女の欲望
店を出てどこで寝ようかうろうろする。深夜だからあまり歩きまわりたくないんだけどなあ……。
「ちょっと!」
威勢良く声をかけてきたのはお姉さんたち。
あの後すぐ追いかけて来たのだろう、息が上がっている。
「どうも、先ほどぶりですね。どのようなご用件でしょうか?」
「さっきの言葉!どういう意味よ!」
「さっきとは?」
「聞こえてるって言葉!」
「ああ、怪我で仕事ができなくなったことを笑っていたこと?
それとも、人前で泣いていたことを嘲笑っていたこと?
お酒を飲むくらいなら、全財産と引き換えにその無駄に豊満なバストを突かせてあげてもいいといったこと?
ふふ、こういうと、まるで娼婦のようね。あなた」
唇を噛みしめて私を睨んでくる。別に誰にも言うつもりはないのに。
こうやって噛みついてくるから痛い目みるんだよ。
「しょ、娼婦ですって!!」
「あら、違うの?」
「私をあんな×××と一緒にしないで!あんな男なら金さえもらえれば誰にでも×××して×××するような×××と一緒になんて!」
「下品ね、あなた」
「私は男に体を売ったりしないわ!」
「そう、どうでもいいことだけれど。覚えておくわ」
「あんたなんかのような小娘に、なんでも知ってますみたいな澄ました顔されるといらいらするわ!」
「じゃあ、顔を見ないでちょうだい。結局何がしてほしいの?口止め?それとも願いを叶えてほしいの?」
「両方よ!」
結局認めちゃうんだから……。
今までそんなことを言ってよく願いが叶えてもらえると思うね……。
「ふぅ~ん……、じゃあ、願いの代わりに対価は準備出来るの?」
「良いパトロンを一晩貸してあげるわ!」
くだらない。
「いらない」
「なっ……彼はお金持ちよ!私のお店の女の子は彼の後ろ盾が欲しくて必死なのに!!」
「お金をもらって対価をあげたことなんてないわ。
私が一晩彼を借りるってことは、あなたはパトロンに私を売る。
私には恩を売る。自分はお金とパトロンからの信頼、私からは良い男をもらえる。
いい御商売ね」
「なによ!!」
「それに……私、あなたのこと気に入らないの。どんなに素敵な対価をもらっても願いを叶えてあげる気にはならないわ」
「おかしいわ!あの木偶の坊の手はタダで治していたじゃない!」
「木偶の坊……ああ、細工師のこと?」
「そうよ!」
ああ、そういえば対価をもらわなければね。
私が彼を治す気になった理由は、目の前のこの女。
艶やかな格好も、綺麗なスタイルも、大きな目も、あんな下品なことを口走ったと思うと気持ちが悪い夜の蛾。
硬貨の光に吸い寄せられてくる醜い蛾。
「ねえ、あなたのその格好、夜のお店で働いているのよね?」
「え、ええ……」
「お店では人気?」
「もちろんよ!No.2なのよ!」
すごいでしょ?と胸を張る。
「そう、あなたの魅力は何なのかしらね?」
「失礼ね。皆この胸が良いって言ってくれるわ。」
身体目当てなのね。誰も貴方を欲してくれない、可愛そうな人。
「じゃあ、細工師の対価をいただくわ。」
「え……?は?なんで私が?」
「私、あなたみたいな下品な人嫌いなんです。
人を見下して、馬鹿にして、ちょっと身体で媚を売ればホイホイ男は付いてくると思ってる馬鹿な女。
誰も貴方をみてくれていない、哀れな人。」
「なっ……」
「話はもういいわ」
やってやる!昔から一度は思ったこと!今ならなんの後腐れもなく出来る!
『願います!彼女の胸をAカップにしてください!!』
ボボンッ と彼女の胸元から音がする。
しゅるしゅるしゅると胸が縮んでいきまっ平らになっていく。
胸の部分の布が余って弛んでいるのが面白い。
「……?……
き、きゃああ!!も、戻しなさいよ!!!」
「あはは、嫌。今度私に会えたら願いを全て叶えてあげる。じゃあね」
そう言って足早にその場を去る。
自業自得とは言え、ちょっとやりすぎちゃった?ううん、そんなことない。
ああいうタイプは自分が苦しまなければ分からない。
その後、深夜にやっている宿屋を見つけて宿泊をする。
いつになく楽しい日だった。
一日を反芻しているうちに、瞼は落ち……ゆっくりと眠っていった。
ちなみに神様に、あれは悪事にはいらないのかとちょっとびくびくしながら聞くと
『面白かったからいいよ。』と言われた。
神様も暇なのかな?




