ユニコーンと赤い鳥
朝早くに目が覚める。
チリルはまだぐっすりと眠っているので、起こさないように海藻から抜け出す。
日が昇り始めたばかりで外に顔を出しても薄暗い。
朝の冷たい空気が肺を通り体へと染み渡るのが心地よくて、何度も何度も深呼吸をする。
夜型の魚たちは塒に戻り、朝方の魚たちはすでに泳ぎ始め、昼の魚はのっそりと起きてくる。
街灯はチカチカと点滅し始めて消え、代わりに朝日が潜り込んでくる。
柔らかな日が海を照らしじわりじわりと暖かくなるのを感じる。
空を見れば鳥が列をなして飛んでいく。
海にいるだけでこんなにも空が遠くなると、今気付いた。
海はみんなとの距離が近い。
知らない人だろうと関係なく近づいては離れを繰り返し話をする。
いろいろな所から季節によって移動したりもするし、常に同じ場所に居続けない魚だっているから。
だから、困っていれば誰かが助けてくれるし落ち込んでいれば声をかけてくれる。
優しい暖かさが溢れる世界だ。
「うぃーーーーうぇっ!」
いきなり大きな声が後ろから聞こえる。近づいてきた音も何も聞こえなかったので、殊更驚いた。
とっさに後ろを振り返と光沢がある銀色のスライムのようなものがうねうねとしていた。
銀を溶かしたようなその姿に恐怖を覚える。
「なっ……?」
「うぃーーうぇえ」
どこから声を出しているんだ……?
そう思っていると全体が僅かに振動し光出す。
「なっ……なんっ!?」
そのままぐねぐねと動き暫くするとユニコーンになった。
尾は光輝く黄金のライオン、顎は立派な牡ヤギ、2つに割れた蹄、額の中央には螺旋状の筋が入っている鋭く尖ったまっすぐな角。
真白な汚れていない体は見る者を圧倒して魅せる。
「え……?」
「うぃーうぇ」
「鳴き声はそのまんまなんだ……」
相変わらず鳴いているが攻撃をしようとはしてこないのでとりあえず落ち着く。
「ユニコーンって確か獰猛で生娘の懐でしか大人しくならないって……」
まあ……そうなんだけど……さ。
「うぃ?」
うぃ?じゃないし……。
と、とにかくチリルの所に戻ろう。
そう言って潜るとユニコーンはついてくる。
私が進めば進み、止まれば止まる。
「え?」
どんなスピードでもついてくる、さすがユニコーン。
結局振り払うことはできずチリルの場所にいく。
「ルーサ、おはよ」
戻るとすでに目が覚めていた。
「おはよう、チリル。それで……なんだけど」
そう言ってユニコーンを見せる。
すると……。
「なんで海の中に鳥がいるの?」
?
「何言ってるの?ユニコーンじゃない」
「え?鳥でしょ?赤い鳥。」
「え?どういうこと?」
チリルと私では見えているものが違うらしい。
その間にもユニコーンは顔を私になすりつけて
「うぃーうぃうぃうぇ」
と鳴いている。
「ねえ、ルーサ。鳴き方から思ったんだけど、それウィーウェじゃないの?」
ウィーウェ?
「ほら黄身が3つあったやつ。見る人によって姿を変える謎の生き物」
あ!卵屋のおじさんが言ってたやつ?
なんで思いつかなかったんだろう、あんなに卵を使っていたのに。
「え……で、どうすればいいの?この子」
呆然とする私たちをしり目にぐいぐいと擦りつけてくるウィーウェを見て、どうすればいいのか悩む……。




