魔女のお店
薄暗い海の奥底、大きな洞窟の入り口にはカンテラがかけられていて波に合わせて青い光がゆらゆらと泳ぐ。
深い深い海の底、その明かりが看板の代わり、目印となる。
古い木材を使った扉が洞窟に入った先に取りつけられており
開ければ波に乗ってチリンチリンと鈴の音が聞こえて、来客を知らせてくれる。
まずはヴィーダがお出迎え。
ヴィーダはお客をうつす鏡となる。
ミアルダは気まぐれで自分勝手、でも本当は寂しがり屋な猫。
チリルは自由気まま、雌の鳥だからか少し性格が強い。
私は……生娘だけど、それだけでよくわからない。
けれどもヴィーダは的確にお客を見せてくれる。
ヴィーダが案内したら次はチリル。
要件を聞き私を呼ぶ。
そして一番奥の扉から私が出て来て、対価を伝えるか何にするかを決める。
船乗りたちとしていたことは変わらないけどね。
他の魔女のお店はとても不思議な空間だった。
扉を一歩跨げばまるで異世界にきたような雰囲気だ。
ある魔女は優しくて穏やかで、格安で良いものを売っているし
ある魔女は意地悪で傲慢で高く粗悪品を売りつけている。
ある魔女は魚だったり、ある魔女は貝だったり。
ある店はピンク一色だったり、ある店は真っ黒だったり。
ある店はファンシーだったり、ある店はホラーだったり。
いろいろな種類の店があり、お客は自分のお気に入りの店を求めて渡り歩く。
*
「うぃーうぇうぇ」
ヴィーダがお客をきたことを知らせる。
「ウラリルの姿ですって」
チリルはお客がヴィーダを何に見えたかを私に伝える。
「ウラリル……ねえ」
ウラリルは万年発情期の動物だ。
ピンクの丸い毛玉のような生き物だが、獰猛で性欲が強い。
ただ、ウラリルの種族間だけなので人が襲われることはない。
「ウラリルに見えるお客って良いことないのよね」
そうだ、以前ウラリルに見えたお客もひっきりなしに口説いてきたり
求めているものが異種間との交尾だったりとあまり良い案件がこない。
「そんなこと言わずに、もうくるわよ」
チリルに促されて小さな狭いカウンターに座る。
「いらっしゃい。七色の魔女へようこそ」
「はじめまして」
そう言って顔を見せたのはチンアナゴ。
白くにょろにょろとした体に青と黄色の大きなドット柄がついている。
「貴方の願いはなあに?」
そうしてお客の願いを聞く。
このお客は普通の願いを言っていたのだけれどぎらぎらと目が輝き、最終的にはそこら辺のものを投げつけて来た。
ヴィーダが間に入り止めてくれたけれど、ウラリルの姿に見えるお客は断った方がいいかもしれない。
「チリル、人魚のお客様よ。ヴィーダにはあなたと同じユニコーンに見えるみたい」
そう言ってカウンターに通された一人の人魚。
人魚のお客はそれほど少なくない。
美への追求、歌声の追求などその容姿にかける情熱が強い。
「はじめまして、七色の魔女へようこそ」
「貴方の願いはなあに?」




