★辛いものはお好き?
朝、目が覚めて身支度を整える。
チリルは腰よりも長いストレートロングの髪を丁寧に櫛で梳く。
彼女の容姿はとても人間らしい。違う所と言えば耳と足くらいだ。
耳の先は少し尖がっているし、足も足首から先はスキューバダイビングで使うフィンのようになっている。けれどもそれが、柔らかそうにゆらゆらと布のように靡く。
あ……羽があったんだっけ。
違和感がなくて忘れていたけれど、蝶のような綺麗な羽がある。
モルフォチョウのような綺麗な青色。
チリルの支度をじーっとみていると視線に気付いたのかこちらを見て笑う。
『そんなに見ないでよ、恥ずかしいわ』
はにかみながら笑うチリルを見て私も笑う。
正午までゆっくりと時間は流れていく。
「そろそろ行こうか」
立ち上がりポシェットを手に持ちチリルに声をかける。
『ええ、行きましょう』
すっと立ち上がると、私の肩に乗る。
目線をチリルに向けるとにこりと笑ってくれる。
心強い。さあ、行こう。
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「逃げずに来たようだな!」
案内されてキッチンへ入ると既に相手がたっていた。
腕を組みテーブルの上で仁王立ちになりこちらを見下している。
「トンダさん、そこは食品を置く場所です。早く降りたらどうですか?
それとも貴方が料理されたいんですか?」
馬鹿な挑発に乗るほど安くはないけれど、これくらいならいいだろう。
リィィィン――
正午の鐘がなる。
それを合図に私たちの前へとトレックさんが出てくる。
「正午になりました、試合を開始致します」
トレックさんは改めての自己紹介、それから審査員の名前紹介。
右から春の街代表、亀、ウーパールーパー、イルカ、クマノミだ。
なんでもありなんだなあ、この世界って。
とにかくトレックさんが今回の賭けの内容を再度確認し、相違がないかどうか聞いてくる。
「間違いありません。」
「それでいいぜ」
私たちが頷くと、トレックさんは大きな声で叫ぶ。
「それでは、ただいまより料理の内容を発表いたします!」
これで決まる。
ドキドキしてきた。
私の鼓動が速くなるのに合わせてチリルがギュウゥと手に力を入れる。
ああ、一人じゃない。大丈夫。落ち着いて深呼吸をしよう。
「料理の内容は麺です!麺を使った料理を作ってください!」
ええ……予想外。肉とか、魚、とかこの街を現した料理!とかそんなのを想像していたのに。
相手を見ると口に手を当てて考えている。
向こうも予想外って所か……。
「それでは始めてください。」
アイランド型のシステムキッチンに入る。
お互いのキッチンとキッチンの間には多種多様の食べ物が置かれている。
魚、肉、果物、野菜、香辛料や調味料、それから多くの乾麺。
「一から麺を作るほどの時間はありませんので、今回はこちらで幾つか用意させて頂きました」
なら別のテーマにすればいいのに……。
考えろ……何を作ればいいのか……。
相手はもう作り始めている。
相手の好みがわかれば一番いいんだけどなあ……。
トンダさんの調理する音だけが聞こえる。
!
分かった。
分かった!
聞こえた!
作る物が決まれば後は早い。
手早く材料を持って調理を始める。
「そんなに遅く開始でだあいじょうぶかぁ~?」
にやにやしながら話しかけてくる。
無視だ無視。
チリルがあっかんベーをして相手を挑発する。
「チリル、止めなよ」
『あいつ、むかつくんだもの』
ことことと煮込む。
トントンと切る。
音に合わせてチリルが踊る。
ちらりとトンダを見ると相手もまた何かを煮込んでいた。
けれど、酷く脂っぽい匂いがした。
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「完成したぞ、ほら、くえ!お前ら」
ひとあしさきに相手が作り終えた。
見ると背油たっぷりのラーメンだった。
審査員が食べ始める。
スープが見えない程の背油をよけるとそこは一面真っ赤に染まっていた。
一口すすると亀の審査員がむせ、ウーパールーパーが赤く湯気を出す。
どうやら唐辛子のようなものを入れたらしい。
激辛スープの次は麺、麺を一口すするとイルカは汗をかき、クマノミは水にダイブした。
発汗作用は抜群だなあ……。
こてこての油とめまいがしそうな程の激辛ラーメン……。
「どうだ!あんな奴よりぜってぇうめーだろ!あんなの食う必要ねーよ!もう俺の勝ちでいいだろ!」
『何勝手なこと言ってんのよ!』
チリルが反論する。
「ああ!?うっせーぞ!」
『なによ!』
「おまえ……!」
トンダが捕まえようと手を伸ばす。
その前にトレックさんが箸でその手を止める。
「妨害行為と見なし反則にしますよ。」
トンダは暫く固まったあと、チッと舌打ちをし自分の場所へと戻っていった。
さて、食べ終わったようですしこちらも最後の仕上げといきますか!




