私と偽家族
「泣きやんだ?」
「泣きやんだ。」
「やんだ、やんだ。」
魚たちが私の前で話し始めた。
「外を見て。」
外……?殻の外だろうか。
穴から外をのぞいてみるとターコイズブルーの海が広がっていた。
砂は白くどこまでも続いており
岩にはピンクや橙、薄紫など色とりどりのサンゴ。
小さな魚から大きな魚は見たこともない鮮やかな色をしている。
その魚たちと一緒に、人がいる。 人? いいや、人魚だ。
長い髪を水の流れに任せて、手に小さな魚たちを集めて岩に座っている。
海の中を覗いていると、一匹の魚に外に出るよう促された。
このままここにいても仕方がない。
私は徐々に殻に作った穴を広げていき、通れるほどの大きさにした。
穴が広がるにつれて、私の作った真珠が流れていく。
魚たちは私から離れない。
外に出れた。
でも、どう泳げばいいの……。
「大丈夫、泳げる泳げる。」
普通に足を出す感じでいいのかな。
踏み出すように、動かすと尻尾がクインと上下した。
押し出された私が前へと進む。
あぁ、これを繰り返すのか。
「見て。」
尻尾を上下左右に動かすことに夢中になっていると、魚にそう言われた。
目の前には人魚……と人……面魚……?
「君のお父さんと、お母さん」
魚が教えてくれる。
人魚は女性、ってことはお母さんか。
じゃあ、人面魚がお父さん……?
ほんとかーーー……。
いや、いいけど。
どうやってこの二人から生まれたの……私。
両親……目の前にいる人を見ても実感はないなぁ。
私を生んでくれたのは、死ぬ前の両親だから。
感極まった顔で私を見られても、義母のようにしか感じないや……。
申し訳ない……。
しかしお母さん、なかなか美人だな……。
腰まである髪は、蒲公英色を更に薄くしたような色で
日に当たるとキラキラと金髪のように輝いているし。
肌は透き通るような白だけど、病弱な感じではないし。
目も髪と同じ色で二重の大きな目だ。
綺麗より可愛らしい雰囲気だ。
とりあえず、整った顔立ちは私に遺伝されていることを願おう。
なんか、人魚って全体的に色が薄い感じがするなぁ……。
日に当たったら消えてしまいそうだ。
さて、お父さんだけれども……。
見事に人面魚、これぞ人面魚。
体は魚だけど、顔の部分は人の顔が張り付いている感じ。
なにこれ、お面?
はがせるの?
大きさは1メートルほどだけど、顔は人と同じくらいか。
体は……ベビーピンクの色だ。
問題の顔だが、これが普通にダンディーなおじさん。
なんか、勿体ないくらいダンディー。
爽やかなイケメンがいい感じに年をとっていったら
こういう雰囲気になるんだろうな、と思うくらいに優しげな笑顔だ。
でも体は魚。
惜しい。
いろいろと考えていると両親の元へ行っていた黄色の魚たちが戻ってきた。
「身付きだって言ってきたの。」
「言った言った。」
「驚いてた、驚いてたよ。」
「でも、喜んでた。」
「身付きは珍しいけど、縁起がいい子。」
ワクワクしたような声で3匹が次々と伝えてくる。
「早く、会いに行ってあげて。」
私は魚たちに髪を加えられて両親の元へと引っ張られて連れてかれる。
でも、話せないから軽くお辞儀をする。
頭をあげようとした瞬間、抱きしめられる。
腕があるから、母さんの方かな……?
母さんは、少しきつめに私を抱きしめて耳元で呟いた。
「どうして私の子が身付きなの……。」
その言葉は私を歓迎していないと理解するには十分だった。