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人魚の生き方  作者: 義昭
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私と覚悟

それから数時間、お店を閉めて一息つく。


「はぁ……自分で言い出したことだけど面倒くさいことになっちゃったなあ」

独り言を呟く。


カランコロン。

戸が開いたことを知らせる鐘の音。


ふっと顔をあげると入口にはククアドールさんとシルルさん。それから……ウーパールーパー?


「あっ、さっきはどうもありがとうございました。」

2人の姿を確認してお礼を言う。


「それで、そちらの方は?」


「こちらのかたは中央の役所の方。トレックさんですわ。」

シルルさんに紹介されてお辞儀をする。

頭の左右に3本ずつ外エラが付いておりその先が時折七色にちかちかと点滅する。


「はじめまして、ご紹介にあずかりましたトレックと申します。」

ぱくぱくと口が動く。

ウーパールーパーって小さいから可愛いんだな……。


「はじめまして、トレックさん。ルーサです。それで今回はどのような?」


「ええ、お店を賭けると聞きまして。ククアドール夫妻に呼ばれたのですよ」

ああ、そういえば役所の人に公平に判断してもらうと言ったんだっけ。


「ああ、そうでしたか。」


ええ、と返事をし、トレックさんは話を続ける。


「これから正式な文書を作ります。その確認の為にこちらへお伺いさせて頂きました。

作成した文書をもとにトンダさんの所へもお伺いし差異がないかを確認した上で、各街から審査員を選出致します。」


「なるほど、ではこちらへ」

そう言ってテーブルへ案内する。


後ろからククアドールさんたちが何度も何度も謝っていて胸が痛くなる。


「それでは……」

そう言って今日取り決めたことを伝えていく。

トレックさんはそれを紙に記入しメモしていく。


全部話し終えた後は再度4人で確認していく。


「では、こちらで宜しいでしょうか?」


「ええ、間違いありません。」

作られた文書を見て返事をする。


ククアドールさんも頷く。

シルルさんも頷くが……。


「ねえ、ルーサちゃん。もういいのよ。私たちが新しいお店を探すわ。だからこんなことやめてちょうだい……。奴隷なんてあんまりだわ……。」

目に涙を溜めながら話しかける。


トレックさんはこちらを見ながら

「やめるなら今だけです。」

そう言った。


けれど……。

「いいえ、やめませんよ。シルルさん、切っ掛けはなんであれここはもう私のお店。

私が決めたこと。気にやまないでください。

例え奴隷になったって私は生きていけます」


目を見てしっかりと伝える。


「あ……あああぁぁ……」

シルルさんはその場で泣き崩れてしまった。

けれど、それ以上反対の意見は出してこなかった。


ごめんね。


「ではこちらをトンダさんの方へ見せて了承し次第、正式な手続きを行います」


そう言って出来上がった書類を持ち上げる。

そこに書かれたルール。


1.ルーサのお店を賭けて料理対決を行う。

2.料理の内容は当日、中央の役所から発表される。それまでは秘密とする。

3.試合中、試合前、かかわらず妨害行為と見なされたものは即失格とする。

4.ルーサが負けた場合、お店をトンダへ譲渡する。その際、ルーサはトンダの奴隷とする。

(ルーサは奴隷紋をつけ、トンダの所有物となる)

5.トンダが負けた場合、お店を諦めてククアドール夫妻へ200万返金する。

6.試合結果がどうであれ、終わり次第関係者に接触することを禁ずる。

7.試合前にお互いが会うことを禁ずる。必要時は役所を仲介すること。

8.試合開始は3日後の正午より開始する。

9.お互い能力がある場合は使用不可とし、純粋に腕だけで勝負すること。


こんなもんかな。

私が奴隷になったとしても、トンダもククアドール夫妻も関わらないようにしてもらえればそれでいい。

これ以上何か見返りを求められたって私は助けられない立場になっているから。

まあ、負けないけれどね。


「それでは、こちらをトンダさんに見せに行ってきますね」

そう言ってトレックさんがたちあがり店から出ていく。


その後姿をただ見送るしかできなかった。

今ならやめてと言える。お店はいらないと言える。

誰だって怖いのだ。私だって怖い。

負ければ自分も奴隷になるのだから。


けれど、それはしない。

自分で言い出したことだから意地もあるけれど……。

隣で泣いているシルルさんたちを安心させたかった。

私を家族と言ってくれたこの2人を――。


暫くすると気泡が現れてパチンと弾けて声が聞こえる。

『トレックです。トンダさんが先ほどの内容で了承致しました。

試合開始は3日後の正午からとなります。場所は役所のキッチンをお貸しいたします。』


『分かりました』

そう伝えて気泡を送る。


「今のはトレックさんかい?」

ククアドールさんが聞いてくる。


「はい、先ほどの内容で大丈夫だそうです。3日後に役所のキッチンで勝負です」

泡の声は本人にしか聞こえない。

だから内容を2人へと伝える。


正式な勝負として受理された。

もう撤回は出来ない。


シルルさんの泣き声が一層大きくなる。


「大丈夫ですよ。私は負けませんから」

そう言ってシルルさんを抱きしめるしか出来ない自分が歯がゆい。

とにかく結果を出さなければ仕方がない。


3日後に備えて料理本を読みあさることにしよう。


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