新月の夜の会話
新月の夜がやってくて、辺りは暗くなる。
海の中は街灯を付けて明かりを取りはじめた。
私は砂浜に腰掛け足になるのを待つ。
人の街の明かりはいまだに火で保たれている。
火のついた蝋燭を蝋燭台に立てて梯子で登り火をともす。
ゆらりゆらりと蝋燭の炎が揺らめいて作る影は懐かしく感じる。
日が昇れば梯子に登り息を吹きかけて消す。
たまに火を出せる魔法使いがつけてくれたりもするけれど、そんな人はなかなかいないから人力で皆行っている。
全ての街灯に火が灯りきり、見えない月が頂点につく。
チリルと2人で話していると人間の足になる。
「さあさあ、行きましょう」
綺麗に体を拭き、洋服に着替える。
真っ黒なワンピースには白いバラの刺繍が施されている。
白い糸は光に当たると赤く反射する。何時ぞやの海の蜘蛛が出す糸でつくられている。
白色のストールを羽織り、帽子を深くかぶって髪の毛をまとめていれる。
「まあ、ぱっと見なら私とはわからないかな?」
自分を確認して町へと向かう。
「うぃ?」
歩き出すと後ろから声が聞こえた。
「え゛!?」
ウィーウェが後ろからぱかぱかとついてくる。
「あんた……陸にもいれるの?」
「うぃ」
分かったのか分かってないのか……返事をする。
「どうするの、ルーサ。」
「駄目って言ってもこの3日間ついてきてたんだから……連れていくしかないよね……」
諦めてウィーウェを撫でてついてきてもいいと許可を出すと顔をこすりつけて喜ぶ。
「ねえ、チリルにはいまどういう風に見えるの?」
「えーっと……赤い鳥がルーサの胸辺りにぐりぐりしているようにみえる」
ああ、まあ、間違いじゃないかな……。
「とにかく、行こっか。今日眠るところも確保しなくちゃだし」
「そうだね」
そう言ってやってきたのは町の宿屋。
「いらっしゃい、1名かい?」
恰幅の良い女将に人数をきかれる。
「ええ、一応1人だけど」
チリルは見えない。
問題はウィーウェだけど……。
「あら、あんたリスかってんの?可愛いわね」
人間にも見えるのか。リスってあんた。
「うぃ?」
「あんら、まあ。首を傾げてるよ、可愛いねえ」
そう言いながら小さな種を手のひらに出す。
「手に乗って種を食べてくれるなんて人慣れしてるわね」
私にはユニコーンが種を食べたあと貴方の手のひらに頭を置いてるようにしか見えません。
角が当たるんじゃないかってひやひやしてます。
そんなこととはつゆ知らず女将は頭をひとなでしてウィーウェを解放してくれた。
「それじゃあ、これ」
そう言って銀の鍵を渡してくれる。
前払いでお金を払い、女将にお礼を言って部屋に入る。
「ふぅ……」
種族が違う人と話すのはなんだか気を使う。もともと人間だったのに。
今回はちょっとした目的があるから、大人しくしていなきゃと思って余計に疲れちゃった。
そのままボスンとベッドに体を沈める。
重力が重い。
体が重い。
眠たい。
枕元の電気を消すのも忘れてそのまま眠りについた。
*
朝起きるとチリルが枕元で眠っていた。
いつも潰さないかひやひやしているんだけど、寝相がそんなに悪くないようでまだ大丈夫だ。
ウィーウェは……私がそちらを向くとぐねぐねと蠢いてユニコーンになる。
いつみても不思議な生き物だ。
「お前には名前をあげなければいけないね。」
このまま一緒にいるならば、と付け加えると
「うぇ」
と首をかしげる。
意味、わかってんのかなー……?
「名前をあげよう。お前の名前はヴィーダ……ヴィーダよ」
「うぃー」
「わかってんの……?」
思わずすっ転びたくなる返事だ。
「ルーサ、何してるの?」
目をこすりながらチリルが話しかけてくるので、先ほどの話を伝える。
「ヴィーダ、良い名前ね。」
そう言って外出準備を始めた。
女将に挨拶もそこそこに、食事をして外に出る。
「どこへ行くの?」
チリルが訪ねてくる。
「そうね、ちょっと知り合い?な人の様子を見に」
と伝える。