私は日本人
「私……家族がいたんです」
「友達も彼氏も……。みんなと仲良くて楽しくて……国でお祝いする20歳のイベントで久しぶりにあった友達とか、懐かしがりながら……みんなでワイワイして……」
「彼氏とも上手くいってて……まだ2年なんですけど……大事で、大切で、まだまだしたいことがたくさんあったんです」
「……死んだのは、自業自得なんですけどね」
ははっと笑いながらスナーシャさんを見る。
「ねえ、どうして笑うの?」
スナーシャさんがポツリという。泣いてもいいのだと。
でも私はそれに対して
「日本人だからですよ」
そう答えてまた、くしゃりと笑った。
…
……
………
……
…
それから少しだけ時間が進む。もう少しで日が暮れ始める。
帰らなくちゃ。
「あの……今日はありがとうございました。私、そろそろ帰ります」
結局今日は、商いの村しか見れなかったな……次はスナーシャさんのお店に来るのも兼ねて食の村を見にこようかな……。
「ああ、そう、送っていくからちょっと待っててね」
赤い光沢のある椅子から立ち上がると、店の鍵を取りだしてこちらを向いた。
「いえ、本当に大丈夫です。近いですから……」
これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「年上には甘えるものよ。私、こう見えても30歳超えてるんだから」
クラゲだと見た目で年齢が分からないから、驚いた。
けれど、えっへんと胸を張るスナーシャさんを見て嬉しくなってその言葉に甘えることにした。
「貴方の村はなんていう名前なの?」
「えーっと……トルジア村です。」
「トルジア村なら、確かに近いわね。」
トルジア村の横にラトト村、その横に食の村、その隣が商いの村だ。
食の村や商いの村は大きいけれど、人が住んでいる村は本当に小さなものだからちょっと歩けばすぐに隣につく。
それに、スナーシャさんのお店はラトト村の入り口近く。
本当にすぐなのだ。
それでも送ってくれるという申し出を今度はこちらからお願いする形で了承した。
帰り道。
ラトト村の人に挨拶をしながら家に着く。
「ここ、私の家です。本当にありがとうございました。」
頭を下げて最敬礼の形を取る。
「いいのよ、あんな顔でいたら誰だって同じことするわよ?」
笑いながら言ってくれる。
「それでね、ルーサちゃん。貴方私のお店でバイトしない?」
え?
「ちょうど人手も足りないし、貴方ならきっと上手くしてくれると思う」
「え?いや、今日会ったばかりですよ?」
「やあねえ、バイトの募集をかけて、面接したとしても初めはみんな初対面じゃない。一緒よ一緒!今日のあの時間が面接。」
それにしたって急じゃ……。
「あ、それとも何かすること決まってた?それならいいんだけど……」
「いいえ、特には……これからすることを決めるために今日ふらふらしてたんで」
「じゃあ、丁度いいじゃない、明日からお店においでなさい。したいことが見つかれば辞めてもいいしバイトしながらでもいいわ。決定ね!」
口腕でガッツポーズをとる。
意外と熱い人だ。
「えっと……じゃあ、明日からお願いします?」
「ええ、もちろん!貴方は今から私の喫茶店『メロディー』のスタッフよ。
来る時間は10時以降ならいつでもいいわ。
あいているときに来てちょうだい」
そういうと、じゃあね、と言って帰って行ってしまった。
帰っていく後ろ姿を見ながら、その気づかいに感謝した。
そしてもう一度、最敬礼をし家に入っていく。




