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男装男子。

息抜き作品なので、できるだけ早めに仕上げる予定です。でも予定は未定。

「ねえねえ、あそこに美男美女がいるよ! カップルかな!?」

「え? ホントね」


 カフェでコーヒーを飲んでいるとテーブルを五つほど挿んだ席に座っていた女の子達の声が聞こえてきた。顔が引きつりそうになりながらも、何とか耐えてその会話を聞き逃さないように耳を澄ます。隣で友人がくすくすと笑っている。後で絞める。


「いいなぁ、私もあんな彼氏と付き合いたいー!」

「あんたには彼氏がいるでしょうが!」

「それとこれとは話が別なんですぅー」

「もう! 都合のいいことばかり言って」

「あはは。それにしてもさぁー。美女の彼女は何で……」


 友人が今にも笑い出しそうだけど一生懸命耐えています、といったそんな大変ムカつく顔でこちらを見ているのが視界に入る。そんな顔で見てこなくても、お前の言いたいことくらい分かってる。


「何で、男装しているのかなぁー?」


「ぶはっ! ふっ、ははははっ――――がっ!? いってー! 何すんだよ!」


 女の子の言葉に友人が耐えられないとばかりに壮大に噴出した。ムカついたから殴っておいた。


「まだ決まったわけではないです。他の席に男装した女性がいるのかもしれませんよ」

「そうか? でも……」


 冷ややかな視線込みで訴えると、友人に視線で女の子達のほうを見るように促されちらりと見やる。距離的に雰囲気でしか分からないが女の子の一人が何故か顔を輝かせながらこちらを指差していた。


「今、美女が美男を殴ったよ! すごく綺麗な右ストレートだった!! 絵になるね!」


 友人が殴られた頬をさすりながらにんまりとした笑顔で、決まりだな、と言ってきたのでもう一発お見舞いしてやろうかと右手を繰り出した。が、友人はそれに目ざとく気がつくと今度はひらりとかわす。


「ちっ」

「おいおい舌打ちすんなよ。綺麗な顔には似合わないぜ、美女さん?」

「ああ!?」

「んな、ガンつけんなよー。オレのせいじゃないしー」

「あなたが私を怒らせるようなことを言うからです!」


 私は今、声を大にして言いたい。つか、言わせてもらう。


「だあああああああ! あーくそっ! 俺は男だ! 美女じゃねぇ!」




   *




 俺は昔から女に間違われた。小さい頃は特に気にしていなかったが、大きくなり男女の身体的変化が出てきてもいまだ言われ続け、さすがにおかしいと気づいた。

 年齢的にも女に間違われることが嫌でまずは体を鍛えたが、どれだけ努力しても何故かある一定の地点で筋肉が付かなくなり、それでも無茶して励むと執事や侍女に体に障ると強制的に止められた。

 行動を荒くして言葉遣いは男口調、一人称も俺にしたら、女の子なんですから、と窘められた。いや、俺男だし。

 髪もうっとうしくて切ろうとしたら、女の子にとって髪は命の次に大事なものなのですよ!? と泣きながら止められた。いや、だから、俺男だし。

 いくら反論しても受け入れられない。あなたは魔女の呪いで、とかわけの分からないことを抜かしやがる。

 仕方なく髪は後ろで一つに括り、女言葉とは使いたくないから敬語を主にし行動はスマートに。服装は中性的なもので男女共に着れるものにした。一人称は男でも『私』と言うやつはいるよな、と妥協し『私』を表向きには使っている。体つきはどうしようもできなくて華奢だ。


 家同士の結びつきを考えて友人として紹介される者も近寄ってくる者も同性がいいだろうと女が多く、俺男だし、と思いながら自分と合いそうな男を自分で探し出した。探し出した友人にも最初女だと間違われたので、その場で上半身裸になった。それでも煮え切らない反応だったので、男として付いているべきものを見せようか、と言ったら慌てて信じてくれた。脱いだとき周りにいた男子どもの一様に顔を赤らめていた姿は吐き気を誘った。何で、男の上半身を見ただけで男が顔を赤らめるんだよ。きもい。


 十六歳を越えた頃からは求婚者が増えた。取り巻きも出来た。だが、すべて男。俺にそんな嗜好はない。中には熱心に言い寄ってくるやつらもいて、面倒になり、女の子が好きなんだ、と叫びそうになったら友人に口をふさがれた。お前は同性愛者だと思われたいのか、と友人に怒られたが実際には異性同士なのだからそう思われてもいいと思うのだが。むしろ、都合よくないか?


 そんな、女だと間違えられてきた十八年と数ヶ月、今回とうとう最大の困難にぶち当たった。

 三ヵ月後に成人パーティがあるのだ。他のパーティは病欠で無理やり休んできたが今回の成人パーティだけは必ず参加しなければならない。

 パーティぐらいで、と思うかもしれないがよく考えて欲しい。パーティといえば何を着ていく? そして俺は男だ。しかし、周りからは女だと間違われる。さあ、お分かりいただけだろうか?


 そう、俺はドレスを着せられそうになっているのだ! 有り得ないだろう!? 俺は男だぞ!? 何で女装なんてしないといけないんだよ!


