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人魚の生き方  作者: 義昭
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お味はいかが?

「さて、まずその口の中の辛さを一掃してもらいましょう!」


冷たい牛乳を目の前に出す。


「これは採点に含めなくて結構です、ただ、辛い物を食べて口の中が麻痺したまま食べられて公平な判断が出来なくなるのを防ぐためですから」

ちらりとトンダを見ると唇を噛んで苦々しげにこちらを見ている。


その間に料理を仕上げる。


さあ、こちらです。

5人の前に出すのは卵とじうどん。


「話の前にまず食べてください。」


審査員が麺を啜る。


「ほぅ……」

「はぁ……」

「これは……」

それぞれに反応を示してくれる。


トレックさんだけは相変わらず無表情で食べ続ける。

全員が食べ終えるのを見て解説を始める。


「まず、だし醤油、昆布、厚削り本節、鰹節、煮干、塩、この材料でまずうどんのだしを作りました。

ここの調味料はどれも味がまろやかでうどんに合いました。

本来、私の知っている昆布は数時間、水に浸す必要があるのですが、ここにあるものはどれも10分ほどで丁度いいくらいになり、本当驚きましたよ。

それからうどんのだしに片栗粉を入れてとろみを軽く付けたあと円をかくようにとき卵を入れます。

軽く混ぜて麺の上にかけ、長ネギ、生姜を上にのせれば出来上がり、の簡単な料理です。」


「ふむ……」


「何故、この料理にしたのか教えてください。他にもいろいろと凝ったものや高価な料理を作れたのではないのですか?」

亀審査員が質問をしてくる。


「はい、実は――」


--


私が何にしようかと迷っていたときに、トンダが調理する以外(・・)の音が聞こえてきた。

表現しにくい小さな小さな不協和音。


耳をすませる。


亀の審査員は胃のあたり、トレックさんは喉……。

それぞれにほんの少しだが体調不良を訴える音が聞こえる。


これって確か……以前ローサさんが言っていたことを思い出す。


――音よ、音。どこが悪いかとかまでは分からないけれど、通常の人よりも変な音がするの――


――中身は20歳でも身体は1ヶ月だから。まだ使いこなせてないの――


そうか……これが他人の体の音。

良い気持ちがする音じゃないけれど、耳をすませなければ分からないほどに小さな音。


ローサさんはどこが悪いとかはっきり分からないと言っていたけれど

私にはわかる。

どの部分が悪いのか、音で教えてくれる。


それなら、体に良いものを作ろうじゃないか。


胃の消化がいい麺類はうどん。

喉の調子を良くするなら生姜。

体の内側からポカポカと暖かくなるような、幸せになれるような、そんな味を作りたい。


--

「――というわけです」


「ふうむ、なるほど」

返事に納得してくれたみたいだ。


「おい!不正だろ不正!」

横からトンダさんが叫ぶ


「何がですか」


「お互い能力とかなんとか使わねえって話だっただろ!おめぇのその音と聞くのは不正だっつってんだよおおおおおおおおおおお」

辺りのものを蹴り上げてこちらを指差す。


「不正じゃありません。だって聞こえてしまうんです。人魚はもともと耳が良い生き物ですから」

しれっと答える。


「だああああああああああらっしゃぁぁぁああああ!おめえぇに言ってねえんだよおおおおおおおおおおおお」


トレックさんが手をあげる。


「彼女は不正を行っておりません。聞こえてしまうものは仕方がありません。」


「ですって」

トンダは歯を食いしばりながらこちらを睨みつける。

やばいな、そろそろ我慢の限界になりそうか?


それからトンダの説明に入る。

彼が作った激辛ラーメンはとりあえず味の方はまずまずらしい。

ただし、油と辛さがつらすぎると。

鷹の爪など辛いものを大量に使っているようだ。

にんにくやニラもたくさん。

背油も高級な豚を使った、さらにチャーシューも油の部分たっぷり、これでまずいわけがねえ!と叫んでいたけれど、体調不良の人からすれば毒としか言いようがない。


もっと配分とか考えればそれなりにマニア受けしそうなラーメンにもなりそうなんだけどなあ。


「さて、結果発表を行います」


トレックさんが前に出てきて声を出す。


沈黙。


「勝者――ルーサ!」

まあ、当然だよね。あの辛いラーメンと卵うどんじゃ……。


何はともあれひと段落。


「ふぅ……」

無意識に小さく息を吐く。


『ルーサ、おめでとう』

チリルがお祝いの言葉を言う。


「ありがとう、チリルがいただけでもずいぶん心に余裕が出来たよ」


『んふふ、どういたしまして』


早く、ククアドールさんたちに伝えなければ。


「行こう、チリル!」

『うん』


細かいことは後で送られてくる報告書で見ればいい。

今は皆に少しでも早く伝えたい。


キッチンから出ようとした時だ。


「うううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅうぁぁぁぁあああがあぁぁぁ!!だらっしゃぁああぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!」

大きな……耳が潰れそうになるほどに大きな声がキッチン内に轟く。


キーンッ

声と耳鳴りで頭がくらくらする。

私しはその場にへたりこんでしまった。


「認めない、認めない、俺は認めない、そんなこと、認めない。」


動けない。


「認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めない、認めないいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!」


トンダが近づいてくる。

逃げなければ。やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばい。


「認めない」


目の前に立ちふさがるトンダ。


逃げなきゃ……。


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