最後の人物
フィリッフお爺さんに会った。
ミアルダにも会った。
残りは……。
「こんにちはー」
夕暮れも近くなり、涼しくなってきた。
「んあ?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
工場の様な場所に声をかけると手前に居た職人さんに怒られてしまった。
「あっ、すみません。私、細工職人捜してて」
そう言うと工房の中を覗く。
「あっ、こら」
身を乗り出した私を制そうとする人の奥に……見つけた。
「手の具合はいかがですか?」
そう言って話しかける。
すぐにこちらを振り向き笑顔を見せる。
「おおっ、人魚の嬢ちゃんじゃないか」
嬉しそうな顔で持っていた髪飾りを置きこちらに寄ってきてくれる。
「お久しぶりです。」
お辞儀をしている間に、私を制していた職人を手で諫めて下がらせてくれた。
「いきなりすみません、様子を見に来たんです。あまり時間がないので押し掛けるような形になってしまいましたね」
「なあに気にするな、嬢ちゃんは恩人だからな」
そう言って真白な歯を見せて答えてくれる。
気持ちのいい人だ。
「腕、問題ないですか?」
ミアルダのこともあって少し心配だ。
願いは完璧だけれど、不完全だ。
「問題ねえ、お陰さまよ」
そう言って作った作品を幾つも見せてくれた。
「うわぁ、綺麗ね。」
猫の形をした髪飾りや水晶を飾り付ける土台、ネックレスや指輪などどれもきらきらしていて綺麗だ。
「そうさな、好きなもんをあげたいところなんだが……生憎これは注文品でなぁ……」
「いえ、いいんです。しっかり出来ているのが分かれば」
う~ん……といまだに首を捻っている職人に断りを入れる。
「いや、でもなあ」
「それに、以前別れるときにコレもらいましたから」
蝶のネックレスを触る。
「よし、あい、わかった。今度きたときはまたすげえもんつくってやるよ」
納得してくれたようだ。
「ええ、楽しみにしています」
元気そうでなによりだった、それだけで十分だ。
「私、もう行きます」
「これから何するんだい?」
「海の底でお店でも。」
「海の底で?」
「ええ、海の底は魔女でいっぱいなんですよ」
「ほう」
「いろんなものを売っている魔女のお店です」
「へえ、俺ら人間には海の底なんて想像もつかねえなあ」
「綺麗ですよ、とても」
「いいねえ、一度は見てみたいねえ」
「来世に期待してくださいな」
そう伝えて笑う。
「ちげぇねえ」
職人も一緒に笑う。
「それじゃあ」
「ああ、またな」
ヴィーダとチリルを連れてその場を離れる。
*
「ねえ、ルーサ。さっき言ってたことって」
「うぃ」
「ん?」
「魔女のお店」
「ああ、飲食店……つぶれちゃったでしょう?」
だから新しいお店を持つ。
七色の魔女と呼ばれる私のお店を。
求める者は何を払ってでも欲しくなる商品を。
あの、お伽噺のように。




