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人魚の生き方  作者: 義昭
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彼女の結末

昨日マーブルにちらりと聞いた女の住処。

ぼろぼろのアパートに蔦が張り付いて今にも壊れてしまいそう。


「なんか、異様な雰囲気だね」


「うぃぁ」


チリルが言い、ヴィーダが返事をする。


「ヴィーダ、分かって返事してるのか……?」

そう言いながら観察する。


場所は2階の一番左端。

入口には本やゴミが重ねられていて見ていて怖い。


「私、様子みてこようか?」

チリルが提案してくる。


「う~ん……どうしよっか」


そう言って迷っていると


「迷ってるなら見た方が早いよ、私なら見られないから」

と、結論を出す前に行ってしまった。


「あぁっ……まあ、いっか……」

報告を待つ間ヴィーダを撫でる。

なんだかんだで4日も一緒にいれば情が移ってくるなあ。


「……ただいま」

そう言ってチリルは口を押さえながらよろよろと戻ってきた。


「どうしたの?」

聞くと見たことを話し始めてくれた。


ずっと窓の方を見てぶつぶつと言いながら泣いていた。

部屋の中もゴミ溜めで足の踏み場もない感じ。

其処ら中にある本は黒魔術に関する本で、探し人を見つける方法、とか願いが叶う方法とかいろいろだった。

時折わめいては胸をみて「ない……ない……」って呟いていた。

とにかくいるだけで気が滅入ってくるような空間だった。


「うわぁ……ちょっと逃げたいなあ」

けれど自分の悪戯がここまで一人の人生を狂わせてしまったんだし責任持たなきゃなあ。


「どうする?見て見ぬふりも出来るけど」

こそこそと相談をしていると、通りすがりの人の会話が聞こえてくる。


「そう言えば、また人魚きたみたいだね~」

「そうなの?どこにいるのかな?私前に来たときあえなかったんだよね」


その瞬間、バンッと扉が開く音がしたかと思うとダダダダダダッと豪快に走る音が聞こえた。


「な、なに?」

物陰に隠れながら辺りをきょろきょろすると、先ほど会話していた町の人がぼさぼさの髪を振り乱している女に話しかけられていた。


「あの!!」

女の声はガラガラで喉の奥から搾りだしているようだった。


「ひっ」

それに通行人が驚き半歩下がる。

それに合わせて半歩進んで女が喋る。


「あ、あの……」

段々気が弱くなっていき縮こまってしまう女。


「……はい……」

それに合わせて目線を下げる優しい通行人。


「に、人魚……どこにいますか?」

もうすでに泣きそうな顔で尋ねる。


「あ、あぁ。昨日港で見たらしいけど……」


「ありがどうございまずぅぅぅ……」

そう言って鼻水も涙もだらだら流しながらお礼を言っている。


「う、うん。じゃあ……」

そそくさとその場を通行人は去っていき、泣きながら蹲る女だけが残された。


「うぅ……ヒック……ヒック……ごめんなざいぃ……私は役にたぢまぜん……ヒック、ごめんなばいぃい……」

悲痛な女の声がする。

髪を振り乱し、嗚咽を堪えることも無くただただ謝罪し泣き、許しを請うその姿。

うぅむ……どうにもやりすぎた。胸が痛くて仕方がない。


けれど、次に会ったらなんでも言うことを聞いてあげるっていっちゃったしなぁ。

無理難題言われても嫌だしなぁ。


悶々と考えているとヴィーダが女に近づきすり寄っていく。


「ヒィィッ!ご、ごめんなさい、邪魔なところにいてすぐにどきます。すみませんっ」

立てないのか尻を床に擦りながら移動していく。


あまりにも惨め過ぎだ。

私のせいで。


「ちょっと……行ってくる」


女の前に行く。

「ねえ」


女は顔を腕でガードする。

それだけで、どんな生活をしてきたのか容易く想像できた。


「ごめんなさい」

謝る。まずは、謝る。


「私のせいだね」

そう言って帽子を取る。

女の髪とは対照的にさらりとした髪が体に纏わりつく。


「あ……あぁ……ぃた……」


「うん、そう。私は人魚。七色の魔女」


「ぁぁぁああああああぁぁぁぁ!!」

そう言って大声で叫ぶ。


「ごめんなさい、ちょっとした悪戯心だった。貴女が少しだけ苦しめばいいと思ったから」


「ああぁぁぁ……」


「少しして反省していればこっそり戻すつもりだったの」


「……ヒック」


「けれど……こんなにとは……本当に申し訳ないわ」

謝っても許されないだろう。


「ごめんなさい」


「全てを元に戻すわ。」

神様、彼女の戻してあげて。


ふわりと光が彼女を包む。


頭の先から足の先までゆっくりと、ゆーっくりと輝いて消えると私が出会ったころの姿になっていた。

表情だけは不安気な今にも泣きそうな顔をしているけれど。


「あ……」

自分の姿に気付いて呆然とした後、彼女はまた大声で泣き始めた。


そのまま今までの経緯を話してくれた。


胸が無くなってからは自分の顧客が消えた。

パトロンも他の若い女の子に目を向けて構ってもらえなくなった。

それでもまだ自分は大丈夫だと言い聞かせていつものようにふるまっていたが周りの視線は冷たいまま。

その内指名も減り、誰も見向きもしてくれなくなり生活が苦しくなった。

自分がいかに傲慢か気付き大人しくしていると今度は他の若い子からのストレス発散に遊ばれた。

精神的にも肉体的にもボロボロになっているときに優しくされていた男に裏切られて残り少ないお金も持って行かれた。

どうにかして貴方を見つけたかったけれどどこにいるかもわからない。

今はほそぼそと暮らしているがお金も底をついたし何もする気力が起きていなかった。


毎日外の声を聞いてぼーっと過ごしていた。

そこに人魚と言う声が聞こえて思わず飛び出してしまったけれど、また殴られるのが怖かった。

必死で人魚がいるとだけは聞いたけど、人が怖くて動けなくなってしまった。


「……なるほどね」

とりあえず、落ち着いてもらわなければいけない。


「とにかく、落ち着いて。私が悪かったわ。貴女の記憶を消すこともできるけれど。

ひとまずはどこかでゆっくりしましょう。

大丈夫、今の貴方はとても綺麗よ」


そう言って立ち上がらせる。

肩に触れただけでビクリと震え始める。それがどれだけ彼女が苦しんできたかを物語る。


心臓がきゅぅぅと縮んで行く。

罪悪感がこみ上げる。


「うぃ」

ヴィーダがそっと彼女の頬に擦り寄る。

彼女は落ち着いたのかそのまま眠っていってしまった。


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