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infiorarsi 2  作者: 影都 千虎
発生
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10

 少年はニコニコと笑っている。しかし、四人はこの少年のことを全く知らなかった。知り合いではない。見かけたことすらない。こんな少年を見かけたら、嫌でも暫くは記憶に残ってしまうような気がするのだが。

 少年の地毛はどうやら黒のようだが、そこに色とりどりのメッシュが入っていて、地毛が黒なのかどうか怪しいことになっていた。赤や緑、青、金、紫……どれだけの時間をかけたのだろうかと言いたくなるほどの色合い。しかし、一つのキャンパスにいろんな色をぶちこんだような筈であるその髪色は、どういうわけかとても綺麗で自然に見えた。光の当たり方によっていろんな色に見えてしまうと言われれば、それはそれで納得してしまえるような、そんな自然さ。どうやったらこうなるのか、不思議な限りである。

 右側だけを全て後ろに流し、若干逆立てた髪型。左側は短く切っているわけではないので、なんだか不思議な髪型になっている。少し大人の真似をして失敗してしまったような、そんな雰囲気が漂っている。少年は見たところ十三歳かそこらのようだった。

「えっと……?」

「ああ、ごめんね。俺はリヴェラトーレって名乗ってるよ。皆からはリヴェラって呼ばれてるから、そう呼んでくれると嬉しいさ」

 どう反応したものかと戸惑っているロレーナに、リヴェラトーレと名乗る少年は朗らかに笑った。そして手を差し出す。握手を求めているようだ。ロレーナがその手を握ると、リヴェラは満足そうに微笑んだ。

「ああ! やぁっと見つけた!!」

 どこからか、そう叫ぶ女性の声が聞こえてきた。声の下方角を見ると、そこには見知った女性が周り気にせず全速力で走ってこちらに向かってきていた。スメールチが「うわぁ……」と露骨に嫌そうな声をあげる。

「もう! リヴェラったら、勝手に動かないでねって言ったじゃないの! 貴方だってもう子供じゃないんだから」

「子供じゃないなら一人で動いてもいいと思うさー?」

「……っ、じゃあ、訂正。貴方はまだ子供だから勝手に動かないで頂戴」

「子供は好奇心旺盛で野性的なものだよ、ルーナさん。だから俺が本能のままに動いたって仕方ないよね」

「ああ、もう、この子は……!」

 ああ言えばこう言う。リヴェラはそういうタイプの人間のようだった。ロレーナはスメールチがもう一人増えたような錯覚にとらわれる。スメールチとは違って、リヴェラは表情豊かなのだが。

「ポニーさん、この子は?」

「だからポニーさんって誰よ」

「俺は『この子』なんて名前じゃないよ」

「…………。この子は?」

 言い直さないで押し通すあたりがスメールチらしい。ルーナは諦めたように深いため息をひとつつくと、リヴェラの説明を始めた。

「この子はリヴェラトーレ。そう名乗ってるけど、本名はよくわからないって話だわ。たぶん嘘だけどね。この子、王宮でよく見かけるから、王家の何かか貴族か、その辺の高い身分の子だと思う」

「いらないことは言わなくていいよ、ルーナ。俺は家柄とか親の七光りで生きるのが大嫌いなんだよ」

 心の底から嫌そうな顔をするリヴェラ。家庭に問題がありそうだ。

 リヴェラはルーナがまた話し出す前に「それに」と付け加えるように言った。

「俺にはフィネティア、トイフェル、パラネージェ、シャンテシャルムの四つの血が流れてるんだ。あの人たちの子供じゃないよ。だからいいんだ」

「えぇっとぉ……クウォーターってやつ、ですかー?」

「かっこよく言えばそうかもしれないけど、俺には雑種って言った方が似合ってるよ」

 リヴェラはシニカルな笑みを浮かべた。年相応にひねくれているようだ。難しいお年頃である。

「……って、僕の生い立ちなんてどうでもいいんだよ。まったく、ルーナが余計なことを言うからいけないんだ」

「あら、それはごめんなさいね。えっと……ああ、そうだ。リヴェラはこの町に調査に来たのよ」

「調査?」

 首をかしげる四人にルーナは「そう」と頷く。

「最近、この町で吸血コウモリの噂が流れてるじゃない? お義父様がその被害者らしい子を診てるからただの噂じゃないとは思ってたんだけど……リヴェラは、あの噂に興味を持ってこの町に来たのよ。今日。しかも突然」

 そう言ってルーナはまた深いため息をついた。ルーナは突然町を訪問したリヴェラの世話を押し付けられてしまったのだった。恐らくリヴェラがきてからまだ半日も経っていないと思うのだが、既に疲れきっていた。振り回され続けているのだろう。

 そんなルーナの気苦労も知らないで、リヴェラは「でも俺ってば運がいいよね」と嬉しそうに言うのだった。

「早速色々知ってそうな人に会えたんだもん。しかも犯人を探すなんて言ってるしさ。これは協力しないでいられるかって話だよね」

 よろしくね。とリヴェラは言った。ロレーナの意見など聞こうともしない。これで、実質的にロレーナの退路は塞がれてしまうことになる。別に、ロレーナはやるかどうするかで悩んでいたわけではないのでよかったのだが。

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