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女装女子。

「あの、お一人ですか!? 私たちとお茶でも飲みませんか!?」


 親友達との待ち合わせ場所に向かう途中の道で、見た目が少し気の強そうな女の子が話しかけてきた。その後ろにはその子の連れだろう二人が、一人は目を輝かせて、もう一人は祈るような目でみてくる。あぁ、またか。そう思いながら、私は無情にも告げる。


「すみません、一人じゃないです。待たせている人がいるので」

「だったら、その方も一緒に!」


 うわぁーお、この子達もここまで言うんだ。親友と再開するための道すがらで両手で足りないくらいの逆ナンにあったけど、その方も一緒にってパターンはまだ少ないな。そんな人は放っておいて、とかが多かったし。そういう人たちには、「私にとって大切な人なんです。そのように言わないでもらえますか」と威圧的に言えばすぐに開放された。親友を馬鹿にされてムカついたためにちょっと女の子達に対する接し方じゃなかったかも。ごめんね? でも、君達が会ってもいない親友を馬鹿にするのが悪いんだよ。


 さて、この子達の話だけど、後ろの子達は気の弱そうな感じがしたから、他にも知らない人と一緒となると嫌がるかと思ったんだけど。でも、ここまで食い下がる子達は他にもいたし、まだ策はある。


「ですが、彼女もいいと言ってくれるかどうか……」


 苦笑いで返す。女の子達の息を呑む声が聞こえた。ふっ、言外に伝えた意味をきれいに読み取ってくれたようだ。私はまず『彼女』と言う存在は既に間に合っていると伝えている。そして、私は一応賛成なんだけどね? だけど待たせている彼女は少し嫉妬深くて、と言う意味に加え、彼女がいるくせに君たちといることも了承しちゃう尻の軽いやつだよ、とも伝えた。さあ諦めるんだ、女の子達!


「待たせている方って女性なんですね……」


 明らかに落胆したように声量が下がった。よし、これでもう終わったかな。しかし、その私の予想に反して女の子は私の目をまっすぐに見つめ、私の欲しくなかった言葉を放った。


「構いません、その方に会ってみたいんです! 会うためには女装をしなければならない相手という方に興味があるので!」

「ああもう! 誤解をされているようですが、私は女ですっ! 女装なんてしていません! 性別を間違わないでくださいいいいいい!!」


 あ、と気づいたときには理性をぶち破り本能がずどんと顔を出していた。私は本能が求めるままに叫び、女の子達の前から全速力で逃げ出す。破られた理性の片鱗は、あの女の子達は私が趣味で女装をしているとは考えないんだな、などというどうでもいいことを考えていた。




   *




 私は昔から男に間違われた。そして、その理由も、いつかこの誤解も解けることも知っていた。だから特に間違えられることを責めたりはしなかった。


 室内で本を読んでいると同じ歳くらいの男の子達に、男の子なんだから外で遊ぼうぜ、と声をかけられて腕を引っ張られながら強制的に外に連れて行かれたことがあった。本が大好きだった私はついぶちギレて、私は女だ間違えんな! と叫びながら回し蹴りをきめてしまった。

何故かその後その男の子達は私の舎弟になると言い張り、自称舎弟の男の子達と仲良く読書をする時間ができたことは今ではいい思い出だ。ちなみに今でもその習慣は続いている。一応私も年頃の女の子なのでそろそろやめたい。


 私も女の子なので自分を着飾ったりアクセサリーを集めたりしたかったが、男にそんなものはいらないです! と自称舎弟の男の子その二に怒られた。とりあえずムカついたから裏拳で沈めてから、私は女ですと訂正をいれて仕方なくすぐ下の弟を着飾って遊んだ。弟も男だけど私がさせているので弟が怒られることはない。

 だけど構いすぎたのか弟は重度のシスコンになってしまい悩みの種だ。早く姉離れをして欲しいと切に願っている。


 次に言動の問題が起きた。あなたの言動は男らしくない、と自称舎弟の男の子その四に言われたのだ。ストマックブローを食らわせてから私は女ですと訂正し、まずは口調についてどうにかしようと考えた。私が男に間違われることを思うと女言葉を使うと初見さんは気持ち悪いだろうと思い断念し、だからと言って男言葉なんて使ったらすべての誤解が解けたときにギャップが大きすぎると却下。性別の関係がない敬語を使うことにした。

