私の休日
海中から外の海に出る洞窟へと進み、暫く進んでから水面へと顔を出す。
だいぶ進んだせいか、森は遠くの方に小さく見える。
後ろを向くと帆で進む大きな船がいた。
近づいてみようかな、大丈夫かな。
鼻から上だけを出してスススと近づく。
近くまで行って見上げるととても大きい。しっかりとした作りに細工や紋章まで完璧。
甲板からは威勢のいい声も聞こえる。
大きさに驚いていると船上から声がかかる。
「おい、お前!大丈夫か?こんな所で、島流しにでもされたのか?こんな子供がかわいそうに」
あ、そっか。
耳が同じだから人間だと思われているのか。
「大丈夫ですよ、ありがとう」
「大丈夫ったって……お前、海のど真ん中じゃねえか、早く船に上がってこい。陸まで送り届けてやっから。
今、縄梯子を下ろしてやっかんな」
鍛え上げられた肉体に、日焼けした肌、中年とは思えない程の体にくぎ付けになりながらお断りする。
「いいえ、本当に大丈夫ですよ。」
「大丈夫なもんかい」
良い人。
「私、こういうものです」
尻尾を出しながら笑顔で返す。
「おまっ、人魚か!」
その一言で甲板にいた船員が何人か集まってくる。
「人魚だって?」
「どこだ?」
「俺にも見せてくれ!」
「かーちゃんに自慢できる!」
様々な声が聞こえてきて噴出してしまう。
「こんにちは、船乗り皆さん」
挨拶するとそれぞれに返事をしてくれる。
「嬢ちゃん、耳が同じってこたあ、身付きか?」
「ええ、そうですよ」
おおおおーーーと大きな歓声があがる。
「身付きを拝められる日がくるたぁ、船乗りとして冥利に尽きるねぇ」
「おい、誰か船長を呼べ!」と年老いた船乗りが叫ぶと「へぃっ」と返事をして若い船乗りが走っていった。
すぐに50歳程の人が姿を現す。
「やあ、可愛らしいお嬢さん。私が船長のカルスだ。宜しく頼むよ」
穏やかな笑顔が似合う船長さん。
「こちらこそ宜しくね」
「今日はどうしたのかね?人魚が顔を出すなんて珍しい」
「いろいろな船や海の外を見たくて。」
「なるほど、好奇心が多いのは良いことだね」
「ええ……」
返事をしようとした瞬間若い船乗りの声に遮られる。
「せ、せ、船長おおおおおお!!!酒と水のタンクに穴があいて全部もれちまってます!!」
「何!?」
すぐさま険しい顔になり、渇を飛ばす。
「何故、出発前に確認をしない!お前のミスが航海の遅れになるのだ!
もう少し見つかるのが遅ければ戻ることもできなく、手遅れになったのだぞ!!」
怖い……。
「人魚のお嬢さん、私たちは急いで港へもどらねばなりません。
ゆっくり話をしたいのですが申し訳ないが、行かせてもらうよ」
「お前のせいで、人魚と話せなかったじゃないか!」
「俺、まだ姿すらみれてないのに!」
見えないところから怒号が聞こえてくる。
お兄さん、可愛そう。
「さあ、進路を変更しろ!港まで戻るぞ!」
「おう!」
一斉に返事をし、立ち上がる船乗りたち。
うーん……。
「船長さん、船長さん。戻らなくてもいいですよ。
私が水とお酒と新しいタンクを出しましょう。
代わりに対価を下さいな。」




