03
スメールチが連れてきたのはナディア、ジェラルド、ルーナ、リヴェラというかなり見慣れた面子だった。やはりジェラルドは嫌そうな顔をしており、ルーナかスメールチに無理矢理連れてこられたことがよくわかった。
「あれ? 『爆ぜる暴れ馬』だ。久しぶり!」
「ああ……ご無沙汰しています」
アドルフォに友人のような感覚で話しかけたのがリヴェラ。畏まったのがルーナだ。アドルフォは自分の通り名をまさかここで晒されるとは思っていなかったらしく、飲んでいたカクテルを思い切り吹き出した。
「バッ……なんて名前で呼びやがる! 恥ずかしいからやめろって言ってんのに! そもそもなんで知ってんだお前!?」
珍しく顔を赤くして叫ぶアドルフォ。どうやら通り名が相当恥ずかしい。そんなアドルフォにリヴェラは涼しい顔で「通り名なんてとっくの昔に知ってたよ」なんて言うのだった。
「それで……」リヴェラは視線をアドルフォからロドルフォへとうつす。「こっちが『スケールモデルの鬼士』だっけ?」
「俺はもう引退してんだから勘弁してくんねぇかなぁ!?」
今度はロドルフォが叫ぶ番だった。その微妙すぎるネーミングセンスに、ロレーナたちは思わず微妙な視線を向けてしまう。誰かはボソッと「ださ……」なんて呟いていた。
「おいおい、なんて目を向けやがる。俺だって好きでそんな名前がついてんじゃねえんだぞ?」
ロレーナたちの視線に思わずロドルフォは慌てる。アドルフォもそれに便乗しつつ「そうそう。しかもそこで涼しい顔をしてるルーナだって『斬り兎』って呼ばれてたんだからな?」と道連れにする作戦に出た。その顔が中々の外道っぷりだったことをここに明記しておく。
「へぇ……兎、ねえ」
ルーナに冷ややかな視線を送りつつスメールチは言う。ルーナはその態度に思わずたじろいだ。
「な、なによ……」
「いーや、別に? ただ、兎なんて呼ばれるんだったら、ポニーテールじゃなくてツインテールにするべきだよねって思ってさ。ほら、兎の耳っぽく。なんなら今やる?」
そう言って手をわきわきと動かすスメールチ。相変わらずの無表情が逆に怖い。
「や、やらないわよ! 私の年齢を考慮してほしいわ!」
「だからこそやるんじゃないか。そして冷たい目で見られればいい」
「なッ……いつもいつもそうやって私に突っかかって……私に何の恨みがあるっていうのよ!」
「斬られた恨み」
「そうだったわね!」
なんてことをしちゃったのよ二年前の私! とルーナは頭を抱えた。仕事だったから、例えこんな未来が待ち構えていたとしてもルーナには避ける手段が無かったとは思うのだが。恨むべきは、フィーニスにも気に入られた自身の剣の腕前だろう。
ルーナとスメールチがそんなやりとりをやっている間に、リヴェラはアドルフォの元へ駆け寄ってアドルフォと戯れていた。どちらも楽しそうだ。叔父と甥のようにみえる。
「ん? リヴェラ君とアドルフォさんはなんでそんなに仲良さげなの?」
「俺がちっちゃいときに散々遊んでもらったからだよ。ロドルフォさんとはほぼ初対面だけどね」
「ちっちゃいときはコイツも可愛かったのによー、こんな変な色に染めちまって」
「痛い痛い痛い痛い! 引っ張らないで! はげる!」
「ロドルフォみたいになっちまえー!」
豪快に笑うアドルフォと、本気で痛がるリヴェラ。そしてその二人を切なそうな顔で見るロドルフォ。一体これはどういう状況なのだろうか。
「なんだか、楽しそうですね」
ポツリとロレーナの後ろでビアンコが言った。顔は笑っているが、若干の羨みも込められている。ロレーナはそれを知らない振りをして、いたずらっぽく「混ざってきてもぉ、大丈夫ですよー。いつでも誰でもぉ、ウェルカムですー」なんて言った。
「…………。ご遠慮します」
少し考えるような素振りを見せてから、ビアンコはにっこりと笑ってそう答えた。見ている分には楽しいが、当事者となったら必ずしもそうではないということに気付いたのだろう。どうやら自分と同類らしい、と思ったロレーナは「それじゃあー、私と楽しく見守りましょうかー」と笑うのだった。




