対価の価値
手渡されたのは2枚の写真。
「この貴女は実に良い笑顔をしているね、いつか今の貴女もそんな笑顔になれることを祈っているよ。
貴女はこうして過ごしている間も、泣きそうな顔をしているよ。」
声にならなかった。
ぽろぽろと涙が出た。
涙なんて生まれてきたとき、そして、ローサさんの家を出るときに出しつくしたと思ったのに。
その写真には私の家族の写真と、彼氏と友達とで映った私の写真だった。
家族みんなでお祝いした20歳の誕生日。
成人式で久しぶりにあった友達たちとみんなでお祝いした日。
その2枚には前世の私が写っていて、これから先の未来を信じて疑わない笑顔。
そうか……みんな、こんな顔だったね。
忘れてごめんね。
「あ……ありが……ありが……とう……」
声にならない。
感謝を伝えようと一所懸命声を出す。
うんうん、と頷きながらお爺さんは私を見ている。
「私はね、過去の記憶を形に出来るんだよ。それが私の魔法。
身付きは多かれ少なかれ前世に未練があるんじゃないかと思ってね。
特に貴女はとてもつらそうな顔をしている。
未練を断ち切れなんて酷なことは言わないよ。だが、もう少し前を向いてもいいんじゃないかと思ってね。
余計なお世話だったかな?」
ふふっと悪戯っ子のような顔で笑いかけてくれる。
ぶんぶんと音が鳴りそうなくらい勢いよく首を振り、その言葉を否定する。
そうだ、過去にしがみ付いていてはいけないんだ。
この2枚があれば、生きていける。
ようやく少し前を向ける。
この世界を……楽しめる気がする。
「お爺さん、ありがとう。これが対価の薬です。」
人魚の鱗と小瓶に入った菫色の液体と鶯色の液体、そして真っ白の液体と七色の液体を渡す。
菫色は孫の病気を治す薬。
鶯色は腰痛を治す薬。
真っ白は目を良くする薬。
そして、七色は若返りの薬。
「ひとつでいいよ」
「いいえ、対価を支払うんです。そういう約束でしたから」
「そうかい、ありがとう」
「ええ、こちらこそありがとう」
にこりと笑う。
「おやおや、今の貴女はとても素敵な笑顔だね。そうやって生きていきなさい。
必ず良いことがあるだろう」
「さあて、私は孫に薬をあげにいってくるよ。世話になったね。」
立ち上がり軽く伸びをすると私から離れていった。
「本当に、ありがとう!!」
大きな声でもう一度お礼を言うと軽く手をあげて答えてくれた。
良いお爺さんだった……本当に。
会えて良かった。
「さて、貴方たちはどうするの?」
いつの間にか周りに集まった野次馬たちに聞く。
そこからは願いを聞いてほしい人の列が夜まで途絶えなかった。
さあ、今日は新月だ。
2本の足を得て、1日限定、どこに行こう?




