魚の願い
役所と質屋に行ってから数カ月がたった。
あれからまた物々交換をしたり、願いを叶えたり、お金を集めるのに奮闘していた。
そんなある日……。
「ルーサちゃんはいるかな?」
私宛にお客さんがきたと女将が教えてくれた。
ここしばらくはずっと宿屋に住んでいたけれど、お客が訪ねてくるなんて珍しい。
「私がルーサです。」
「やあ、こんにちは。」
優雅に挨拶をしてくれたのはクエ。
綺麗な青色の目に真っ白な体。真っ赤なシルクハットをつけてなんだか見た目がおめでたい。
「こんにちは、ククアドールさん、今日は奥さんのシルルさんいらっしゃらないんですね。」
ククアドールさんは春の街に夫婦で飲食店を営んでいる。
この街では美味しいお店なのでよく通っているうちに店主のククアドールさんと仲良くなり、いろいろなレシピを教えあっていた。
「今日はどうしたんですか?こちらまで来るなんて珍しいですね」
そう言うと少し疲れた顔で、話があると切り出された。
ならば、と、女将に言って小さな小部屋を借りて話を進める。
「ルーサちゃん、いつか自分のお店を開きたって言っていたよね?」
この話を知っている人は少なくない。
雑談の中で話をしたり、女将と話したり、で中央部のほとんどの人がしっていると思う。
それにククアドールさんには早いうちに夢を話していて、応援してもらっていた。
「ええ、そうですが」
「実は……」
そう言って切り出された話はこうだ。
自分は春の街にお店を出している、しかしもう年で引退しようとしている。
引退をきっかけに他の街へと移住し余生をのんびりと過ごしたいと。
そこへ、北の街に住むある人が引っ越すのならお店をただでくれと言ってきた。
余りにもしつこいので、ルーサさんに格安でお譲りする約束になっていると言ってしまった。
とのことだった。
「そんな……」
「誠に勝手で申し訳ない。店を畳むこともずっと悩んでいた。
ルーサちゃんが来て、続けようかとも悩んだが子供もいないし、そろそろ2人でゆっくりしようかと、話をしていたんだ」
話は続く。
「もともとお店はルーサちゃんに譲るつもりだったんだ。良ければの話だったんだがね。
順序が逆になってしまい、申し訳ないのだが……どうか受けてはくれないだろうか?」
お店を譲ってもらえるなら、有難い話だ。
しかし、その文句を言ってきている人が気になる。
「そのただで欲しいと言っている人はなんて言ってるんですか?」
「それは、こちらで何とかする。ルーサちゃんに気持ち良く商売してもらえるように納めるさ」
うう~ん……。
お店を譲りたいって言っても……来て数カ月の私じゃ周りにも文句があるんではないだろか?
そう伝えると、時間なんて関係がない、私たちの気持ちが大事なんだと。
子供もいない私たちには、本当の子供のように思っていたんだ。そう教えてくれた。
「そんな……でも……」
「じゃあ、ルーサちゃんはあのお店を見ず知らずの人に渡してもいいのかい?
言いたくはないがあまり評判のいい人じゃないんだ。私は店がぼろぼろになっていく様子を見たくない。助けてくれないかな?」
ヒレをぱたぱた仰いで必死に訴えてくる。
「わっ……わかりました!でも、購入します!」
こんな時は勢いだ。
「お金なんて取るつもりはないよ、もらってくれるだけでいいんだ」
「いいえ、払います。お店をただでもらうなんてことはできません」
「いや、気持ちなんだ、受け取っておくれ」
「いいえ、駄目ですよ!」
「娘に物を渡すのにお金をもらったら罰があたるよ」
「そんなことないです、アクセサリーをあげるとはわけが違うんですよ!」
暫くこんな押し問答が続く。
「いいえ!ククアドールさんがこれからのんびりしたいなら、しっかりお金をもらうべきです。ただでもらうなんてことはできません。
この条件が飲めないなら、このお話はなかったことになります!」
そう訴えかけると折れてくれた。
ただし……と続いて
それからはどれくらいの費用で、いつ、などの細かい話をして一段落すると帰って行った。
「これで妻も喜ぶよ、ルーサちゃんなら安心だ。」
その一言がなんだか暖かくて嬉しかった。
何はともあれお店が手に入りそう。ちょっと不安要素はあるけれど……これから無事に開店準備が出来るかな?




