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人魚の生き方  作者: 義昭
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私とチリル

たかが3日、されど3日。

怒涛のように時間は過ぎていった。


ククアドールさんたちは毎日私の家に来て謝罪をするし、

役所のマンボウからはちくちく言われる。

他の人は好奇な目で見てくる。

変な噂が立つくらいなら、自分から説明した方がいいと思って全部伝えたけど……。


「明日か……」

食材の詳細が書かれた分厚い本を閉じる。

これは、この世界にしかない食材をまとめた本。

もしも知らない食材を指定されたとき料理できないと困るから、図書館から借りて来た。


私のお店、2階は住居スペースになっている。

小さな窓から道を見下ろすと日も暮れたのにまだまだ通りは賑わっている。

たまに窓の近くを通る海蛇がしゅるしゅると街灯に巻きついては離れ、踊っている。

今日は水が澄んでいて夜でも月明かりで町が明るい。

ドールを手のひらサイズにしたような妖精が蝶のような羽をぱたぱたと動かして遊び回っている。

目がくるりとして髪を波に靡かせてはくすくすと笑う姿が可愛らしい。

ほとんどが透明な子たちばかりだけど、中には色のついている子たちもいる。


窓から妖精たちを見ていると一人の透明な子と目があった。

パチリとウィンクされる。

「可愛い……」

そう呟くと1人が窓へと近づいてきた。


トントンッ

窓をたたかれる。


鍵を外して窓を開けると窓に置いた小物入れに腰掛ける。

「こんにちは、今日は水が綺麗ですね」

妖精が家に来た時は追い出してはいけない。

おもてなし……って程でもないけれど迎え入れて歓迎するのだ。

海の神様の子供って扱いだから。


「キーッキキィ」

妖精は妖精の言葉がある。


「ごめんなさい、私、何を言っているのか分からないの」


なるほど、という顔をすると両手を組み合わせてグッと力を入れる。

ゆっくり手を話していくと手のひらには小さなピンクの珠。

それを差し出してくれる。


「キーキィキ」


「くれるの?」


大きく頷く。


「ありがとう」


手に取ったら、今度はそれを食べるようにとジェスチャーを受ける。


「食べるの?」


「キーキィキ!」


口に入れるとすぐに溶けてなくなった。

甘い甘ぁい綿菓子の味。


「美味しいわ、ありがとう」


『どういたしまして』

コロコロと鈴のような声でお礼が聞こえてきた。


「あれ?」


『聞こえた?』


「え、ええ……」


『それは、飴。食べると私たちの声が聞こえるようになる飴』

そんなのがあったのか。


『自分とフィーリングが合う人にだけ渡す大事な飴』


「そうなの?」


『そう、この飴をもらった人だけが私たちの声を聞けるの』


「じゃあ、他にも聞ける人がいるのね」


『もちろん。でもフィーリングが合う人ってなかなか居ないから、出会えてよかった。

私たちは私たちと共に生きる人を探している』


「……共に生きる?」


『そう、もちろん強制ではないけれど……一緒に居る人をみつけるの』


「それが私?」


『うん』


「そうかあ……私、何も持ってないし、何もしてあげられないよ?」


『そんなことは望んでない、ただ一緒にいるだけ』


「一緒に居て、それからどうなるの?」


『どうもならないよ、関係はいろいろ。仕事の補佐だったり、一緒に旅をする仲間だったり、そばにいるだけだったり……でもその関係は全て対等なの』

話が突拍子もない。


『私の名前は〈チリル〉。貴女が私と共に生きてくれるなら、貴女の名前を教えて』


「〈ルーサ〉……私の名前はルーサ」

口が勝手に動く。

伝えなければいけないという衝動が喉の奥からこみ上げてきて、無意識に名前を呟く。

名前を伝えた瞬間、チリルの足元から色が付いて行く。


『ルーサ、良い名前ね。一緒にいることを選んでくれてありがとう』


初めての仲間が出来た。


「あ、ええ、よろしく、チリル。」


『パートナーが出来ると私たちは色が付くの。透明な子はまだ見つかっていない子たち。

だから透明な私たちを見つけると皆挨拶をしに来るのよ。

妖精のパートナーが見つかるかもしれないからって』

そういってくすくす笑う。


それから2人は夜が更けても話続けた。

明日、勝負だと伝えるとチリルは慌てて私を寝室へ押し込み

『なんでもっと早く言わないの!さっさと寝るわよ、明日は大事な日なんでしょ!』

と私に怒った。


怒られるなんて何年振りだろうか……。

チリルは羽で体を覆うように小さくなり、その隣で一緒に寝始めた。


「おやすみ、チリル。」


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