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人魚の生き方  作者: 義昭
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濃厚なお味

月日とは早いもので、『いのち』を開店してからもう半年がたつ。

特に大きなトラブルが合ったわけでもなく順調に店は続いている。

当初の目的の美味しいお店を増やす!というのもなかなか順調だ。

弟子にしてほしいとか、レシピを教えてほしいとか、お店を出したいとか、そんな話をされたり。

街の喫茶店でちらほらと話も聞こえてくるし、私の料理を食べながらメモを取る人もいる。


それから、マヨネーズを求めてくる人も増えた。

主婦だったり、子供だったり、老人だったり、商人だったり。


特に面倒くさいのが商人だ。

毎日毎日毎日やってきては、どうにかして大量に手に入れようとする。

私は食べてくれる人の顔を見て販売したいのだ。

どんなに説明しても、私の仕事は料理を作ることだと言っても、どれだけ説得しても引いてくれない。

毎日30個売るはずの物を半分以上も買い占められればたまったもんじゃない。

最近は一人一つまでと限定して発売している。

それでも昼夜、場所を問わず突撃してきてはずっと売ってくれと懇願してくる。

これは辛い、本当に辛い。


店で出している料理はほとんどレシピを公開している。美味しいものをたくさん作ったり、アレンジをしてもらったり、それの専門店をつくったりといろんな幅が広がるからだ。

けれど、マヨネーズのレシピだけは誰にも教えていないのだ。

あれからウィーウェの各卵黄のマヨネーズを作り混ぜる配分を変えたり、油を変えてみたり、試行錯誤して作りだしたのだ。

これだけは誰にも教えられない秘伝のマヨネーズ。

これを盗もうと躍起になっている人物も多いけど、それのリーダーが商人だったりする。

そんなあくどい商売でいいのかね……。


どうにかしなくては、と思うけど断り続けるくらいしか思いつかないし今は放っておくしかないかな。


*


「チリル、今日はお店めぐりをしようか」

四季の街にも飲食店が増えた。

冬の街には鍋が出来たり、夏の街にはアイスが出来たり。

いろいろな店の人と顔見知りになってお互いに情報交換をしたりしている。

新しい食べ物や作り方、知らない食べ物に組み合わせ、目から鱗だ。


『いいね、そうしよう!』


「どこの街に行きたい?」


『う~ん、冬の街から行きたいな』


「いいね、あたたかいものを食べよう」


『賛成』

準備に取り掛かり店を出る。


視界の端に商人がいるけど、見ないふり。

さくさくと冬の街を目指す。


冬の街の門番に挨拶をして門をくぐるとそこは一面冬景色。

最初に見たときから変わらない。

白と黒の水晶の街。雪が水に漂ってゆらゆら落ちては積もっていく。

チリルは気に入った雪を頭に付けて髪留めのようにしている。

青い髪に白い雪は良く映える。

「似合ってるわ、チリル」


そういうと、はにかみながらお礼を言ってくる。


「やっぱり冬の街は寒いね、海が凍りそうね」


『ええ、本当ね。けれどその分、温かい料理が美味しいわ』


「そうね、何食べる?」


『う~ん、そうね。アツアツの鍋もいいし、トロリと溶けたチーズもいいね』

そう言って建てられた飲食店を覗いて行く。

私に気付いた店員たちはそれぞれに笑顔を向けてくれる。


「チーズ……チーズ……チーズフォンデュ?」


『チーズフォンデュって溶けたチーズに食べ物つけて食べるやつだっけ?』


「そうそう、寒い日に食べるあつあつのチーズが美味しいんだよね~」


『じゃあ、それ食べに行こうよ!』


「それなら、トトトさんのお店かな?チーズ専門でお店を出しているはずだから。」


『チーズ専門って思いきったよね』


「本当だよね、でも寒い場所ではとかしたチーズが人気なんだって」

言いながら細い道に入っていく。

煉瓦のような水晶を積み上げたお店。

看板には『チェダ―』と書かれている。

トトトさんが好きなチーズの名前。チェダ―チーズのことだ。


扉をあけて中へ入ると焼けたチーズの匂いが鼻を擽る。


「いらっしゃぁ~い」

出て来たのはミズクラゲ、スナーシャさんと同じ種類だけど体の色は薄いピンク。

相変わらずクラゲの人たちは心臓が丸見えだ。


高い子供のような声で出迎えてくれたトトトさん。れっきとした大人の男だそうだ。


「ああらららぁ、ルーサちゃんにチリルちゃんじゃない!お久しぶりね。来てくれてうれしいわ!」

れっきとした男だ。


後ろからつけてきている人も中に入ろうとすると、それよりも素早くトトトさんが「貸切中」の看板を立ててくれた。


「ああ、ありがとう。今日はチーズフォンデュを食べに来ました」


「まあ、嬉しい!腕によりをかけちゃう!」

そう言っていそいそと準備を始めるトトトさんの後姿を見てチリルと顔を合わせて笑う。

何も言わなくても察してくれる。というか、あいつらの行動が露骨過ぎてたまに他の人に匿ってもらったりしていたから、商人の顔を見つけた瞬間に貸切状態にしてくれたりする。

もちろん、その分お金は払うけどね。

ゆっくり食べられてありがたい。


「さあさあ、食べてちょうだい!」


目の前には溶けたチーズが下から火であぶられている。

横にはお肉や野菜、海老なんかが串に刺さって並べられて出された。


『ん~、良い香り!』


「食べましょう」


『ええ、いただきます』


「いただきます」


分厚いハムやウィンナーにチーズを付けて食べる。


「あちっ」

冷まさず食べて口の中を火傷しそうになる。

濃厚なチーズを頬張ると幸せでとろけそうになる。

食べ過ぎると飽きちゃうから、途中でサラダやパンを挟みながら食べていく。


『んー、美味しかったね』

チリルの言葉に賛同する。


「ほんと、トトトさん。美味しかったです」


「嬉しいわ、ありがとう」

皿を片づけながら嬉しそうに言うトトトさん。


「ねえ、ルーサちゃん。何か新しい料理ってないかしら?」


「新しい料理ですか」


「そう、体が温まるようなあつあつのチーズを食べさせてあげたいの」

ふうむ……。

新しいものって言われても……チーズ料理はたくさんあるからなあ。

あつあつのグラタンにかかったとろけたチーズ。

トマトソースで作る美味しいピザ。

お菓子にだって使えるレアチーズ。


けれど、どれもこのお店にある物だし……代わり映えがないなあ。





あ!




「じゃあ、ラクレットを作ってみませんか?」



私が昔テレビで見た、食べてみたい食べ物の一つを提案した。


もう少し「食」は続きます。

お付き合いください。

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