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人魚の生き方  作者: 義昭
魔女の店
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人魚の願い

カウンターに座り俯いたまま話さない人魚。

青色に輝く髪と尾。伏せていても分かる綺麗な二重に大きな瞳。

桜色の唇は何かを話そうとしては閉じ、また開いては閉じを繰り返した。


そして……。


「あっぁの!ここ……なんでも願いを叶えてくれるとききました!!」

意を決して話を始める。


「ええ、対価をもらえば大抵のことは」

死人を生き返らせるなんてことは流石にできない。


「私……人間になりたいんです!!!」

可愛らしい綺麗な声だ。


「どうして?」


「その……」


「人間になることの大変さは知ってる?」

1ヶ月に2回だけ人間になれるからと言って人間の生活が全てわかるわけではない。


「わかってます」


「たとえば?」


「水の中で息が出来ないとか……うまく泳げなくなるとか……」


「そうね、常に肺のみで呼吸をする。水かきも尾もなくなるわね」


「それから、二本足で生活して……自分で働いて……」


「そう、魚を捕って売るのではなく釣って捕り、涙が真珠に変わることもない。

海が恋しくなっても戻ることもできない」


「……っそれでも……!人間になりたいんです」


「憧れ?」


「いいえ……」


「羨望?」


「いいえ……」


「恋……?」


「っ……。はい」


「そう」

本当にお伽噺のような展開だ。

恋や愛だけで今の生活を捨てるなんて無謀すぎる。

種族も違う生活環境も全く異なるのに。


「お相手は?」


「港によくくる船乗りです」

王子様じゃないんだね。


「相手は……あなたの事をどう思っているの?」


「両……想いなんです」

思いが伝わらないで泡になることはないんだ。


そうやって2人でゆっくりカウンセリングのように話をして願いの具体的な事を聞いていく。



「さて……。ここまで話をしたけれど、あなたは何を差し出せるの?」


「あの……私、何も持っていなくて……」


「何もないから出せないの?」


「いえ……必ずお渡しします……だからっ……」


「だから?」


「待ってほしいんです」

初めの頃とは大違いではっきりと意見を言ってくる。


「駄目ね」


「……え」


「分かりました、と言って通ると思った?

貴女、人間になるのよ?どうやってここまで持ってくるの?」

ここは海の奥底。深い深い海の底。


「えっと……潜って……」


「あのね、ここ水深何メートルあると思ってるの?

ここにくるまでに水圧で潰されてしまうし、酸素も持たないわよ」

思わず呆れて言ってしまう。


「えと……すいあつ?さんそ?」

そうか、ここはまだ科学的なことは進んでいなかったんだっけ。

中途半端に魔法があると発展しないんだよね。

なんで火が燃えるのか、どうして呼吸ができるのか、何故水は凍るのか……。


「まあ、いいわ。とにかく人間の体になってここにくることはできないわよ」


「じゃ……ぁ、えっと……取りに来て……頂くしか……」


「話にならないわ」

呆れてもう何も言えない。


手元に合ったベルでチリルを呼ぶ。


「はーい。ルーサ、呼んだ?」


「こちらのかた、お帰りよ」


「ちょっと待ってください!!私本当にどうにかして持ってきますから!!

お願いします!!」


「どうにかしてって?」

ズイッと顔を近づける。

私の相手の間にぷくぷくと小さな気泡がたち鼻を擽る。


「どうやって?船でも使うの?船から紐で私の所に垂らすとか?

それとも他の人魚にお願いしてもってきてもらう?

それでも確実?保証は?持ち逃げされたり紐が切れたり検討違いの所に落としたら?

確実な案は?どうにかって、具体的じゃないわ。

どうにかするならどうするのか具体的に説明してちょうだい。

ここはお店よ。

気に入らないなら他の魔女にお願いするべきだわ」


「えッと……その……」


「何」


「他の魔女にも断られてしまって……」


「でしょうね。私もお断りよ。慈善事業じゃないの」


さ、連れてってちょうだい。とチリルに言い奥の部屋へと戻ろうとする。



「ま、待って下さい!!私、本気なんです!彼が、待っててくれるんです!!

一緒に生活したいんです。私が出来ることならなんでもします、差し上げます!お願いします!!」

一緒に……。私もしたかった。

もう声すらも聞けないあの人と。


「そう……どんな形になっても一緒にいたいのね」


「叶えましょう」


パァァァと顔が明るくなる人魚。


「対価は、あなたの声」


「え……」


「貴方は彼とあっても話すこともできない。永遠に声を出すこともできない。筆談か、どうするかは貴女次第だけれども。

声をくれれば人間にしてあげるわ」


お伽噺のように歩くたびに足が激痛を走るなんてことはないだけましと思ってほしい。

まあ、彼女はその話自体知らないからなんともいえないけどね。


「声……ですか」


「そう、声。人魚の声は価値があるの。丁度ほしいって言うお客もいたしね。どう?」


人魚は声が命。

声が出せなくて不便とかそういう問題の前に、プライドがある。

命に相応するものを賭けてまでほしいのなら願いをかなえようじゃないか。


「私は――」


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