隠していた本音
「ローサさん、ルンダさん……」
久しぶりに声をかける。
久しぶりに2人の目線が私を捕える。
「あの……」
怖い。
「その……」
黙って見つめられる。2人の間にはサルンサが無邪気に笑っている。
「えっと……」
泣きそうだ。
家族になって、なんて言わないから。
友達になりましょうと、宣言してくれた通りに私と友達でいてほしかった。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
サルンサが私に抱きつく。
その時に後ろに置いてあった荷物を見つけて
「どこに行くの?あたしも行く!!」
そう言ってギュウッと強くしがみついた。
「ルーサ……」
そう呼んだのはローサさんだ。
「あ……」
「行くのね。」
「その……」
「ごめんなさい」
深く深くお辞儀をする。
「ルーサ」
次に呼んだのはルンダさん。
「すまなかったね……辛い思いをさせてしまった」
ルンダさんもまた、謝罪をする。
お互いに余計なことは話さない。
決して嫌ったわけでもなく、決して誰かを恨んだわけでもなく。
彼らはただただ家族でいただけだから。
彼らもきっと接し方が分からなくなっただけなのだろう。
余計なことは言わない、聞かない。
けれど一言伝えたい。
「いえ……ごめんなさい……」
生まれてきて……。貴方たちの子供でなくて……。
「おねえ……ちゃん?」
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい――」
気付いた時にはもう泣いていた。
叫ぶように謝り続けた。
私がいなければ、この夫婦はきっと穏やかに暮らしていた。
それこそ、サルンサと過ごしていたような時間を。
ごめんなさい、ごめんなさい。
「おねえええちゃあああん……!!」
私の泣き声を聞いてサルンサも泣き始める。
優しい子だね。ありがとう。
深い深い青の真珠は旅たちの悲しさ。生まれた悲しさ。前世への未練。
濃い桃色は、ここまで一緒にいてくれた嬉しさ。
透き通るような白い真珠は、みんなへの感謝。
七色の真珠がゆるりゆるりと漂う部屋で全員が泣いていた。
誰かが悪いわけじゃないのは分かっているから、誰も恨まない。
ただ、この人たちのあるべき姿に戻すだけ。
「さようなら。」
そっと、サルンサを離して家を出る。
「ありがとう。」
2人の声が重なって聞こえる。
少し高めのローサさんの声と、低くて渋いルンダさんの声が重なるとそれだけで心地よい音になる。
「ありがとうございました。」
笑顔を向けて3人に向けて言い放つ。
サルンサだけはまだ大泣きしていて少し笑ってしまった。
「手紙……書きます。珍しい品も送ります。また……きます。」
「待っているよ」
最後はお互い笑顔で。
そして、16年間住んだ家を私は出た。




