価値の理由
王冠は……放射状の王冠は金と宝石で作られたとても綺麗な一品。
病に倒れた妃を治したい王様が噂を聞きつけてルルーダ海までやってきたんだっけ。
自分からくるなんてってビックリしたなあ。
どんな名医に見せてもどんな薬を飲ませても一向に回復する気配がなく、どんどん生気を奪われていく妃を見ているのが辛いと泣いていたっけ。
愛する者たちを守れないなら王など意味がない、どうか治してくれ、って。
対価はこの王冠だと言った。
「愛する妃が病に倒れたから王冠を差し出すの?」と聞いたら民でも同じことをするだろう、と言った。
だから、その王様の居る国はみんな幸せなんだって。
「王冠なんてただの飾りだ」
そういってにこやかに笑って差し出してくれたもの。
もう一つの杖は……真っ白の木で作られた真白な杖、先端に小さな青いトパーズがはめ込まれている。
年老いた魔法使いがやってきて、新しい魔法を授かりたいってお願いしに来たんだっけ。
新しい魔法って言ってもこの世界にどんな魔法があるのか知らないと言ったら杖を取りだして見せてくれた。
それは、ダフィのように物を浮かせる力、相手の持ち物と自分の持ち物を交換する魔法、杖を一振りして花火を出したり、空の一部の天気を変えたり、空中に文字を書いたり……小さい頃、憧れていた魔法たちだった。
フィリッフ爺のような思い出を形にすることは出来ないみたいだった。
向き不向きがあるのか、出来ない魔法もあるのか……。
とにかく、何をあげればいいのか分からなかったから神様と相談して決めたんだ。
良い魔法を作りだす魔法。
簡単に言うと、悪いことをする魔法は作れないけど、良い魔法なら好きなものを作れますよーっていう魔法。
あとは魔法を見せてくれたお礼に新しい杖をあげた。
真っ黒の杖の先端に真っ白の真珠。
感謝の涙を流した時に真珠にしてもらった正真正銘魔法使いの涙。
杖をもった瞬間に今まで以上に体が軽くなりパワーが出てきた!と大喜びしていたっけ。
王冠と杖はこんな感じでもらったし、有名な人の持ち物だったから分かるけど……。
ボールペンって料理本に昔聞いた隠し味を記入するのにちょっと出してもらっただけのもだし。
「このペン、間違いじゃないですか?」
聞いてみるしかない。
「いいや、間違いじゃあないよ。王冠も杖も素晴らしい持ち物だ。
杖は持つだけで力が溢れてくる、世界中の魔法使いが欲するだろう。
王冠は権力の証、これだけじゃ何も価値はないけれど装飾や材料なんかは最高品質、それにあの民を思う王様の冠だ、それだけで価値があるよ。
そして、このペンだね?
僕たちは水中だから基本的に文字を書くには板や石を削ってつくるけど、紙に文字を書く人間にとっては画期的なものだろうね。
なんせ、インクをいちいち付けなくて済む、インクが滴り落ちてくることもない、均等な太さで文字が書ける、素晴らしいね。この一本を欲しがる人は大勢いるだろう。
解明されたら大金持ちだから。うまく行けば国が買える。くふふ
国!?
「じゃあ、この一本でお店開ける!?」
「お店って……食べ物屋さん……?いくらだい?」
「2000万は必要だって……さっき聞いた」
「この一本で2000万は無理だね、使えば価値のないがらくたと一緒だから。
それに他の使えない引き取り料もあるし。
このペンをうまく使えばそれだけ儲けられるかもしれないけど、食べ物屋さんするならそんな気ないでしょ?」
「うん、ないです」
ボールペンを売るなんて楽しくないなあ。
「でしょ、あ、ちょっと待ってね」
そう言ってカウンターの下から大量の紙を出した。
「これが全ての商品の買取額だよ。壊れたものとかは引き取り料、壊れてないけど価値のないものは安価かゼロで記入されているよ。
最後の下の欄に合計金額が書かれてるから見てみて。」
そう言って最後のページをちらりと見る。
総買い取り金額450万。
王冠が200万、杖が150万、ペンが90万程。
話を聞くと使い捨ての羽ペンが1本50円、鉛筆みたいな扱いかな。
普通に流通しているのは1000円、上を見だしたらきりがないけれど良いものを買おうとすると1万くらいはするらしい。
ペンは新発見だけれども、さっき言った通り一度使いきればがらくたになるから。
王冠は金1グラムで1000円、金が800グラムだから80万、プラス装飾や王の価値、付加価値120万。
まだ存命の王様だから仕方ないんだけどね。
杖も魔法使いも同じ理由。
他の魔法使いに売るならもっと高値になるみたいだけど、知り合いなんてほとんどいないし。
「450万……」
まだ少し荷物があるとはいえ、資金の1/4。
もともとほとんど価値がないと思って持ってきたから、前々大きい。
「どうする?」
「売るわ、私が持っている方が価値を下げちゃいそう。必要な人に売ってあげて」
「多分、この3つはどの質屋に持って言っても同じくらいだと思うよ。そこはこのお店の面子に賭けて保障しよう」
「そう、ありがとう。」
「即金でいいかな~?」
「お願いします」
下からカードを取りだした。
お得意様カード。
「良いものを持ってきてもらったからね、んふふ、これからも御贔屓にね」
受け取った後、お金も渡される。
大きなコインがたくさん。
水の中だし紙幣は余り流通はしていない、代わりにコインが多い。
大量にあるけど……まあポシェットに入れればいいか……。
「毎度ありがとうございます」
マルネルトが翼足を前に出してお辞儀をする。
「また来ます」
荷物はまだあるから、とりあえず今日はこれでお終い。
お店を後にして先ほどの宿屋へ戻る。
椅子の上に座りそっと写真の皆を眺める。
昔なら店を持つとか、何かを売って生計を立てるとか、今の生活なんて想像つかなかった。
でも昔と今では全ての状況が違うんだね。
皆、頑張るよ、私、忘れないから。
もっともっと先を見ていくよ。
一生懸命生きるからね。
そう思いながら写真を眺め……、握り締めて私は眠ってしまった。