 服装も似たような理由で中性的なものを着ることにして、行動は物腰の柔らかいすこしおとなしい子をモデルに頑張って過ごした。すると不思議なもので女性から人気に。顔も良かったせいで取り巻きができてしまった。今では弟とそろって『美形兄弟』なんて呼ばれている。本当は姉弟なんだけど。


 髪を切ることはしたくなかったので、今は長髪のほうがもてるんだよと自称舎弟の男の子その三に先手を打って伝えておいた。その後自称舎弟達の中に長髪の男子が増えたので私が直々に髪を切ってあげると、泣いて喜んでくれたけど鼻水もたれていて気持ち悪かった。泣き止んで欲しくて、「先に言っておくけど私は女だからね」と釘を刺しながら全員に後ろ回し蹴りを贈ったら、それと関係があるのかは知らないが、私の舎弟を名乗る男の子達と取り巻きの女の子達が増えた。はっきり言って迷惑だ。


 確実に私の性別を間違って認識している人たちと接しているうちに、私のことをちゃんと女だと理解してくれる親友が欲しいと思った。私の取り巻きや自称舎弟はもちろんムリだろう。

 そこで私に関わりたくないと思っているだろう人物を探し出し、親友になってほしいと頼み込んだ。最初は嫌がられたが何度も何度も頼み込み家まで押しかけると、私の努力に折れて親友になってくれた。自分の性別を伝えると半信半疑の反応だったので、トイレの個室に連れ込み上半身裸になった。親友は、私よりもある、と言って固まったので、「下半身も見ますか? 男性なら付いているべきものは私にはありませんから、それを確認するなら脱ぎますよ」と言って下半身の服にも手をつけた途端手を抑えられ、もっと羞恥心を持ちなさい、と怒鳴られた。

 一応弁明のために言っておくが私も恥ずかしかった。しかし、私にとっては親友を持つことは羞恥心を超えてまで手に入れなければならない最重要事項だったのだ。その後親友を通じてもう一人親友が出来た。感謝してもしきれない。これはもう一生親友とは親友でいなくては。


 何度説明してもすぐにまた忘れて誤解されるのは辛かったけど、いつかこの生活から抜け出せると考えるとまだ耐えられる。間違われるたびに根気強く訂正を入れたが、そのつど私の『相手』には酷いことをしてしまったと夜な夜な枕を涙でぬらした。私は原因を知っているけど私の『相手』は何も知らないのに周りから性別を間違われているのだと思うと罪悪感でいっぱいだ。それもすべて祖母のせいである。


 私の祖母は魔女だ。それも規格外に力が強いことと人とは変わった価値観の持ち主で有名である。そんなおかしな祖母が私が生まれたときに祝福として魔法をかけたのだ。私と私の運命の相手は二人が出逢い結ばれるまで周りには本当の性別の逆に見られる、と言うもの。それはもはや呪いだ。私がそれを祖母から聞かされたときは我を忘れて祖母に殴りかかってしまったのだが、気づいたときにはベッドで寝ており全治三ヶ月の怪我をしていた。祖母のほうは無傷だった。祖母には逆らってはいけないと体に教えられた苦い思い出である。

 痛い体を起こして祖母に何でそんなことをしたのか問うと、だってロマンチックだろう、と言われた。きっと祖母はロマンチックと言う言葉ですべてが片付くと考えているのだろう。痛みで抑制できたが、体が怪我していなければまた祖母に殴りかかるところだった。


 そんなこんなあって『相手』に出逢うことなく先月十八歳になり、性別を間違われ続けて十八年とちょっと、私にも反抗期がやってきた。いつまでも中性的な格好で性別を間違われるのにイラつきだしたのだ。私は女だ。やっぱりドレスを着たり化粧をしたりしたい。そしてそれを見てもらいたい。

 ちょうどいいことに三ヵ月後に成人パーティがある。そのときにドレスを着ていこうと考えた。しかしここで自称舎弟その十七に止められた。あなたは男なのですよ、それなのにドレスを着るなんて……と。そこでようやく私は自分が男に見られることを思い出した。

