声の価値
「チリル、お茶をちょうだい」
テーブルの上に座ってクッキーを齧りながら言う。
全身でティーカップを支えてチリルが紅茶を持ってきてくれる。
「ありがとう」
お礼に蜂蜜をたっぷり使ったマドレーヌをあげる。
「ねえ、本当によかったの?あれで」
先ほど帰ったお客のことを言っているのだろう。心配そうにのぞきこんでくる。
「何が?」
「だって、さっきの人本当に困っていたみたいだし……」
「うん、私も気持ちはわかるけど……」
彼女は結局声を差し出すことが出来なかった。
どんなに好きだといっても、どんなに愛していると言っても
結局は自分の声を差し出すことが出来なかったのだ。
「彼女は彼よりも声を、人魚としての命を選んだのよ。
そんな彼女に人間として生きることはできないわ。」
声を差し出すと言うのなら、それほどの覚悟があると思い髪の毛とか、不必要になる鱗とかをもらおうと思っていたけれど。
所詮その程度だったということだ。
「うぃー」
ヴィーダもそう思ったのかどうなのか、毛づくろいをしながら声を上げる。
「そっかあ……。まあ、仕方ないよね」
チリルも納得してくれたみたいだ。
「それよりさ、チリルって幾つなの?」
あった時から見た目が全然変わらない。
「え、それを聞く?」
「妖精って何歳まで生きるの?」
「ん~、150歳くらい?見た目はほとんど変わらないけど。
ルーサは今何歳だっけ?」
「私?私は23歳だよ」
とっくに前世の年齢を越してしまった。
「ちなみに、ヴィーダは?」
「うぇ?うぃー……うぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃ!」
「え?もう一回」
「うぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃうぃ」
「9?」
「うぃ」
「9歳みたいね」
「本当、ヴィーダだけは謎の生き物ね」
そう言って3人で笑う。
これから私は多くのお客に出会う。
怒って帰っていったり、涙ながらに感謝をして帰っていったり。
いろいろなお客にあっていった。
何年たってもチリルはチリルのまま変わらないし
ヴィーダもヴィーダのまま変わらない。
変わっていくのは私だけだ。
大人になって、フィリッフお爺さんにもらった写真を擦り切れるほど眺めて
気付けば私は本当の魔女の様な姿になった。




