02
ロレーナはロドルフォの店につくと、ドアを開けて中に入るのではなく、ドアを開けずに呼び鈴を鳴らした。一応開業時間前ということで配慮したらしい。
呼び鈴が鳴ると、すぐに中からドタドタという足音が聞こえ、ドアが開かれた。
「あれ、ロチェスさん。こんな時間にどうしたのさ? まだ開業時間じゃないんだけど」
開かれたドアからひょっこりと顔を出したのはスメールチだった。しかも、何故かいつもの格好ではなく、真っ白なワイシャツを着ている。顔だけ外に出している状態なので下半身は見えないが、きっと下もいつもと違う格好をしているのだろう。
「それは知ってますけどぉ、それならスメールチさんもぉ、なんでここに? それにその服……」
「なんでここにって部分なら、前にも言ったけど、ここに泊まってるからだよ。色々あって今日は店を手伝うことになってね。だからこの服なんだ」
顔だけ出している姿勢が疲れたのか、スメールチはドアをもう少し開けて普通に立った。これで先程まで見えなかった下半身が見えるようになる。
下は黒いズボンをはいており、腰にはエプロンを巻いていた。なるほどウェイターっぽい。
「それで、ロチェスさんはこんな時間に何の用かな?」
自分の状態を説明したところで、スメールチは改めて質問をした。ロレーナはそれに対し、「それはですねー」と言いながら視線を隣にいるビアンコにやった。
「何? もう一人いるの?」とスメールチが更にドアを開く。スメールチからはドアが邪魔になってビアンコの姿が見えていなかったのだ。
ビアンコの姿を確認すると、スメールチは「ああ、目を覚ましたんだ。なるほどね」と勝手に納得してみせた。それから「それなら中に入ってればいいよ。おじさんなら許してくれるさ。その間に、僕はナディアちゃんとかを呼んでくるよ」と言い、一旦中へ入る。直ぐに出てきたスメールチは「入ってていいってさ」と言うと腰のエプロンを脱ぎ捨てて外へ出ていった。
ロレーナはスメールチが脱ぎ捨てたエプロンを拾いつつ中に入る。カウンターにはロドルフォが立っており、その向かい側、客席に一人男が座っていた。ロレーナは後ろ姿だけでもその人物が誰なのか分かる。ロドルフォの双子の兄、アドルフォ・レトゥールだ。
「お邪魔しますー」と言ったロレーナに、アドルフォが「よう、久しぶりだな」と言い、ロドルフォが「なんか飲むか?」と訊く。それから二人はロレーナの後ろについていたビアンコを見ると、目を見開いた。ガシャンと派手な音もした。ロドルフォはが持っていたグラスを落として割った音だ。
粉々になったグラスを見ると、ロドルフォはしまったという表情をした。が、直ぐに目線はビアンコに釘付けになる。
「えっと……ロレーナ、その後ろの嬢ちゃんは?」
ロドルフォが訪ねる。ロレーナが口を開く前にビアンコが一歩前に出て自己紹介を始めた。
「ビアンコ・ネーヴェです。初めまして」
ペコリ。とビアンコは頭を下げる。ロドルフォが戸惑ったような声をあげた。一方で、アドルフォは「ネーヴェ……ネーヴェか……」となにやらぶつぶつと呟いている。一体どうしたのだろうか。ロレーナには分からない。勿論、ビアンコにもだ。
「ああ、ちょっとな……。そこの嬢ちゃんが、昔の知り合いにそっくりでな」
ロレーナとビアンコの表情に気付いたロドルフォが、困ったような曖昧な笑みを浮かべながらそう答えた。アドルフォもその言葉に頷きつつ、「似すぎて怖いってレベルだな」と言う。
「昔の知り合い、ですかー? ネロ君じゃあなくてー?」
「ああ……お前らだとそう思うか。実はもっと似てる奴がいるんだよ」
「世の中にはそっくりさんが三人はいるって言うが……本当だったんだな」
髪の毛の有無というとても分かりやすい違いがあるが、それ以外はほぼ一緒の同じ顔がしみじみと語る。しかし、それ以上は詳しく語ってくれなさそうな雰囲気だったのでロレーナは「そうなんですかー」と気になりつつも流すことにした。
二人がビアンコと似ていると感じた人物はネージュ・アフィニティー。彼女はネロの母親であり、ヴァンパイアであり、二人の思い出したくもない、一生かかっても癒えないような傷の象徴とも言える人物だった。ネージュの話をするということは、過去のその傷をえぐるということ。それがどうにも出来そうにない二人は誤魔化すしかなかったのだ。




