ばいばい
それから数週間。
トレックさんから何度か呼ばれ同じ話を何度もする。
思い出したくもないのに、何度も何度も、同じ話をさせられてうんざりだ。
進展しているのかしていないのか、どうなったのかすら教えてもらえずだらだらと時間は過ぎていった。
そんなある日の朝、トレックさんに呼び出された。
「お話があります、今大丈夫ですか?」
そう言われてついていった場所はいつも事情聴取をされる部屋とは違い応接室のような場所に連れていかれた。
「さて……」
深くソファに座っていたトレックさんが身体を起こしてこちらに向き合う。
「単刀直入に申し上げます。ギンソはこちらで捕まえました。」
一瞬の間のあと、ほう……と口から息が出る。
心から安堵した。
あの助けられた瞬間から、いつ奴がやってくるかと脅えていた。
ようやく解放された。
「遅くなって申し訳ありませんでした。
ドブガエル族との因果関係や裏付けなどに時間がかかりました。
しかし、彼は阿呆ですね。いたるところに証拠や証人がおり、分かってからはサクサク進めましたよ」
相変わらず表情を変えずにスムーズに話してくれるトレックさんに好感が持てる。
「ギンソはどうなるんですか」
「拉致、監禁、不正奴隷未遂、まあ、この街にはいれませんよ」
特に不正奴隷は大きな案件ですからね、そう言ってふぅぅとトレックさんが息を吐く。
「ドブガエル族は?」
「今回の事はギンソ単体の動きだと証明されましたからね、不問ですよ。
ただし、一族の名前をかたったということでギンソは一族から身ぐるみを剥がされて追い出されたそうです。」
失うものが無くなったギンソが自棄にならないか不安だ。
そう伝えるとトレックさんは珍しく笑いながらこう言った。
「彼は一生独房の中ですよ」
「人魚の長が直々に願ったそうです。さすがに極刑は無理でしたがね」
長が?
「貴方のお父様とお母様のお陰でしょう」
そう言われてルンダさんが言った「任せておきなさい」という言葉を思い出した。
「まあ、国としても不正に奴隷を作ろうとする輩をそうそうと放つはずがありません。
安心してください。
貴方の身の安全は私たちが保証致します」
そこまで言われて初めて身体の力が抜けた。
本当に安心した。
「わかりました。トレックさん、ありがとうございました」
そう言って深々とお辞儀をする。
「いいえ、これからどうするんですか?暫くは宿舎に居て頂いても結構ですよ」
そうトレックさんが提案してくれる。
「いえ、安全なのが分かれば大丈夫です。暫くはそのまま旅に出ようと思います」
「そうですか」
トレックさんは引き止めることはない。
「お店の場所ですが、ククアドールさんに返してください。売って頂いてもかまいません。
もとはあの人たちの場所ですし、安く頂いた場所ですから」
「畏まりました」
この街も食べ物の店が増えて来た。
当初の目的は完遂したようなものだ。
だからもう用はない。
次のステージに行くべきだ。
うじうじしているのは私らしくない。
「では、また会えれば」
そう言って部屋を出る。
事務的にトレックさんも挨拶をしてくれる。
誰にも言わずひっそりと肩にポシェットをかけて、チリルと2人で出ていく。
さようなら四季の街。