 このままでは私は変態にみられてしまう、と思ったが別にいいかと思い直した。しかし今度は親友に全力で止められた。親友を止めるとまで言われてしまえば私に出来ることなと何もない。しょんぼりとしていたら、後から出来た付属品のような親友が一度着飾ってみて誰か一人でも女の子に見てもらえたらパーティにドレスで行けばいい、一人でもいるのならパーティのときも何人かは女の子に見えているだろう、と言ってきた。そう言われて初めて「あぁ、そういえば、この付属品のおまけには私が性別を間違われる理由を言っていなかったな」と思い出したがこれから先も理由を教えるつもりはない。私を女の子だと見える人など「何人か」すらいないのだがこれ幸いと着飾ってみたかった私はその提案に乗ることにした。


 そして、その着飾る日が今日なのだ。




   *




 女の子達を振り切った後も何組かにつかまりかけたがすべてかわして親友達の待つカフェに向かう。ようやく着いたので勢いよく入り口を開けたらカランコロンと音がした。視線を感じたがそんなの無視だ無視。親友のテーブルに向かっている間も視線はまだ付いてくる。変質者かもしれない。気をつけよう。

 走って疲れたので腰を下ろしてから親友達に謝る。


「すみません! なかなか放してもらえなくて!」

「いいよいいいよ、いつものことだものね」

「そうだよ。それにしてもいつもすごいよねー」


 着飾っている間、この二人も私といたのだが、私が女の子に絡まれた瞬間すぐに近くのカフェにいるからと逃げられた。恨みも込めて言ったのだが気づいているだろうにスルーされた。顔を引きつらせながらもう一度謝り話題を変える。


「本当にすみません。えっと、それで? 何の話をしていたんですか?」

「あー、うん。あそこを見てみてよ!」


 指差された方向に目を向けると男性が二人いた。私の位置からでは横顔しか見えないが、ものすごい美形の二人だ。特に片方は群を抜いている美男子で、彼になら私の取り巻きと自称舎弟もついていくのではないだろうか。欲しいなら言って欲しい。喜んで差し出す準備なら出来ている。

 彼に顔で負けているほうは女好きそうでつい、うわぁーと嫌悪の声が出てしまった。それを隠すために急いで声を弾ませ会話に入る。誤魔化せるかな?


「すごい美形の方達ですね!」

「そうね。でもあんたも負けてないわよ? というか、むしろ美男子には勝ってる」

「美男子に勝っても、……嬉しくないです。て、何で美男子って言っているんですか? 両方とも美男子ですよ?」


 親友の言葉に引っかかる。まるで片方は女性のような言い方だ。疑問に思って聞き返すと親友も、え? という顔をしている。


「何言ってるの? 片方は女の子だよ? 男装してるけど」


 おまけの言葉にこの人の目は節穴なのだろうか、と心配してしまった。うっかりこれ何本? と聞こうとした腕を親友に掴まれ止められる。私のことを良く分かっている親友だと思う。さすがだ。ここで会話が止まると変なので何もなかったかのように続ける。


「え? 男装なんてしてませんよ。ちゃんとした男の子ですよ? って、あれ? なんか彼ら私たちのところに来てません?」

「あれ? 本当ね。会話が聞こえてたのかしら」

「えええ!? ちょっと、どうするんですか!? 怒られますよ!」

「そこは潔く怒られるしかないんじゃない?」

「えー、私怒られるの嫌いなのにぃー」

「怒られるのは私もいやよ」

「そもそも怒られるのが好きな人はいないと思います」


 とうとう彼が私たちのテーブルの前に立ち止まった。親友に小突かれる。私に謝れと言いたいようだ。私だけが言っていたのではないと主張するために、ええ!? 私ですか!? と一芝居うってから、すみませんでしたあああ!! と頭を下げる。これで許してくれると言いのだが。顔を上げるとずば抜けた美形の彼が私の顔を見て固まった。どうしたのだろうか。お腹でも痛いのかな、と思いトイレのある方を指差そうとするとまたも親友に止められた。どこまでも私のことを理解している親友だ。もう結婚しよう。もちろん冗談だ。


「お、おか、ま? お前おかまか!?」

「私は女ですっ!!」


 彼の後ろから付いて来ていた負け犬の美形の方には、既にテンプレと化した間違った性別認識に加えそれを発展させた大変失礼な発言を貰ったので、私はお返しにとりあえずアッパースイングをご馳走した。



似たような行動をしている二人です。

男の子と女の子で女の子の行動に対する解釈が違います。恋は盲目と言うものです(笑)


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