路につくと、墓地に見知った人影を見た。すっかり髪の毛が抜けて寂しくなってしまった頭の人物。ロドルフォだった。
ロドルフォの目の前にはブランテとクリムの墓がある。ブランテの墓にはカクテルが入ったグラスが、クリムの墓にはシオンの花束がそれぞれ置かれていた。シオンの花言葉は追憶。クリムやブランテに関する記憶を奪われるという事件に対しての意思表示に思えた。
用は済んだのか、ロドルフォは墓を後にし、墓地の出口に向かって歩き出した。そこでロレーナたち五人を見つける。
「なんだ、お前らいたのか」ロドルフォは苦々しい笑みを浮かべた。「悪いな、昨日は」
「ヒヒ、昨日のことなんか忘れたね。夕飯だって覚えてない」
「それはただの認知症だ」
そう言って二人は笑い合わなかった。流石に笑えるような気分ではない。
「それで、お前ら五人で何してたんだ。その顔はあんま良くないことだったみてぇだが……言ってみろ」
「……取り乱さない?」
「……善処する」
「不安だなあ……」
自信なさげなロドルフォにスメールチは言いたくなさそうにした。しかし、帰ってからも根掘り葉掘り聞かれるのはお互いに疲れる事なので、仕方なく言うことにした。
「お兄さんが、居なくなってたんだよ」
ロドルフォの反応は想像以上に静かだった。何故とも言わず、ただ寂しそうに、悲しそうに「そうか」と一言だけいう。それからしばらく空を見つめて言うのだった。
「……じゃあ、探さねえとな。バカ息子も年齢を考えねえ家出をしたもんだ」
その言葉には絶対に見つけ出すという意地が込められていた。血は繋がっていないが、ネロは息子。ロドルフォにとって、最後の子供だ。これ以上失うわけにはいかなかった。ネージュのためにも、アデリーナのためにも。




