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人魚の生き方  作者: 義昭
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二度目の別れ

私が眠っている間に満月の日になってしまい、ひとまずドブガエル族から逃げられた。

この1日でどうにか対策を練らなければいけない、とルンダさんに伝えるとそれは僕たちに任せておくれ。

そう言いながら山盛りのスコーンを食べ始めた。


「任せておくれって言われても……」

月が頂点に登れば海の中に戻らなければいけないし、待ち構えられていれば逃げようもない。


不安になりながら時間は進んでいく。

途中、チリルも目が覚めて私の胸に飛び込んできたり久しぶりに手料理を2人にふるまったりと不安な気持ちを気付かないよう過ごしていった。


*



「さあて、そろそろ戻るよ。海に行こうか」

ドキリ。


ルンダさんの掛け声で心臓が跳ねる。


「大丈夫よ、行きましょう」

ローサさんが私の肩を持ち、支えてくれる。


死んでもいいと思ったあの時間。

強制的に剥がされた鱗。

脅されて生かされていたあの空間。


あの場所の恐怖が蘇る。


「大丈夫よ」

気付けばルンダさんも私の肩を持ち、一緒に支えてくれていた。



「……はい」

もともと、海でなければ生きていけない私に行かないという選択肢はなかった。


砂浜に座り足が戻るのを3人で待つ。

チリルは常に私の横にいてひらひらと見つめてくる。

そんな不安そうな顔をしないで、大丈夫だと言ってくれたから、それを私は信じるわ。


足が光り輝いて――私は、人魚に戻った。


「さあ、行きましょう」

行きましょうってどこに……お店も無くなって、住む場所もなくなって……私の場所はなくなったのに。

四季の街を目指して私たちは進む。


暗いくらい海の底をすれすれに泳いで、時折ちかちかと光る小さな貝や小魚が珍しそうに私たちを見る。

普段は水面に近い部分を泳いでいる人魚が海底にいること自体が珍しいのだ。

たまに大きな岩や崖の壁などの隙間に看板がある。


「あれは何?」

そう聞くとルンダさんが教えてくれた。

「あれは魔女のお店だよ。洞窟や壁をくり抜いて店を構えているんだ」

魔女……。


海の魔女と聞くとお伽噺の人魚姫を思い出す。

足が欲しいから声を失って、結局そこまでしたの恋は実らず死んでしまう。

悲しい恋の物語か、激しい愛の物語か、考えたことがあったっけなあ。


「魔女のお店は何を売っているの?」

疑問を口にすると今度はローサさんが答えてくれる。


「薬や魔法よ」

聞くと、あやしい薬から普通の薬、多種多様の魔法を売っているらしい。

いかにも魔女だなあ。

魔女のお店もピンからキリがあってうかつに入ると危ないと教えてもらった。


そうこうしている間に四季の街に着いた。


門番と話をして中へ入る。

夜中のせいで歩いている生き物は少ない。


壊されてしまった自分の店まで行くと、トレックさんがいた。


「あ……」


「こんばんは、ルーサさん。お久しぶりですね」

料理対決以来だな、トレックさんと会うのは。


「ええ、こんばんは。どうしたんですか?」


「ああ、ギンソについてお話を伺いに来ました」

トレックさんって役所の人だったよね?警察みたいなこともするのかな。

そう聞くと

「治安維持の為に役所が動きますよ、警備隊みたいなものもいますが国を揺るがすような大きな事案にならない限りは私たちが処理致します。」

そう言って軽くお辞儀をした。


「ともかく、ここではゆっくり話せないでしょうから役所の方でお話を伺います」


そう言い4人で話をしに行った。


そこで、それぞれ別室に通され店が壊されていたことから始まり助けにくるところまで事細かに伝える。

私とチリルの話に矛盾がないかチェックされた後、一緒に話を再びする。

前から尾行されていたと伝えると、早い段階で相談してほしかったですね、と軽く注意をされてしまった。

これは放置していた私の責任だから、素直にごめんなさいと謝った。


それから調べることがあるから暫くはここに滞在してもいいと、宿舎に案内された。

家が壊されていたからとても助かる。

けれども、ギンソが捕まっていないから安心はできないし暫くは引きこもろう。


ルンダさんたちはしきりに私たちの家に戻ればいいと言ってくれたが、お断りした。

サルンサもいるし、それに長い間帰っていなくてどういう顔をして住めばいいのかわからなかった。

スナーシャさんにも顔を合わせづらい。


名残惜しそうに2人は家へと帰っていった。

いつでも戻ってくればいい、手紙でも泡でも飛ばしてくれていい、困ったときは頼ってくれていい。

僕たちは君の親なんだから。

そう言って抱きしめてくれた。


今までごめんと、謝ってくれた。


それだけでスーッとつきものが落ちたようにすっきりとした。

十分だ、彼らからの愛はそれだけでいい。

あとは自分が播いた種だから、私が回収する。


「ありがとうございました」

深く、深くお辞儀をしてお礼を言う。

そして2人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

何度も何度も振り返る姿に笑いながら、今回は泣かずにお別れを言えた。


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