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infiorarsi 2  作者: 影都 千虎
発生
2/54

02

 ロレーナはネロの家にいくとそのあと決まってロドルフォの店に向かう。今回も例外ではなかった。

「今晩はー」

「ねえロドルフォ聞いてよ!」

 そう言って二人はロドルフォの目の前に位置するカウンター席に座った。ロドルフォは二人に注文も聞かずに手を動かしながら「なんだ?」と応える。

「ネロ君ってばまた今日も出てこなかったんだよ! せっかくパンを届けてあげたのに」

「私が、ですけどねー」

「ロドルフォなんとか言ってあげてよー。一応父親なんでしょ?」

「育ての、ですけどねー」

「二年間もニートしてるんだから、あたしたちにパニーノぐらい作ってくれてもいいと思うんだよね」

「それはぁ、ナディアちゃんが食べたいだけですよねー」

「もー! ちょっとロレーナは静かにしててよね!」

 ナディアの言葉に丁寧に訂正を入れるロレーナにナディアは口を尖らせた。そんな二人のやり取りを見てロドルフォは愉快そうに笑う。

「はっはっはっ」

「笑うなー!」

「ははっ、いやぁ、悪い悪い」

 口で言いつつもまだ笑っているロドルフォである。ナディアの言動がツボのようだ。そんなロドルフォに、ナディアが反撃と言わんばかりに鋭い一言を放つ。

「絶賛引きこもり中のロドルフォに相談した私がバカでした! 蛙の子は蛙だよね!」

「……蛙の子はぁ、おたまじゃくしですよねぇ?」

 ロドルフォの表情をみてまずいと思ったロレーナがおどけるように突っ込んだ。そんなロレーナの気遣いを察したのかロドルフォは安心させるように微笑みながら言う。

「蛙の子が蛙なら、そのうち復活するさ。俺がそうだったんだから」

 ロレーナもナディアもロドルフォに昔何があったのか詳しく知らない。妻を亡くして騎士団をやめたということを聞いて、触れてはいけないと思ったのだ。

「あぁ、でもぉ、ネロ君お墓参りはしてるみたいですよー?」

「墓?」

「はいー。ブランテ君のお墓にぃ、カクテルが置いてあったんですよー」

 ロドルフォさんじゃないですよね? とロレーナは訊いた。ロドルフォはその質問には答えず、顎に手をあてて考えるような素振りをした。そしてポツリと「材料とかどこで調達したんだろうな……」と呟いた。そこかよ。と思ったけれど、ロレーナは口にはしなかった。


「なに、みんな難しい顔しちゃって。僕が来たんだからお出迎えしてくれたっていいんじゃないの?」

 突然そんな声が背後から聞こえた。ロレーナとナディアは驚きつつ後ろを振り向くが、ロドルフォはそんな素振りを見せない。当たり前だ。ロドルフォからは店ので入り口が見えている。だから誰が来たということも把握しているはずだ。把握していて、あえて何も言わなかったのだ。

「おじさん、そんな態度って経営者としてどうなのさ? 客だよ? お兄さんだって挨拶はちゃんとしてたよ」

「はん。どちらかといえばお前にとっちゃ俺は客だから、その言い分だと挨拶するのはお前だな」

「屁理屈だね」

 そう言ってスメールチ・ザガートカ・アジヴィーニエはヒヒヒと笑った。相変わらずの無表情だったが。

 スメールチは商人だ。出身はパラネージェで、取引のため各地を歩き回っている。ここ、トリパエーゼにはネロという取引先があったのだが、二年前に店をやめてしまったので取引ができなくなった。代わりにロドルフォのところへ押し掛け、無理矢理取引を成立させたのだった。だからロドルフォは仕入れ先に対し大きな態度ができるのだ。

 スメールチはロレーナの隣に座ると、「ロチェスさん、ナディアちゃん、今晩は」と少し表情を和らげて(無表情に変わりはないのだが)言った。それに対しロレーナが少し口を尖らせて「ロレーナですぅ」と訂正する。

「ロチェスさんはロチェスさんだよ。誰がなんと言おうとね」

「意味がわからないですぅ」

「意味が分かるように言ってないからね」

 そしてまたスメールチは無表情で口だけヒヒヒと笑った。ロレーナは諦めてものを言うのをやめる。ロレーナが本名を明かして以来、スメールチだけはずっとこうなのだ。無表情であるため意図が汲めず、ロレーナは少し困っていた。今更ロチェスと呼ばれても、呼ばれなれていないため反応に困るのだ。

 ロレーナが黙ったのを確認すると、スメールチはロドルフォに話し掛けた。

「ところでおじさん、あの新婚夫婦の愛の巣はどこか知ってる? 一応、お祝いを持ってきてあげたんだけど」

「ああ、あいつらなら今夜来るぞ」

「そう。嘘ついたら針千本飲ませるからね」

「ハリセンボン……?」

「ナディアちゃん、『針、千本』ですよー」

 スメールチの言葉に首をかしげるナディア。この辺では聞きなれない言い方である。ロレーナは本を読んでギリギリ知っていた程度だ。

「恐ろしい話だな。そんな心配すんなよ、ジェラルドはあれだが、嫁さんは割りと飲むんだよ。ありゃザルだな」

 ロドルフォは少し思いだし笑いをしつつ言った。

 二年という時間は案外いろんなことが起こる。二年前では信じられないような話だが、ジェラルドはつい最近ある女性と結婚し、現在は新婚ホヤホヤな生活を楽しんでいるのだ。

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