私の苦悩は……?
「んぐ……」
首をつかまれてそのまま持ち上げられる。
苦しい……。
チリルがおろして!やめて!と言いながらトンダの顔を叩いている。
審査員も慌てながら取り押さえようとするが微動だにしない。
「認めない。俺は認めないぞ。殺す、ぜってえ殺す」
徐々に力を入れて首を絞めてくる。
「やめ……」
意識が飛びそうになるのを必死に抑える。
――その瞬間いきなり手が離されて床へと落とされる。
同じくその時にトンダが倒れる。
後ろを見るとトレックさんの外エラが一つ伸びておりトンダの体に刺さっていた。
「すぐ抑えきれず申し訳ありません。彼は眠っていますよ」
トレックさんが謝罪をする。
軽く説明を受けると、彼らの外エラには幾つか毒があるそうだ。
麻痺、睡眠、幻覚、それぞれの毒を状況によって使い分けているという。
「ゲホッゲホッ……ハッハッ……ハァ……」
咳きこみながらも息をする。混乱したままトンダを睨みつける。
なんなんだ。この男は、逆恨みもいいところだ。
憎い。
『願います……この……この男に……罰を……』
途切れ途切れになりながらも神に乞う。
自分が罰を受けるとか、そんなことする必要はないなんて考えつかない。
今、この目の前にいる男が憎い、苦しめたい。
『罰を与えて!』
トンダの体が足先からどす黒く光り始める。
「ルーサさん、一体何を?」
『ルーサの特技、無限の願い。神によってあらゆる恩恵が受けられる能力。って私は聞いてる』
私の代わりにチリルが説明してくれる。
「罰を……ということは……トンダさんは神により罰せられるということかな?」
クマノミが問う。
『そうなるのかもしれません……がそれを行ったのはルーサです』
「きっかけを作ったのはトンダじゃ」
亀がフォローをする。
「まあ、とにかくトンダさんがどうなるかによるでしょう。流石に死んでしまうとなると……どうにかしなければいけませんが……ルーサさんキャンセルはできないのですか?」
首を横に振る。
一度願ったことは取り消せない。
「そうですか……では待ちましょう」
ゆっくりと体を蝕むように光の面積が増えていく。
そして、全てがおおわれた。
その時には呼吸も落ち着いていたが頭はパニックのままだった。
どうしよう、罰だなんて……。
何が起こるか分からない。神が決めるのか私の気持ちの大きさで決めるのか。
とにかくどうなるか分からない……。
泣きたくなる……結局私は全て中途半端なのだ……店を持つにしても旅をすると言っても、人の願いを叶えると言っても……全て中途半端だったんだ。
ああ……どうしよう……。
『大丈夫』
チリルが手を握ってくれる。
『ルーサは悪くないよ』
励ましてくれる。
「大丈夫……」
『私がいるよ』
「トンダさんが目覚めましたよ……」
イルカが呼びかけてくる。
その場にいた全員がホッとした。生きていた、と。
先ほどの件があるから遠くの方から様子を見る。
キョロキョロと辺りを見回したかと思うと腕をクロスにして手を胸に当てて叫んだ。
「きゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
……。
「え?」
一拍置いて声を出す。
「いやあああああああああああん!!!!ちょっとおおおおおおおおお!」
その間にも、トンダが叫ぶ。
裸の女が体を隠すような仕草をくねくねとしながら、乙女のような声を出して。
『ね、ねぇ、ルーサ……?この罰って……?』
「わかんないよ……」
一同が唖然としながらもトンダに近づく。
「あ、あの……トンダ……さん?」
亀が話しかける、ナイス勇気。
「ちょっと!話しかける前に服持ってきてちょうだい!こんな状態のままなんて嫌!」
どうやら裸を気にしていたらしい……とにかく服を出してあげて亀に渡すとそれをすぐに着る。
男物と女物で非常に迷った結果、ワンピースを出してみたらそのまま受け取ったみたいだ。
「……で……?トンダさん……?」
「なあに?」
こちらににこやかに笑顔を返してくれる。
「あなたの性別は……?」
「あら、いやね!!どこからどうみても女でしょう!?」
「そうですね、どこから見ても素敵な女性です、失礼いたしました。」
トレックさんが亀の質問に対して助け船を出す。
そして別の職員にアイコンタクトをする。
「いつから……女性ですか?」
亀は空気を読まずに質問を続ける。
「ずっとよ!生まれてこの方ずーっと女よ!なんなのよ、一体」
ぷりぷりと怒る女版トンダにまたもやトレックさんがフォローを入れてその場を宥める。
その間にずんずんとこちらにトンダが歩いてくる。
そして目の前に来て
「ルーサちゃん?ごめんなさいね、迷惑かけちゃって、どうしてこんなことしたのかあたしにも分からないんだけど……この間のお話は全て無かったことにしていただいていいかしら?
もちろんお金もお返しするわ」
そう言った。
「え、ええ……もちろん」
「良かった!じゃあ、私はこれで失礼するわ!」
お尻をくねくねぷりぷり振りながら出ていってしまった
「な……なんだったの……」
そうすると、遠くの方からまた声が聞こえてくる。
「とれっくさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああんんんんんんんん!」
先ほどアイコンタクトをされて出ていった職員だ。
羊皮紙を何枚か持ってきているようだ。
「はい、どうでしたか?」
「トンダさんに関わる全ての書類が女性に変更されています!!」
「そうですか」
パンパンッと手をたたくと皆に注目を集める。
「トンダさんは女性です。最初から女性です。いいですね?だからルーサさんのお咎めもないです。」
「え、いや、それは……」
「いいですね?」
「は、はい」
迫力に負けた。
「後ほど報告書をお送りしますので、今日はこの辺で終了と致します。」
ぞろぞろと部屋を出ていく。
役所の入り口の前ではククアドールさんが待っていてくれた。
「大丈夫でしたか?」
「え、ええ……」
「先ほど、トンダさんがお金を持ってきてくれて謝ってくれました。
これで全て水に流しましょう。彼女もどうしてあんな行動をしたのか不思議だったって首を傾げてましたわ。いつもははつらつとした元気な女性、どうしてこうなったのかしらね」
不思議そうな2人を見て何も言えない。
「ええ、そうですね……」
どっと疲れた。
「とにかく帰りましょう」
そうして勝負の日は終わりを迎えた。
その後の報告書に目を通すと、あの場にいた人だけがトンダが男だったと言う記憶を持っているらしい。
まとめると、だから今回のことは内緒ね!と書いてある。
余談だが、トレックさんに惚れたトンダさんが猛烈なアプローチを受けていると聞いた。
う~ん、まあ、紳士だしね……。
それから私は神様からの罰として1週間不意打ちで擽られるというお仕置きを受けた。
大通りを歩いているとき、食事中、睡眠中、あらゆる場面で擽られる。
いつくるか分からないものだからしんどい……。
とにかく、これで一件落着……?
明日からはお店をオープンしよう。