 しかも、今回の成人パーティは女性は必ずパートナーが必要となる。そのパートナーは未来の伴侶としての意味を持つため、相手は慎重に選ばなければならない。相手がいない場合の逃げ道として異性の兄弟を連れて行く方法もあるが、残念ながら俺に兄弟はいないためムリだ。

 そもそも男性はパートナーがいなくてもいいのだから一人で行くと言っているのだが、あなたは女の子なのですよ!? と許可してくれない。何回も言うようだけど、俺男だし。

 最悪友人と行こうかと思ったが、その場合間違いなくドレスを着ることが確定するためすぐさま却下した。


 追い詰められた俺は、今まで切らせてもらえなかった腰まで伸びる髪を周りに無断で友人に短く切ってもらい、服も貸してもらった。そのときに、男の格好をしてもお前が男だと認められなかったらそのときは潔く女装をしてオレとパーティに出ること、と約束させられた。あのときの友人の顔は確実に俺の状況を楽しんでいた。俺が頼んでいる側だったため下手に出ていたが、あの時は一度沈めておくべきだったと今思い出しても後悔する。


 そして、その検証日が今日なのだ。




   *




「そろそろ諦めれば?」


 友人はさっきから終始ニヤニヤと馬鹿にした顔で持ちかけてくる。きっと男の俺が女装して嫌がっている顔でも想像しているのだろう。あぁ、どうしよう。何故だろうか、手が勝手に。とはさすがに言わない。自分で友人を殴るように動かした。


「うおっ、あっぶねぇな。殴んなよ。もとから分かってたことだろ? 諦めろよ」

「殴ってないですよ、あなたがよけるので。殴るな、と言うなら殴らせてください。……あー、そうですね、諦めます」

「どこに好き好んで殴られるやつがいるんだよ。え、なに、諦めるの?」

「ここ。ああ、諦めるということを諦める」

「オレを指差すな、オレにそんな性癖はない。……いや、意味わかんないし。つまり、諦めないってこと?」

「そうなんですか、知りませんでした。ああ、絶対に諦めない」


 友人は俺の言葉を聴くと一気に脱力し、盛大にため息を吐き出した。俺に向かってため息を吐き出すな。ムカつく。

 それにしても、ここまでしてもまだ俺は女だと間違われるとは。もうこれは俺的には本当に呪いだ。


「何時間ここでこうしていると思ってんだよ」

「今日は私のことを気づいてくれる人が現れるまでここにいますよ」

「そんなやついないから。もう諦めようぜ?」

「嫌です」

「お前なぁー」


 友人と言い合いをしているとカランコロンと入り口の方から聞こえた音が店内全体に響き渡る。人が来たようだ。顔は遠いため見えないが、格好からして女の子だろう。位置が悪く彼女の顔は移動し始めても見えなかったが、その子は先ほどまで俺らのことを話していた女の子たちのテーブルに腰を下ろした。いつまでも見ているとダメだと思い急いで視線をそらす。なんか、……気になる。そのまま、女の子達の会話を盗み聞きする。


「すみません! なかなか放してもらえなくて!」

「いいよいいいよ、いつものことだものね」

「そうだよ。それにしてもいつもすごいよねー」

「本当にすみません。えっと、それで? 何の話をしていたんですか?」

「あー、うん。あそこを見てみてよ!」


 見ていないので分からないが、きっと俺たちのほうを指差しているのだろう。視線が俺たちに注がれている気配がする。声的にたぶん後から入ってきた彼女だろう。うわぁーと感嘆の声がこぼれている。


「すごい美形の方達ですね!」

「そうね。でもあんたも負けてないわよ? というか、むしろ美男子には勝ってる」

「美男子に勝っても、……嬉しくないです。て、何で美男子って言っているんですか? 両方とも美男子ですよ?」


「「なっ!?」」


 俺と友人から思わず声が漏れる。さっき、自分で俺は男だと叫んだのに女の子達は聞こえていなかったのか? いや、違う、そこじゃない。興奮しすぎてつっこむポイントがずれている。

 やっと、やっと俺を男だと認めた子がいた。居ても立っても居れずにずんずん足早に彼女の元に向かう。その間も当然会話は続いており耳に入ってくる。


「何言ってるの? 片方は女の子だよ? 男装してるけど」

「え? 男装なんてしてませんよ。ちゃんとした男の子ですよ? って、あれ? なんか彼ら私たちのところに来てません?」

「あれ? 本当ね。会話が聞こえてたのかしら」

「えええ!? ちょっと、どうするんですか!? 怒られますよ!」

「そこは潔く怒られるしかないんじゃない?」

「えー、私怒られるの嫌いなのにぃー」

「怒られるのは私もいやよ」

「そもそも怒られるのが好きな人はいないと思います」


 俺が彼女のテーブルの前に立つと、周りの子に小突かれた彼女が、ええ!? 私ですか!? と言っていたが腹を決めたのか、すみませんでしたあああ!! と俺に頭を下げてきた。頭を下げるのは俺のほうなのに。頭を下げる意味は彼女と違うけど。

 顔を上げた彼女の顔を見て俺は息がつまり言葉を無くす。



「お、おか、ま? お前おかまか!?」

「私は女ですっ!!」


 いつの間にか横に来ていた友人は不用意な発言で彼女からアッパースイングを食らっていた。




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